羽根

架橋 椋香

デカい羽根

「殺す」と呟いた。呟いただけだ。そもそも誰を殺したらいいか分からないし。部屋の中には俺しかいないし、誰も聞いてないから何も問題はない。


 ずっと、いつか女子高生になれると思って生きてきた。なれなかった。まあそんなもんだ。そんな感じだ。だいたい。タイ米。あっそういえば喉乾いた。


 ペットボトルに入れた水道水を一口、というか四口くらい飲んだ。


 高校卒業後、大学には進学できずに、浪人という名目で引きこもりになって2年経った。ごめん。何がだろうか。まあなんでもいい。そんなもんだし。


「ねえ、少年」


ふとそんな声が聴こえた気がした。よくあることだ。これくらいは。


「アニメ見ても授業中寝てそうな女の子しか好きになれないんだろ?」「でももうお前に『授業』なんてもんは無いんだろ?」「机の上に腕組んでそこに頭乗せてみると高校の休み時間の喧騒を思い出すんだろ?」「早弁してる誰かの弁当箱で発酵した白米の匂いが一瞬するんだろ?」「悲しくなって頭上げると薄暗い自分の部屋しか目に入らないんだろ?」「なあ」「聞いてんだよ」「おい」


 うわ何何なに何!?!?急にめっちゃ喋るやんけ、エグ、何?何なん?ビビったぁ。うわ怖。


「こっち見ろ」「テメェ」「お前だよ」「ビビってんじゃねえよ」


 てか口悪っ。最初の『ねえ、少年』のあやしげなお姉さん感どこいったんだよ。


「だから後ろ見ろって、少年」


 いや少年の部分だけ戻さんでも。


 後ろを見た。


 何もいなかった。


 えっ……。


 正直一瞬期待した。何か、何かがいて、ひょんなことから俺のところに現れて、俺の灰色の世界を巻き込んでぐちゃぐちゃにして、涼宮ナントカとか中原ナントカみたいに、俺を、俺を連れ出してくれるんじゃないかって……。


 この文章も始まったばっかだし……そろそろ何か起きてくれないとただニートが変な幻聴にマジレスして終わる意味不明な小説になっちゃうよ……。


 何だか疲れてるみたいだ……体力がなさすぎる……何もせず終わっていく1日1日に何も感じない自分に悲しくなる……「感情:なし」のコピペを思い出す……何だっけと思ってググる……正確には「感情、なし」だったっぽい……てかこいつら大人気おとなげなさすぎる……。


「てか急に『殺す』は無いよな」


 いやまだ居たぁぁぁぁぁぁぁぁ!激アツだろコレ!やっっっっっっっば!マジか、ありがとう!「殺す」についてはマジでごめんなさい!居るって気付いてなくて!ほんとゴメン!


「おうよ」


 ってかどちら様っすか?


「わたしは、お前の幻覚だよ」


 えっ……。


 正直一瞬期待した。何か、何かがいて、ひょんなことから俺のところに現れて、俺の灰色の世界を巻き込んでぐちゃぐちゃにして、涼宮ナントカとか中原ナントカみたいに、俺を、俺を連れ出してくれるんじゃないかって……。


「ってのは嘘で普通に地縛霊でーす」


 えっ……。


 ええええ地縛霊っオバケオバケオバケオバケ除霊除霊除霊除霊!!、!ヤバヤバヤバヤバ怖っ退居退居退居退居っ!!!!


「あ……」


 まあ冗談だけど。


「は?お前殺すからなマジで」「呪うわ」


 ははははいやいやすまんすまん、仕返ししたくて。


「いやマジで呪うから」「わたしお前の先祖に殺された恨みで地縛霊になったんだよね」「タイミング伺ってたけど丁度いい」「殺します」


 ……マジ?


「いや流石に冗談」


 キターーーー!!!!




【この人たちノリが陽キャ過ぎる……結局お前らいじめっ子になりたかったのになれなかっただけじゃん……ただ腕力が無いだけなのに何「僕は人を傷つけない善良な人間です」みたいな顔してんだよ……】


 いや俺は普通に虐めてましたが……。


「わたしも……」

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羽根 架橋 椋香 @mukunokinokaori

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