第11話 恋愛対象

どうして…?

好きだって、言ってくれたのに。


「ミシェル…さん…ミシェルさん!!」


…ここは…ベッドの上?


夢を見て、うなされていたのか…

あんなにも苦い思い出…もう忘れたと思っていたのに。


「はぁ…はぁ…」


何故息切れしているんだ?

まるで泣いているようだ…


ぽろ…ぽろ…


頬に、冷たい雫が垂れてくるのがわかる。


「はは…騎士なら泣くなよな。もう二度と泣かないって、決めただろ?」


あの日、俺の初恋は打ち砕かれた。

断られたのがわかった後の記憶が無いのは、きっと自分を守るためだろう。


嫌なことを思い出したな…でも、全ては自分の弱さが招いた。

心身共に強くなれるよう、鍛練を積まねば…


「レド殿…何故泣いているんだい?」


「ミヒャエル王子…?」


涙のせいで、どこに居るのかはわからないが…

手を握ってくれていることだけはわかる。


「俺…倒れたのですか?見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ございません。」


「ああ、いきなりね。だから医務室に連れてきたんだ…それと、見苦しくなんかないよ?」


相変わらず、演技が上手いお人だな。

いきなり倒れた挙げ句、号泣してるとか見苦しいに決まってるじゃないか。


「何故泣いているのか、教えてごらん?悪夢は人に話すと楽になるんだよ…」


初恋の思い出など、誰にも話していない…

でも王子なら、きっとからかわないで聞いてくれる。話してみよう。


「その…初恋の夢でした。彼女は好きだと言ってくれたのに…駄目だったんです。何故かを聞いたはずなんですが、覚えていなくて…」


あぁ…涙が止まらない…

俺は、こんなにも傷ついていたのか。


自分の気持ちに嘘を吐き続け、忘れたふりを…

本当は、今でも彼女のことを愛しているのに。


「こっちにおいで…少しは癒せるかもしれない。」


え?まさかとは思うが抱擁?拒否しなければ…


「嫌ですよ!俺はおと…」


ぎゅう…


おおお王子!?本気ですか!?

王子の顎が、俺の頭の上にぃい…

とにかく離れないと!少し押してみるか…


ぐぐっ…


駄目だ、王子の力が強すぎる。

注意してみるか?


「あの…普通、好きでもない相手にこんなことをするのは駄目ですからね…?」


「ん?僕は君のこと好きだからいいんだよ。」


ドキッ


ま…また心臓が…

静かにしてくれ!王子に聞こえるだろ!


「心臓がドキドキしてる…少しは期待してもいいのかな?」


「そ…そんなこと、あるわけないでしょう!俺が王子に好意を抱くなんて…」


俺は同性愛者じゃない…はず。

ミシェルさんがいい例ではないか。


俺は彼女の人間性に惹かれ…待てよ?

人間性に惹かれてってことは、女性らしさを好きになったわけじゃないよな。


ということは、王子も対象内に…あっ。


カァァァ


「耳が赤くなってきてるけど…心当たりは?」


なでなで…


頭撫でるな!

今やられたら、なんかまずい気がする!


「な…何故でしょうかね…?」


すっごい見つめられてる。

王子の顔を直視できない。


「……まぁ、今はこのくらいにしとくよ。」


今は!?まだやられるのか!?

誰か…助けてくれ。

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