第6話

※この物語は予告なく修正などを行う可能性がありますが、内容は大きく変わりません。

※物語の感想やコメントを送っていただいた方、本当に本当にありがとうございます。良い点や気になる点など、様々なコメントをいただいておりますが、そのコメントの中には参考になるものが多くありました。そのため、今後いただいたたコメントを執筆に活用させていただく可能性がありますので、使用されたくない・参考にして欲しくないと言う方はコメントと一緒に教えていただけるとありがたいです。

(コメントの内容がとても参考になる内容が多かったのでこのような説明をさせていただきましたが、規約違反であったり、「お前1人で考えろ」「人に頼るな」と言うような反対意見が多かった場合はすぐに取りやめる予定です。)


「随分と機嫌が良いようですね。杏奈さんのそんな顔初めて見ました。」

「あぁ、うん。まぁね…」


杏奈は髪を耳にかけながら笑みを浮かべる。耳に髪をかけるところまでは色気があるような気もしたが、笑い慣れていないせいなのか口元がピクピク動いていた。

美人な女性の妙な顔の動きで優希は吹き出しそうになったが、咳をするふりをしてごまかし、質問をした。


「明代さん?という方はどんな方なんですか?」

「私の世話係だった人よ、小さい頃から可愛がってくれて…、まぁ、母親代わりね。」

「母親代わりですか。やはりお義母が忙しいとそういうこともあるんですね…」

「忙しい、というか、まぁ…、そうね。とにかく、明代さんは私にとって母親のような存在で、久しぶりにこの家に帰ってきたの。」


杏奈は一瞬表情が曇ったがすぐに笑顔に戻ると、いつもよりも少し明るく話し始めた。


「明代さんは息子さんが住んでいる関東にしばらくの間行っていたのよ。息子さんの奥さんが入院することになってお孫さんの世話をする人がいないから。」

「なるほど、今日帰ってくる予定だったんですか?」

「いや、全然。あと1ヶ月くらい向こうにいるはずだったんだけど、たぶん私の結婚を聞いて帰ってきたのね。本当に明代さんらしいわ。」

「すごく明るい人でした。でも、一方的に話しただけで僕と仲良くなったって言っていました。少し強引な気もしますが…」

「それもそうね、少し変なところもあるから…。というのもね…」


ガララッ!!


「杏奈ちゃん!新婚旅行興味ない!?」


義母の元へ行ったはずの明代さんがバタバタと部屋に戻ってくると、戸を勢いよく開けて大きな声で言った。


「新婚旅行、ですか?」

「またなんで急に…」


バタバタ…


「ちょっと明代!新婚旅行はまだ早いんだって!」

「あぁ!そうだった!その前にお披露目会の準備をしないと!」

「それはまだ…、あっ!ちょっと明代!待ちなさい!」


バタバタと部屋にやってきた明代さんと、その明代さんを追いかけてきたお義母さん。

そして、すぐにバタバタと走り去っていく明代さんをお義母さんが追いかけていく。

いつも冷静で無表情なお義母さんが完全に明代さんのペースに乗せられている。


「お義母さんが振り回されることなんてあるんですね…、明代さんみたいな感じだと怒り出しそうなものですけど。」

「明代さんだけよ。あんなふうに見えて明代さんはお母さんとは幼馴染だし、鈴野家は明代さんに随分と助けられたからね。」

「幼馴染?お手伝いさんなんじゃないんですか?」

「うん、あのね…」


この後も、優希と杏奈はしばらく明代さんの話をしていた。

ただ、全てを会話形式で文字に起こしてしまうと長くなってしまうため、こちらから明代という人物について解説させていただきます。


佐々木明代は49歳。杏奈の母親と同じ年齢で、杏奈の母親とは小さな頃からよく一緒に遊んでいたのだ。

ただ、遊んでいたと言っても周りから見れば杏奈の母親は明代を使いっ走りのように扱っていたり、イライラした時に八つ当たりをしたりしており、対等に遊んだりするのは極めて機嫌が良い時だけだったのだが…

周りから見ればそんな2人の関係は好ましくないだろう。しかし、家が貧乏なことを理由に他の子どもからいじめられたり、酒に酔った父親から暴力を振るわれていたりしていた明代にとっては自分を最も『マシ』に扱ってくれた杏奈の母親が心の拠り所になっていたという過去があった。

そして、その関係は色々な問題は起こったものの、主人とお手伝いさん、という関係が続いてきたのだ。

この話だけを聞くと、明代は辛く、大変な人生を歩んできたと思うだろう。

ただ、明代は常人では考えられないほど明るく、果てしなく前向きな性格で周りからすれば死んでしまいたくなるような辛い出来事でも乗り越えることができ、今の今まで鈴野家に尽くしてきた。

そして、今ではお手伝いさんという立場でありながらも一目置かれるようになり、自分が思い描いていた幸せを掴むことができたのだ。


佐々木明代という人物は今後も2人の人生に大きく関わってくる人物なので、このように紹介する場を作りました。

明代さんの人生についても今後必要があれば執筆しますので、現時点でわからないことやモヤッとすることがあっても気長に待っていただけると嬉しいです。

優希のお話に戻ります。


その日の夜…


「いやー、久しぶりですねー本当に。」


明代は自分で作った肉じゃがをパクパクと食べながら笑顔で話す。


「でも、なんで優希くんと杏奈ちゃんは新婚旅行にも行かないんですか?それに結婚式も、盛大にやれば良いじゃないですか。」

「あぁ、それは…。」


杏奈は気まずそうにしている。

それもそうだ。都合がよさそうな男が見つかったから結婚した、なんて言えないだろうから。


「2人の結婚祝いなんてどうでも良いのよ。さっさと食事会でも開いて正式な結婚報告と杏奈が当主になる宣言をしないと。あいつがまたごちゃごちゃ言ってきたら困るからね。」

「またそんなこと言って〜、どっちかは絶対に言ってもらいますからね。特に杏奈ちゃんのドレス姿が見たいんですから。」


冷たく突き放す義母の言葉に全く臆することなく、明代さんは明るく話し続ける。

本当に明代さんは義母のことを全く恐れていなかったため、こういう人がいると家ができるまでの数ヶ月なんとかなるかもな…、と優希は思い始めていた。


次の日…


杏奈が義母と一緒に外出した後、優希は家の中をフラフラと見て周っていた。

杏奈の家はとんでもなく広い。しかも、庭も異常に広く大きな池があるのも特徴的だ。


庭の景色だけで1日中楽しめそうだな。優希は素直にそう思った。

ただ、優希は庭の美しい景色にうっとりしながらも、どこか元義両親のことが気になってしまい、浮かない顔をしていた。


「綺麗な庭でしょう、優希くん。」

「明代さん。」

「お仕事が落ち着いたんです。ちょっとお話ししませんか?」

「はい、もちろんです。居間に行きますか?」

「いいえ、ここで話しましょう。今日は天気が良くて庭も綺麗だし…」


明代さんは近くにいた他のお手伝いさんに話しかけると、他のお手伝いさんはすぐに椅子とテーブル、飲み物を準備してくれた。

同じお手伝いさんなのに、やっぱり明代さんは特別だ、と優希はこの様子から改めてそう感じた。


「ふー、優希くん、ここはどう?」

「まだ住み始めたばかりですが、とても綺麗で空気も美味しいので大好きですよ。」

「そう…、優希くん、杏奈ちゃんが無理言って結婚したんじゃない?」

「え!?」


優希はただの雑談をする程度の気持ちだったため、この質問に変に驚いてしまった。


「いや、無理って言うほどじゃ…。一応僕も納得したわけですし。」

「一応?」

「はい、その…」


優希は、明代さんが鈴野家に深く関わっている人間であること、誰かに今の気持ちを話したかったことで、ぽつりぽつりと明代さんに結婚の経緯を話した。

優希は話す内容がまとまったおらず、うまく状況を説明できていなかったが、明代さんは頷くだけで黙って話を聞いてくれた。


………


「なるほどね…、辛かったでしょう…。あのね、回りくどいのは好きじゃないからはっきり言うんだけど、私が話をしようって言ったのは杏奈ちゃんから話を聞いたからなの。その…、元義両親と会いたいって言った話が特に気になって…。」

「あぁ、その話ですか…。その話に関しては僕自身も自分勝手だったとは思っているんですよ…」


優希は心配で頭がいっぱいになっていたが、冷静になって考え直したことで自分が身勝手なことを考えていたと反省していた。

それも当然かもしれない。周りから見れば、結婚した後に元妻の両親に会いに行くなどという行動はどう考えても良くないだろう。


「自分勝手…ね。確かにその話だけ聞くと自分勝手に聞こえるかもしれない。でも、優希くんの話を聞いていると、ただの身勝手なお馬鹿さんだとも思えないの。なんで元義両親に会いたかったのか教えてくれない?」

「はい、じゃあ、まとまっていないかもしれませんが…」


優希は再度、ぽつりぽつりと話し始めた。


数十分後…


優希の話を優しい表情で最後まで聞いてくれた明代さんは静かに口を開いた。


「そう…そんな事情があったの…。ねぇ、優希くんって結構自分を責めるタイプだったりする?」

「はい?自分を責める、ですか?」

「うん、話を聞いているとやっぱり優希くんはただの自分勝手っていう感じがしなくて…。あのね、いきなりこんななこと言うのもなんだけど、元義両親の方々は本当に優希くんに会いたいのかしら?」


優希は一瞬耳を疑ったが、すぐに明代さんの言いたいことがなんとなくではあるが、理解できた。

確かに、元義両親と本当の親のように仲が良かったし、現在は精神的にダメージを受けていることも事実としてある。

しかし、2人がそんな状態になっている原因が優希だというのは完全に優希1人の勝手な思い込みで、元義両親からすれば気まずくて会いたくない可能性だって高いはずなのだ。

また、愛がないとはいえ、妻のいる身で勝手な思い込みで元義両親に会いに行こうとしているのだから、客観的に見れば優希が身勝手な人間に見えるという意見も納得できる。

優希は明代さんの言葉ではっきりと自分の身勝手さに気づかされ、顔を真っ赤にして俯いた。


「確かに、身勝手すぎて気持ち悪いですね…」

「優希くん、自分を責めすぎてはダメよ。確かに身勝手だっていう人もいるかもしれないけど、私からすれば優希くんはちょっと自分のせいにしすぎているだけだと思うの。それに、厳しいことを言うかもしれないけど、元義両親の方も問題は自分で解決するかもしれないし、自分の娘の過ちが原因なんだから、むしろそうするべきだとも思うの。だから優希くんは落ち着いたら連絡しようかな?くらいの気持ちでいれば良いんじゃないかしら…。まとめっていなくてごめんね。」


杏奈さんは昨日のおおはしゃぎしていた様子とはまるで別人のようになって話す。

自分のせいにしない・気楽に考える、優希は問題が問題なだけにそんなふうに考えることはできなかった。

もちろん、明代さんの言葉をきっかけにすっかり気持ちが軽くなって気楽に考えられるようになった!というわけではない。

ただ、明代さんの言葉で少しだけ気持ちが軽くなったと同時に今自分がしようとしていることや状況が客観的に捉えれるようになり、杏奈に対する申し訳ない気持ちが一気に込み上げてきた。


「明代さん、僕…杏奈さんと話してきても良いですか?」

「いいわよ、いってらっしゃい。」


優希は明代さんに挨拶をすると、急いで部屋に戻った。

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