第9話 嘘

気配を察知したレドに見つかってしまった。

しかし、何かがおかしいことに気づく。


「え…女の子?」


周りを見渡しても、女の子はどこにも居ない。


まさかとは思うが、自分のことなのか?

違うと言いたかったが、声が出ない。


「えっと…驚かせてすみません、レディ。今は騎士団の訓練中なのですが…迷いました?」


跪き、視線を合わせて話しかける。

女性と話す時はこうしなさいと教わったのだ。


「ち…違う!見に来たの…訓練…」


そもそも、なぜミヒャエルが女の子だと勘違いしたのだろうか?


その理由は、彼の容姿にあった。

結べるほどの髪。中性的な顔立ち。そして何より、レドよりも背が低いこと。


この時のレドは、まだ平均的な身長だったためなおさらだ。


現在は短髪だが、子供の時は好んで髪を伸ばしていて、小さく結んでいる。


「名前はなんとおっしゃりますか?あ、先に名乗るものだと母上に叱られたんだった…」


「大丈夫ですよ…ぼ…私は…ミシェル…」


自分だと思うから緊張するのだと考えたミヒャエルは、ここで嘘を吐いてしまう。


この嘘が、後に自身だけではなく…レドまでも苦しめることになるとは、思っていなかった。


「俺はレドです。ミシェルさん、訓練を見学しに来たんですよね!良ければ一緒に…」


「レドさんのお陰で、少し落ち着きました…ありがとうございます。では…ぜひ。」


ミヒャエルは立ち上がり、レドにエスコートされながら騎士たちの元へ向かった。


「お、ひよっこが戻って来た…って、その子は?」


「見学希望者です!なぜ茂みに居たかはわかりませんが…」


騎士たちはざわざわしだす。

女の子の見学希望者はかなり珍しい。


この国の歴史上、女性が騎士になったのはたった3度だけ。

訓練が厳しいというのもあるが、侍女や女官の方が待遇が良く、命の危険もない。


なので、女性にはあまり人気がないのだ。


「よし!それじゃ、おっちゃんたちの訓練見てろ!すげぇからな?」


「は…はい!ありがとうございます!」


その後、しばらく訓練を見学し、夕方になった頃…訓練は終了し、ミヒャエルの父が迎えに来た。


「あ、父上…レドさん、今日はありがとうございました!また、会えたらいいですね。」


そう言って、訓練所を去ろうとすると…

レドがミヒャエルの腕を掴んだ。


「ミシェルさん、俺とても楽しかったです…」


俯いていて、耳は真っ赤だった。

しかし、ミヒャエルは気づかない。


「レドさん、私も…ですよ?」


スッ…


レドの頬に触れ、顔をあげさせると、父の元へ走って行った。


「ミシェルさん…綺麗な人だったな…」


また会えると信じ、二人は明日へと想いを馳せた。

明日の出会いが…全てを変えるとも知らず。

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