第10話 儚い思い出

ミヒャエルと父は、寝泊まりする部屋に向かっていた。


「騎士見習い君とは、仲良くなれたのかい?」


「はい…でも、僕は大きな嘘を吐いてしまいました…女の子だと間違えられたのをいいことに、本当の性別を…!」


罪悪感に襲われたミヒャエルは、泣きながら父に縋る。

それを優しく抱きしめ、父はこう問いかけた。


「それは良くなかったな。でも、悪意があったわけじゃないんだろう?」


「もちろんです!決して、レドさんを傷つけようなんて…ごめんなさい…」


ミヒャエルは強く頷き、訴える。

本当に、傷つけるつもりはなかったと。


しかし、言ってしまったことはどうにもできない。それを知る父は、こう諭した。


「謝るべきは私ではない。レド君だろう?明日、会う時間を作るから…その時にきちんと真実を話し、謝ってきなさい。」


「…父上ぇ…ありがとうございます…」


涙で濡れた目を擦り、決意した。


『絶対に、真実を伝える』


そう決めたのは、ミヒャエルだけではない。

レドもまた、そうであった。


「ミシェルさんに、気持ちを伝えるんだ…何があろうとも。」


今日1日過ごした中で、レドはミヒャエルに好意を抱くようになっていた。


まさか、同性だとは知らずに。

だが、レドの好意に偽りはなかった。


『たとえ何があったとしても、共にいたい。』


そう思うほどに…


次の日…


朝早くに、ミヒャエルは訓練所へ足を運んだ。

すでに訓練の準備をしていたレドに、声をかける。


「あの…レドさん!話があるんです。」


「ミ…ミシェルさん?こんな朝早く…でも、ちょうどよかったです!俺も話があって…少しだけ、場所を変えますね。」


笑顔で手を伸ばすレドに、ミヒャエルは少し心が痛んだ。


その手を取り、導かれるままに歩いて行くと…


小さな庭園にたどり着いた。

その庭園は、一面に花が咲き誇り、色とりどりの蝶が舞う…儚く美しい場所だった。


「すごく綺麗…!」


「ふふ…喜んでもらえて、とても嬉しいです!とっておきの休憩所なんだ。」


無邪気に蝶と戯れるミヒャエルに、レドは思わず微笑んだ。


その後ろで跪き、声をかける。


「ミシェルさん、こちらを向いていただけませんか?」


ミヒャエルが振り返ると、レドが手を伸ばしていた。

何かはわからないが、そこに手を置く。


レドは深呼吸して、話し始める。


「単刀直入に言います。ミシェルさん…あなたのことが好きです!」


「…え?」


ミヒャエルは驚きのあまり、体が硬直してしまった。頭の理解が追い付かない。


「ここ…婚約者とまではいかなくても!恋人とか…何て言うか…とにかく大好きです!」


レドは顔を赤くして、手を強く握った。

顔を赤くしながら、ミヒャエルも手を握り返す。


お互い、気持ちは一緒だったのだ。


「私も…レドさんのこと好きです。でも…でも…」


言うのが辛い。

ミヒャエルの顔は、涙で溢れていた。


「恋人になることは、きっとできません…」

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