レストラン大盛況~大衆食堂のない町~




「お願いしたいことがある──」

 真剣な声に、私はどうしたのかと身構えた。

「……実は俺等の町に大衆食堂がねぇんだ」

「はい?」

 耳を疑う、あんなに大きい町なのに、大衆食堂が、ない?

「以前年老いた夫婦がやっていたんだが、その息子がロクでもなくてよ、食堂の金全部持ち出してどこかに逃げ出しやがったんだ」

 うわ、最悪。

「勿論アンタ達が滞在中だけで構わない、だからお願いだそのレストランとやらを町で開いてくれ」

 頭を下げて頼み込まれて私は紅き王をちらりと見る。

 紅き王は、かまわんぞ、みたいな顔をしている。

「滞在中でよければ……でも場所が……」

「場所なら心配すんな! その結果、老夫婦は大衆食堂を閉めちまって店も取り壊して空き地になってる‼」

「……わかりました、では町に戻りますので……」

 みんな嬉しそうな顔をしている。


 みんながレストランから出ると、私はレストランを仕舞い、紅き王に乗り町へと戻った。


 しばらくしてからギルドマスターさん達が戻ってきて空き地を見せてくれた。

「じゃあ、やってみますか」


「旅するレストラン!」


 そう言うとレストランが姿を現す。

「おお!」

「なんだ、すっげー!」

「どうなってるんだ?」

 町民も興味津々。

「大衆食堂のようなものです、よろしければどうぞ」

 そう言って好奇心旺盛な町民が入っていき、しばらくして興奮した顔で出てきてどんなに料理が美味くて安いかを語り出すと、他の町民も入って行く。

 客引きを少ししてからレストランに入ると一番偉そうなスタッフが声をかけてきた。

「オーナー、話さなければなりません」

「なんでしょうか」

「このレストランが同じ場所で開けるのは現状二ヶ月が限度です、別の場所で開いてそれなりの売り上げをしない限り、またここでレストランをするのは不可能です」

「え⁈ そういうスキルなの⁈」

「便利に見えたが制約もあったか。仕方ない、ギルドマスター共に話をつけてくるぞ」

「う、うん!」

 私は慌てて紅き王とギルドマスターさん達のところへ行った。


「なるほど、そんな制約が……」

「むぅやっかいだが、お嬢ちゃんには好都合かもしれんぞ」

「それはどういう……?」

「大衆食堂もない村や、大衆食堂が問題を抱えている町がこのクルディア王国にはいくつも点在している。お嬢ちゃんのその『れすとらん』とやらなら農民でも食える値段のものがある」

「はぁ……」

「国王陛下にお嬢ちゃんの事を伝えておくから明日までまっておいてくれ」

「分かりました」


 私はちょっと不安になりながらもレストランに戻った。


 夕食時、家族だけでなく、エルフやドワーフの冒険者なども料理を食べていた。

 皆美味しそうに口にしており、それを見てほっこりしつつ──


「かー! こんな酒精が高くて美味い酒は初めてじゃぁ、もっと持ってきてくれー!」

「こんな美味しい肉料理、はじめて! もっと持ってきて!」


 と、冒険者達がまぁ、すごい。

「お嬢さん」

「はい?」

 老夫婦が私に声をかけてくれた。

「ギルドマスターさんから聞いたよ、不定期的だけど、ここで大衆食堂……いやれすとらんをやってくれるってね」

「あの、もしかして……」

「ろくでもない息子に店の金を全部持ってかれた老夫婦、私達のことさ」

 しわしわな手が痛々しかった。

 笑っているのも痛々しい。

 そんな表情してほしくない。

「良かったらこの場所をくれたお礼に料理を食べていってくださいませんか⁈」

「そんな迷惑に……」

「迷惑なんかじゃありません!」

 私はそう言って老夫婦をレストランの中に案内した。

「私の客人だから料金はとらないでね」

「畏まりました、オーナー」

 スタッフがそう言うとメニューが渡され、しばらくするとAセットを選んだ。

 内容はポトフとサラダと、フライドポテトと、パン。

 パンはおかわり自由。

「おお、おお、なんて美味しいスープだ」

「この白パンも柔らかくて美味しい……」

「野菜も水水しくて、かかっているソースも絶品だ」

「このあげられた何か、ふらいどぽてとですかね、これもほくほくカリカリとしておいしいですよ」

 幸せそうに食べているのを見て、私も微笑ましくなる。


「うーん、もっと長い期間此処にいれられるようにならないかなぁ」

 私はそう言う。

「オーナー。もし長い期間滞在したいようであれば、レベルを上げるのがお勧めです」

「え」

「貴方のレベルに比例して、料理の質、食材の質、スタッフの量、滞在可能期間が増加していきます」

「よし、いいことを聞いたな、カズエ」

「は、はい! ところで、なんで名前を?」

 そういえば名乗ってないのに何で名前を知っているんだろう。

「お前のステータスを見たからだ」

「ほへー」

「とりあえず、明日肉を受け取りにいくぞ」

「はい! ところで紅き王、貴方はどこで休むんですか」

「二階に空き部屋があるのだろう、そこで寝させて貰う」

「あの……壊さないでくださいね」

「壊さん」

 私はびくびくしながらそう言うと、紅き王は何を言ってるんだ当然だろこいつって顔をしてきました。

 店の事はスタッフ達に任せて大丈夫なので、私はさっさと休むことにしました。


 翌日──


 何事もなく起きた。

 私が目覚めて一階に下りたら誰もいない──と思ったら誰か居た。

 いや、正確には瞬きした直後にスタッフ達が姿を現した。

「オーナーおはようございます」

「朝食をお作りしましょうか」

「あ、うん」

「何だ、メシか」

「オーナーのご友人、おはようございます。朝食をお作りしましょうか?」

「ああ、頼むできれば肉料理がいい」

「畏まりました」

「私和食で!」

「はい、畏まりました」

 少しすると食事が出てくる。

 納豆、白米ご飯、豆腐とわかめの味噌汁、漬物、焼き魚、だった。

 紅き王へはカツサンドとポトフだった。

「いただきます」

 私は納豆をかき混ぜタレを入れて、ご飯にのせて食べる。

 納豆嫌いな人いるけど私は好き。

 それから焼き魚や漬物、味噌汁に手を出しながら完食する。

「ごちそうさまでした」

「さっきからなんだそれは?」

「ああ、食事の前と後の挨拶みたいなもの、お祈りが近いかな」

「ああ、なるほど」

 紅き王は納得したようだった。

「じゃあ、お肉取りに行きましょう」

「そうだな」

 と、レストランをスタッフ達に任せてギルドへ向かう。

「おお、来たか。解体は全部済んでるぜ」

「有り難うございます!」

「うむ、よくやった褒めてやる」

 紅き王はそう言いながら私のアイテムボックスに肉をしまっていく。

「それにしても、お前の店の料理はうめぇな! 酒のうめぇし!」

「レストラン、ですから」

「その『れすとらん』ってのがわかんねぇんだよな。お前の世界のその『れすとらん』ってみんなこんな美味いもんだすのか?」

「さぁ、ただ私が思っているよりもいろんな料理が出ているので……」

「そうか……しかし馬鹿だよな、分からないスキルってだけで追い出して」

「ははは……」

 まぁ、おかげでうさんくさい王様達から逃げられたので万々歳である。


 同級生達は、うん、頑張って気づいて逃げてね!

 かばってくれなかったことは根に持ってるから遠くから祈っとくよ!


 関わりあんまりなかったけどそれくらいの慈悲の心はある。

「おお、カズエか。ちょうど良かった王宮から伝えることがある」

「な、なんでしょう」

 呼び出されて、ギルドマスター室へ向かう。

「我が国で自由にその『れすとらん』という大衆食堂を使っても良い、寧ろ使って欲しい。可能なら王都に来て欲しい。国内での活動は自由、貴族達や冒険者も手出しせぬように通達をする、とのことだ」

「よっしゃ自由だ!」

「まぁ、しばらくは此処で依頼をこなしながら店をやってくれると俺等は助かるぜ」

「はい!」

「カズエ、早く店に戻ってそのオーク肉の料理が食べたい」

「はいはい……」

 私はそう言うとギルドマスターさんに頭を下げて見せに戻った。

「オーナー、お帰りなさいませ」

「ただいまえっと……」

「店長とおよびください」

「店長さん、あのこのお肉で料理作って欲しいんですけど」

「畏まりました、シェフ!」

「はい!」

「了解!」

「任された!」

「おう!」

 シェフ達が肉を受け取るとその肉で何か作り始めた。

「わ、生姜焼き!」

 レストランで食べられるものではない?

 うーんわかんないや、でも食べられるなら食べちゃおう!

 でも……二足歩行の豚って美味しいのかな?

「美味い、美味いぞ!」

 紅き王が食べている。

 じゃあ大丈夫かと口にすると、ほどよい甘みの油と豚肉っぽい味が生姜焼きとマッチして美味しかった。

「おいしい」

 キャベツと合わせて食べるとまさに生姜焼き。

 これは白いご飯が進む!

「お腹いっぱい」

 けぷっと軽くげっぷが出る。

「おい、カズエ」

「ん?」

 店の扉の方を見ると人影が多数見える。

「えっと、開店してくれる?」

「畏まりました」

 スタッフが店の鍵を開けると次々と人が入ってきて、並んでいく。

「わぉ」

 見た感じ多くの人が冒険者っぽい。


「おおお、ここの店のメシはうめぇ!」

「昼まで待った甲斐があったぜ!」

「甘味も美味しいわ!」

「酒も美味いぞ!」

「こんな葡萄酒貴族様でも飲めねぇだろうよ!」


 いろんな事を言っている。

 私と紅き王はその場を去り、ギルドに依頼がないか向かう。


 少しでも、長く滞在できるような方法を知りたいから。






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