第3話 演技

「はい、手短に済ませますので…」


ハイター国王陛下…何かあったのか?

いつもなら女性を連れ込んでいて、自慢気に入れと言うはずだ。


いや、今はミヒャエル王子の視察もある。

それでピリピリしているんだな。


「失礼致しま…」


「やぁ、レド殿…約二時間ぶりだね。先ほどは十分に話せなかったから、少し話がしたい。」


フイッ…


まずい、思わず顔を逸らしてしまった。

いや…あんなことがあったのなら、逸らしても仕方がないのか?(一話参照)

しかし、あれは見定めだろう。

まさかここまで続いている!?


とにかく謝罪しないと…


「おや、警戒されているようだね。悲しいなぁ。」


ん?心なしか、笑顔が曇ったような…

いや、きっと演技だろう。

ここまで演技をするとは、さすが王子と言わざるを得ない。

王子なりの、処世術なのか。


「何だ、知り合いだったのか?様子がおかしいが…」


「い…いえ、先ほどは用事があって話を中断してしまったので、我ながら無礼を働いたと…」


よし、真実を話しながら大事なところは隠す。

いい作戦だ。

王子には、後で謝罪しよう。

この場でするには、少々危険すぎる。


「それで、用事は何だ?早くしろ、我は忙しい。」


「ミヒャエル王子から、騎士団に食物の差し入れがありまして…そのお礼を陛下にお願いしたいと思ったのですが、本人がいらっしゃるので俺から申し上げます。」


跪いて、頭を下げる…おかしくないよな?

騎士団の皆も喜んでいた。

これは素直に感謝せねばならない。


「ミヒャエル王子、この度はお気遣いいただき…誠に感謝致します。他の者も喜んでいました。クリスタに滞在中、何かできることは?」


「顔をあげてほしいな。そんなにも感謝されることではないよ。」


これがハイター陛下なら、何を言うかわかったものじゃない…

そもそも、差し入れなどしない。


はぁ…国王を代わってはくれないか…


いやいや、何を考えているのだ!

俺はこの国に忠誠を誓った騎士の一人。

裏切る様な思考はしない。


何かお礼をして、早めに切り上げたいところ…


「そうだね…では、君たちの訓練に参加させてもらってもいいかい?」


「もちろんで…え?」


今、なんて?訓練に参加?

ちょっと待ってくれ!俺もちろんって言っちゃったよ!


ていうか、隣国の王子が訓練に参加って…

やはり、こちらの状況を探っているのか!?


尚更いかんだろう。

陛下、何か言ってくれ…!


「ふっ…我が国の軍事力に、震え上がるがいいさ!さっさと行ってこい。許可する。」


駄目だ、この国王。

グレイハムの軍事力をわかっていないのか?

思わず頭を抱えてしまったぞ。


グレイハムは民の信頼、国の繁栄、世界的に見ても圧倒的な軍事力を兼ね備えている。


その気になれば、クリスタ王国なんて敵じゃないだろう。

気に障ることだけはしたくない…!


「ではレド殿、訓練所に連れていってくれないかな?国王の許しも得た訳だし…」


「…了解しました。では陛下、失礼します。」


仕方ない、とりあえず訓練所に案内しよう…

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