第13話 意外な好き嫌い

「先ほど…何故抱擁をなさってくれたのですか?」


「なんだか、とても不安そうだった。そういうとき、僕は母上に抱きしめてもらってたから…君のことも癒せるかなって。」


レドとミヒャエルは、話しながら訓練所へ向かっていた。


これまでは二人きりになる場面を少し嫌がられていたので、ご満悦の様子。


「その…ミヒャエル王子…」


「なんだい?何でも言ってごらん。」


優しく微笑むミヒャエルから、レドは顔を背ける。

気持ちに気づいてから、まともに顔が見れないのだ。


「先ほど、俺のことを嫌ってはいないと言ってくれましたが…理由は何故ですか?」


「嫌ってはいない…じゃなくて、好きなんだってば。まぁ、理由はたくさんあるよ。」


う~ん…とミヒャエルは考え込む。

候補がありすぎて、逆に難しいという奴だ。

長考の末、ミヒャエルは返事をする。


「例えば…男らしい。美しい。大真面目。鈍感。一途。かわいい。意外と好き嫌いが多いとことか?」


かなり数が多いので、レドは驚く。

それと共に、嬉しさと恥ずかしさも入り交じっていた。


「かわいいって何ですか!?それに、好き嫌いなど知っているはずがありません…」


「ブロッコリー嫌いだよね?あと苦い野菜全般。」


突然、忌むべき秘密を暴露されたため、レドは心の中で悶絶中。


それでも、悪意があって言ったわけではないだろう…と思い追及はしなかった。


だが、気がかりなことが。


「好き嫌いなんかより、俺がかわいいってどういうことですか!?そんな要素、一ミリもないでしょう!」


「僕はそう思ってるよ?そうやって、すぐに慌てて否定するとこ…初心なとこ…全部かわいいね。」


''かわいい''。人生で言われたことなんて、数えられるほどしかなかったレドは、この言葉への耐性がかなり薄かった。


照れているところを見られたくなくて、思わず顔を隠す。


ミヒャエルは、それを見逃さなかった。


「おや、レド殿…どうしたんだい?」


「なな…何でもないです!!ほら、皆も見てますから!」


騎士たちが、訓練所から二人に手を振っている。


「団長ー、遅いっすよ!実戦形式やるんで、相手してくださーい!」


レドは、笑顔で騎士たちの元へ走った。

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