第7話 卒倒

「俺は…剣が伴…侶…」


バタッ…


レドは風に吹かれた小枝のように、ミヒャエルに倒れ込んだ。


「ちょっと、レド殿!?大丈夫かい!?」


「団ちょーー!!」


その場の全員が、二人に駆け寄る。

ミヒャエル以外は、なぜ倒れたのかわかっていた。恥ずかしかったからだと。


「ミヒャエル王子、団長を医務室まで連れて行きますので…」


「いや、僕が連れていくよ。医務室の場所はわかるから大丈夫。」


そう言い、レドをお姫様抱っこするミヒャエル。

周りの騎士たちは、推しカップルを見る様な目で、それを見守っている。


そのまま訓練所から出ていこうとするミヒャエルに…


「あの…ミヒャエル王子!」


まるで乙女の様な瞳で、アレイが声を掛けた。


「団長は…俺らの指導で恋人とか居なくて…なので…幸せにしてやってください!!」


大真面目な表情で頭を下げるアレイに、その場の全員が吹き出す。

おい…そこまではっきり言うか?と。


「アレイ、妄想好きとは知ってたが…そこまではっきり言うなよ~!」


近くの者に小突かれるアレイ。

しかし、反撃に出た。


「だって、皆もそう思ってるでしょ!団長には幸せになってほしいって!」


「そりゃもちろん…俺たちも思ってたよ、アレイ。代弁してくれてありがとうな!」


何だかんだ、皆団長であるレドのことを慕っているのだ。

本人はそのことを知らないが、男女共通のファンクラブがあるほど。


「じゃあ、僕たちは医務室に行ってくるから…しっかり訓練するんだよ。」


「二人きりの時間、楽しんでくださいね~!」


訓練所の正面からすぐ左に、医務室がある。

それを、彼は知っていた。


まるで、幼い頃に訪れたことがあるかの様に…


医務室に着くと、一人の看護師が出迎えてくれた。


「団長様!それに、ミヒャエル王子かしら?」


「ああ、そうだよ。久しぶり…訓練所で、突然倒れたものだから連れてきたんだ。」


レドを奥のベッドに寝かし、看護師に診てもらう。

心臓の音を聞いて、ミヒャエルにその時の状況を尋ねる。


「あら…それは団長様が気の毒ね。少し刺激が強かったんじゃない?」


「僕は思い出してほしかったの。それと、振り向いてもらいたくて…」


寂しそうにレドを見つめるミヒャエルを見て、看護師はあることに気づいた。


「私ったら、お邪魔みたいねぇ。少し部屋を空けるから、団長様と一緒に居てちょうだい。」


「…ありがとう、サリーンさん。」


サリーンと呼ばれる看護師は、そのまま部屋を出ていった。


窓が空いていて、優しい風が吹く部屋の中…


ミヒャエルは幼い頃を思い出していた。

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