第7話
※第7話の内容は今後若干の修正が入る可能性があります。ただ、大きく内容が変わるわけではありませんのでご安心ください。
また、矛盾している点や誤字などの問題がありましたら教えていただけると幸いです。
「杏奈さん!」
優希は部屋に戻り杏奈の名前を呼んだが、すぐに杏奈がお義母と出かけていたことを思い出した。
優希はがっかりしながらトボトボと明代さんのところに戻る。
明代さんは優希と話すために使っていたテーブルとイスを片付けようとしているところだった。
「あれ?優希くん、杏奈ちゃんと話してくるんじゃなかったの?」
「杏奈さん、お義母さんと出かけているの忘れてました。」
「杏奈ちゃんが…、恵美(えみ)さんと…。そんなことあるわけ、なんで…?」
「ん?明代さん?」
明代さんは表情を曇らせていたが、優希が話しかけるとすぐに明るい顔で顔を上げた。
「ううん!なんでもないの!でも、お話ができないならもう私と少し話す?今日は涼しくて気持ち良いと思うの。」
「はい、ぜひそうさせてください。」
椅子に座ると、明代はすぐに杏奈の話を始めた。
明代は杏奈の昔話や自慢話を本当にうれしそうに話し、それを聞いている優希は暖かい気持ちになるのと同時に杏奈と話したい気持ちが強くなった。
数時間後…
明代との話を終えた優希は、部屋で杏奈を待っていた。
ガチャ…
「ふー、疲れた。」
杏奈が疲れた様子で部屋に入ってくる。
優希は素早く立ち上がって杏奈の荷物を持つ。
「お帰りなさい。お疲れ様でした。」
「何?ニヤニヤして気持ち悪い…。」
「いいえ、なんでも…。ちょっとお話しませんか?」
「またそれ?私疲れてるんだけど…」
優希はそう言う杏奈の肩を優しく抑え、杏奈を座らせた。
「な、何よ…」
「肩揉みましょうか?結構うまいんですよ、僕。」
「何?本当にどうしたの?」
「媚を売りたいわけじゃないんですよ。ただ明代さんといろいろ話したので…」
明代から話を聞いたというと、杏奈はギョッとした様子で振り返った。
「え!明代さんから何を聞いたの!?」
「聞いたというか、元義両親のことを話したんです。その、自分の身勝手さに気付かされたというか…」
「あぁ、その話ね。いいのよ、私もそのことは明代さんと話したから。私も一方的に反対して悪かったわね。」
優希は杏奈の肩を揉みながら仰天した。
どうやって謝罪しようと考えていたのに、まさか杏奈さんが先に謝罪をするとは、
「あ、あの…」
「あぁー、気持ちぃ〜。優希本当にうまいわね。どこかで練習したの?」
「練習なんてしてないですよ、ただうまいだけです。…僕の方こそすみませんでした、会いに行ったりしませんから、杏奈さんといますから…」
「変なこと言わないでよ、結婚しているのよ?私たち…」
「ですね、」
それからしばらく、優希と杏奈は前よりも少しだけ仲良くなった。
少しずつではあるが会話も増えていき、2週間も経つ頃には鈴野家の人間も2人が変わり始めていることを感じていた。
子作りの方は全く進んではいなかったが…
………
「優希くん!杏奈ちゃん!明日はついにお食事会よ!心の準備はできてる?」
「もちろんです。大丈夫よね、優希?」
「大丈夫、というか僕は特に何をするか聞いていないんですけど…」
明代さんと杏奈さんは準備万端という顔をしているが、優希は食事会というもので自分がどんな動きをすれば良いかまるでわかっていなかった。
そんな優希に明代さんが優しく話す。
「実はね、優希くんは特にすることもないのよ。昔はお手伝いさんが少なかったからお婿さんやお嫁さんが手伝っていたこともあったんだけど、今はそんな必要もないからね。次期当主の夫としてドンと構えていれば良いのよ。」
「なるほど、そういうものなんですね…。
優希は杏奈の親戚に初めて会うことで少し緊張していたが、明代さんの言葉を聞いて少し落ち着いた。
次の日…
※ここから複数の人物が登場しますが、特に人物を覚える必要はないので、『こんな人もいるんだ〜』くらいの気持ちで読んでいただけると嬉しいです。
「おっはようございまーす!」
最初に家にやってきたのは三女の静子(しずこ)だ。
年齢は義母の7つ下で42歳。家に入った途端明るい雰囲気が感じられ、初めて見た時は明代に少し似ていると思ったものだ。
静子には蓮(れん)という21歳の息子がおり、彼は大学3年生、物静かな印象だった。
「全く、本当に騒々しいわね。静子は…」
「はん!別にあんたに会いにきたわけじゃないわよ。私は明代さんに会いにきたようなもんだから!明代さーん、元気〜?」
そう言って静子は明代に抱きつく。
とても懐いているようで、まるで明代さんの方が実の姉のようだった。
「おい、どけよ静子。」
静子とほぼ同時にやってきたのは長男の拓実(たくみ)だ。
年齢は義母の5つ下で44歳。25歳になる悠雅(ゆうが)という息子さんも一緒に来ており、その悠雅も小さな子どもを抱いている。
優希は第一印象から口調や表情に性格の悪さが滲み出ている拓実と悠雅とは仲良くなれないと思った。
優希自身も人を第一印象で判断してはいけないことくらいはわかっていたが、そんな優希でさえ距離を置きたいと思ってしまうほど拓実と悠雅の印象は悪かったのだ。
「チッ…」
義母がその場にいる全員に聞こえるようにはっきりと舌打ちをした。
『お前の顔なんて見たくないんだよ』義母の顔にはそう書いてある。
拓実はなぜだか勝ち誇ったような顔をしてニヤニヤしており、悠雅の方は優希を睨みつけてきた。
初対面でこれか、やっぱり仲良くできないな…、
悠雅の態度で優希はそう確信した。
数分後…
しばらくして、みんな一緒と言わんばかりに入ってきたのは次男の賢治(けんじ)・三男の武蔵(むさし)・四男の太郎(たろう)だ。
それぞれ奥さんと子どもを連れており、みんな仲良さそうに話しながら入ってくる。※人数が多いので、今後機会があればじっくり解説します。
「おぉー姉ちゃんたち。ごめんごめん、ちょっと遅れちまった。」
「いやーどうせならみんなで一緒に歩いて行こうってことになってさ、おっ!君が杏奈ちゃんの夫か、結構がっしりしているんだな。後で腕相撲やろう!」
太郎さんが挨拶をした優希を見て話す。
「あぁ、はい。太郎さんもすごい筋肉ですね。鍛えているんですか?」
「いや、特に鍛えてるわけじゃないが、大工をやっているからな。ちなみに四男なのになんで名前が太郎なんだって思っただろう?俺も理由は知らん。あっはっは!」
聞いてもいないことに勝手に答えて豪快に笑う。
優希はそんな太郎に良い印象を持っていた。
最後に来た賢治・武蔵・太郎の家族の雰囲気はまさに良い親戚という感じで、優希は懐かしい気持ちになった。
途中までは親戚全員が仲が悪かったらどうしようと思っていたが、少なくても全員が仲が悪いわけではなかったようなので心底安心した。
………
「みんな、今日は集まってくれてありがとう。蓮美(はすみ)はこれなかったみたいだけど、他の親戚は全員揃っているから話を進めるわね。」
※蓮美は次女で、年齢は義母の3つ下で46歳。鈴野家の中で唯一他の家に嫁いでおり、現在は北海道に住んでいる。
義母は小さく咳払いをすると、続けて話し始めた。
「まず、当主の第1候補だった杏奈がこのたび結婚をしました。これにより、正式に杏奈を次期当主に決定し、引き継ぎの方を行なっていきます。特に異論がなければ…」
「あるね。俺は断固反対する。」
義母の話を長男の拓実が遮り、続けて話し始める。
そこからは食事も始めっていないと言うのに、真っ向から意見が対立している2人の口論が始まった。
他の親戚はため息をつきながら顔を見合わせている。
すると、近くに座っていた太郎さんの奥さんが小さな声で話しかけてきた。
「優希さん、だっけ?悪いんだけど、明代さんを呼んできてくれない?」
「明代さんを?なぜですか?」
「こういう言い争いを終わらせることができるのは明代さんだけだから…、早くご飯も食べたいし…」
「わかりました、行ってきます。」
そう言うと、優希は静かに部屋の外に出る。
本音を言うと、こういった状況は優希も好きではなかったため、太郎さんの奥さんの提案はありがたかった。
廊下に出て壁に寄りかかり、深いため息をつくと、ちょうど明代さんが料理を持ってきているところだった。
「優希くん。何をしているの?」
「明代さん。なんだか口論が始まっちゃって。明代さんを呼んでくるように言われたところです。」
「あぁ、やっぱりそうなるのね…。わかった、私に任せて。」
優希が明代にお礼を言おうとすると、他のお手伝いさんがやってきて明代に話しかけた。
「明代さん、いいんですか?今入っていったら時間かかっちゃいますよ?夜の分のお寿司も取りに行かないと…」
「あっ…、そうだった…」
「あの、明代さん。良ければ僕がいきましょうか?僕は特にやることもないと思いますし、場所も分かりますので…」
「え?いや、優希くんは今日の主役みたいなものだし、そんな…、いや、やっぱりお願いしようかしら。車で行けばすぐだし…、悪いんだけどお願いできる?」
「もちろんです、すぐに行ってきます。」
優希はどうしてもこのギスギスしている状況から逃げ出したかったため、急いで家を出た。
お寿司屋さんは鈴野家から車で行けば10分くらいで着くため、そこまで遠いと言うわけではない。
ただ、すぐに家に着いてしまうのを優希はためらってしまい、少し遠回りをして帰ることにした。
へぇ〜、こっち側はこんな感じの雰囲気なんだな…
優希は通ったことのない道を車で徐行していた。近所といえば近所だが、今まで来たことがない場所でまるで探検するような気分になる。
でも自動車の工場があるせいか、少し離れている場所でもそれなりに家があるんだな…。施設で昔の写真を見せてもらったことがあるけど、それに比べれば随分と…
うわっ!!
優希は子どもが突然飛び出してきたことで、急ブレーキをかけた。
飛び出してきたのは女の子で、驚いて車から降りた優希に怯えるような様子で家の庭に走って戻ってしまった。家の塀の後ろに体を隠し、怯えたように優希を見ている。
「あぁ、ごめんね。怒っているわけじゃないんだよ?ただ、怪我していないか気になって…大丈夫?」
小さな女の子は黙って頷く。
2歳か3歳くらいだろうか?可愛らしい顔をしているが、近くで見ると髪はボサボサでフケも着いている。
服はボロボロと言うわけじゃないが、数日洗濯していないような感じで若干不潔に見える。
ちょっと変じゃないか?え?虐待?
優希はすぐにそう感じた。
「ねぇ、お名前はなんて言うのかな?」
少女は答えない。俯いて少し怯えているような様子だ。
優希が距離を置いてどうしようかと考えていると、少女はトボトボと家の窓の方に歩いていく。
家に入らないのか?と見ていると、その少女は突然しゃがみ込んで草を口に入れ始めた。
「ちょ、ちょっとちょっと!何してるの!?」
「ひぇ…」
少女は完全に怯えており、泣きそうな表情になった。
「あぁ、ごめんごめん!怖くないよ〜、なんで草を食べているのかな〜と思って…」
「お腹…しゅいた…」
少女はさっきよりも小さくなりながら俯いて答える。
「そん、いや、どうすれば良いんだ…」
そう言いながら優希がキョロキョロしていると、玄関の近くにある表札が目に入った。
そこには上品な感じで『鈴野』と書いてある。
「は?鈴野?」
鈴野って杏奈さんの親戚以外でいたか?いや、親戚は蓮美さんっていう人以外は近くに住んでいると明代さんが言っていた。
じゃあやっぱり…
いやいや、結論を急ぐな!この子どもがそもそも鈴野家に関わりがない可能性だってある。変に動けば誘拐犯扱いされる恐れだってあるんだ。
優希はぐるぐると考えを巡らせていたが、ふとした瞬間に優希をじっと見ていた少女の首にロケットがかかっていることに気がついた。そのロケットは明らかに古いもので、中の写真が見えかけている。
「ちょっと、そのロケット見せてくれるかな?」
「いー…」
「いやかな?ちょっと見たいだけなんだよ。とったりしないよ?」
「…いいよ…」
少女はロケットを開けて優希に見せてくる。今までは怯えているような顔をしていたが、ロケットを見せるときには少しだけ嬉しそうだ。
中には、おそらく赤ちゃんの時の少女と母親・父親と思われる人物が映っている。
母親は誰かわからなかったが、父親はすぐに誰かわかった。今日、優希を睨みつけてきた悠雅だ。
状況をある程度察した優希は窓の中を覗き込む。家の中にも写真が飾られているのが目に入り、少女の写真はないものの、悠雅の写真とロケットに入っている母親と思われる女性の写真があるのは確認できた。
「なるほど…そういうことね…」
「これお母しゃん…」
「そう、大事に持っておくんだよ…、ねぇ、お父さんは今僕のお家にいるんだけど、一緒に行くかい?美味しいご飯もあるんだけど…」
「ご飯?…行く…」
少女はお父さんというキーワードよりも美味しいご飯という言葉に興味を示し、知らない大人に着いていくと言っている。
優希は保護するためとはいえ、誘拐犯が使いそうなテンプレワードを使っていることに変な罪悪感を覚えていたが、少女の様子を見て拓実と悠雅にとてつもない怒りが湧いたことでそんな気持ちも吹き飛んだ。
「よし、行こうね。」
「うん、いく…。いい?」
「ん?もちろん、いいんだよ…」
数分後…
家についた優希は少女を抱え、食事会をしていた大きな部屋に入っていった。
急に子どもを抱き抱えている優希が入ってきたことで全員の視線が一気に優希に集まる。
「は?なんで花と杏奈が一緒にいるんだよ?」
悠雅が不満そうに言葉を漏らす。
「うん、今のでよくわかったよ。明代さん、この子をお風呂に入れてあげてください。」
「え?いや、この子は?」
「後でお話しします。お風呂の後はアレルギーを確かめてからご飯を食べさせましょう。随分とお腹が減っているようですから…」
「え?あっ、はい!」
明代はすぐに少女を抱き抱えると、パタパタとお風呂に走っていった。
そんな様子を見て優希の近くに座っていた拓実が不満そうな顔をして立ち上がる。
「おい、なんでお前が俺の孫と一緒に来るんだ?説明しろ。」
「お前と話すことはないよ。黙って座ってろ…」
優希は拓実の方を強く抑えると、半ば無理やり座らせた。
鍛えている優希にとって、細身な体型をしている40代の拓実を力で押さえつけるのは簡単なことだった。
「おい、悠雅っていったかな?あの女の子はお前の娘で間違いないの?」
優希は周りの人を押し除けるように悠雅の前に座り、顔を近づけて話す。
悠雅は髪を染めて強そうに振る舞っているつもりかもしれないが、怒りでほとんど我を忘れている優希にとって、体型は拓実と同じで細身、背も優希よりも小さい悠雅を恐れるようなことはなかった。
「は?いや…娘は娘だけど…」
「ボソボソ喋るな。お前の娘で間違いないかと聞いているんだ。どうなんだ?」
「娘だよ、今日は家で留守番をさせてたんだ。文句あるかよ。」
悠雅は目を逸らせながら強気で答える。
「あの子は草を食べようとしていたんだぞ?フケも着いているし、服も洗濯していない様子だったけど、お前虐待しているんじゃないだろうな?」
「虐待?変な言いがかりつけるなよ…そんなつもりは…」
「ボソボソ喋るな!どうなんだ!?」
優希が怒鳴ったその時、お手伝いさんの1人が焦った様子で部屋に飛び込んできた。
「あのっ!あっ…すみません、あの、あの女の子、体にいくつも痣があって…、病院とかは…」
その言葉を聞いて優希は無理やり笑顔を作ると、お手伝いさんを見て言った。
「そうですか、とりあえず優しくお風呂に入れて様子を見ましょう。お願いしますね…、」
「はい、わかりました!」
お手伝いさんが走ってお風呂に戻る。
「決まりだな、お前はあの子を虐待していた。」
「虐待!?そんなつもりは…うっ、ぐっ…」
「本当になんでなんだろうね、なんでわざわざお前みたいなやつのところに…」
悠雅が話し終える前に、優希は悠雅胸ぐらを掴んで思い切り壁に押し付けた。
悠雅は苦しそうに息を漏らしたが、壁に押し付けられている力が強すぎて話せなくなり、苦しそうにもがいていた。
「ちょっと!?優希!?」
「優希くん!やめるんだ!」
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