第5話
※第5話の内容は今後若干の修正が入る可能性があります。ただ、大きく内容が変わるわけではありませんのでご安心ください。
また、矛盾している点や誤字などの問題がありましたら教えていただけると幸いです。
「悲惨なことって…真波のご両親がですか?真波じゃなくて?」
優希は困惑しながら答えた。
慰謝料をしっかりと受け取っていることは事実だが、優希も周りの人間もそれだけで全部スッキリ忘れられるわけがない。
本心を言えば優希自身も、『もっと想像を絶するような報いを受けてしまえ』と思っていたことも事実だ。
しかし、現実は浮気をして全てをぶち壊した本人ではなく、その両親が悲惨なことになっているというのか。
「うん、噂は広まれば広まるほど大袈裟になる者だから悲惨っていうのは少し大袈裟になっているのかもしれないけど、結構大変だったのは本当みたいだよ。奥さんは鬱になってしまったって話だし、旦那さんも日が経つにつれてどんどん痩せているようだから…」
「それって、その…原因は?」
「ごめん、そこまでは…。でもまぁ、僕たちや元奥さんのご両親が住んでいる場所は結構田舎で噂もすぐに広まるからね。周りからの目もあるだろうし…」
剛が言っていることも原因の1つとしてはあるだろう。
ただ、優希はおそらく原因は自分が大きく関係しているだろうと思っていた。
真波の母親は料理でつながることができる友達が優希だけだったため、その優希がいなくなれば悲しむのは当然だ。
しかし、実は真波の父親も会社の役員として働いている中で、唯一の趣味であるゴルフには接待でしかいくことができず、本気で楽しめていないと酒に酔った勢いで打ち明けてくれたことがあった。
実際に、真波の父親が一人娘との結婚を快く認めてくれたのも、結婚前に2人で行ったゴルフで優希が顔色を伺うことなく全力でハイスコアを目指している姿が素直で良い子だと感じたと、一緒に料理をしていた元義母から聞いたこともある。
「あぁ、この場合はどうすればいいんですかね…僕は…」
「うん。まぁ、他人の勝手な意見だから聞き流してくれても良いけど、純粋に友達だと思っているのであれば連絡してみればどうかな?ご両親は本当に良い人だったようだし、娘さんが浮気していたときもしっかりと対処してくれたんだろう?悪い人じゃないんだから…」
「そう…ですね。確かに良い人たちですし、連絡はすると約束はしていましたが、仮にも僕は結婚していますし…」
「仮?」
「あぁ、いえ。結婚はしていますから、杏奈さんが何ていうのかな、と思いまして…」
そうだ、愛のない結婚とはいえ、優希も一応は既婚者だ。しかも、優希は婿養子で杏奈も義両親も優希が立場が下だという認識で間違いないだろう。
優希は買い物をしながらもただ悩み続けた。
「優希くん?大丈夫かい?」
「ん?あぁ、はい。大丈夫ですよ、でも、杏奈さんのことだから許さないでしょうね…」
「杏奈さんが?確かに前の妻の両親に会いにいくのは良い顔をしないかもしれないけど、事情を話せばわかってくれるんじゃないかな…」
剛は自信がなさそうに頭をかきながら話す。
優希はここで剛が自分たちの事情を知らないことに気づいた。
木嶋夫婦からすれば、浮気をされて傷ついた男がお金持ちで美人な女性と結婚し、幸せを掴もうとしているように見えているんだろう。
実際はお互いの利害が一致しただけの愛のない結婚だなんて剛は思うわけもないし…
「そうですね!一度話してみます。僕も友達として役に立てることがあるかもしれませんから…」
「うん、優希くんがそう思っているならそれが良いかもね。でも、話してよかったよ。もう忘れたい話だと思っていたから…」
「忘れたかったのは事実ですけど、元義両親の話なら別ですよ。」
そう言いながらも、優希は杏奈にどうやって説明しようか悩んでいた。
杏奈が気持ちの面で元義両親と会うことを拒むことはないだろう。しかし、結婚するときに杏奈が話していたように、鈴野家の名前に傷がつくようなことは許さないはずだ。
優希は複雑な気持ちを抑え、剛と雑談をしながら材料を買った。
数分後、優希と剛は杏奈と春子と合流した。
「おぉ剛よ、君は話しながら買い物をしようとは思わなかったのかね?」
「春子がカート持って行ったんじゃないか、しかも中身は何も入っていないし…」
剛と春子は相変わらず仲が良い。
優希はそんな2人を見て、少しだけ羨ましいと思いながら杏奈を見る。
杏奈は表情をぴくりとも動かしていなかったが、剛と春子をじっと見ていた。
「ふぅ、じゃあ優希くん、杏奈さん。私たちは買い物をしなきゃいけないから…、もう帰るでしょ?」
「あぁ、はい。僕たちの買い物は終わったので…」
「わかった!じゃあ、今日はこれで!杏奈さん、優希くんのこと頼んだわよ!さぁ剛、行こう。」
「うん。じゃあね、優希くん、杏奈さん。」
「あぁ、はい。」
杏奈は春子の勢いに押されて返事をしたのを確認すると、春子さんは優希が話す前にくるりと後ろを向いて行ってしまった。
「なんだか切り替えの早い人ね。あれだけ話していたのに…」
「木嶋さんはずっとあんな感じですよ。それよりも、何を話していたんですか?僕を頼むって言ってましたけど…」
「なんでもないわよ。特に何も…」
優希は話していた内容が気になってはいたが、それもすぐに杏奈に元義両親のことを話そうかという悩みに掻き消されてしまった。
数十分後…
家に帰ると、優希は杏奈を部屋に残し、1人でフレンチトーストを作った。
杏奈に居間で待ってもらおうとも考えたが、正直今の優希では杏奈との会話が持たないと思ったのだ。
「あのー、杏奈さん?できましたよ、フレンチトースト。」
「あぁ、うん。」
フレンチトーストができたので部屋にいる杏奈を呼びに行くと、杏奈は少し驚いたように振り向いた。
………
「これが…フレンチトースト?」
「はい、どうぞ食べてみてください。がっかりはしないと思います。」
「…、う、んっ。美味しいわ、ありがとう。」
杏奈は一応褒めてくれたが表情は全く動いていなかったため、優希は本当に杏奈が美味しいと思ってくれているのか不安になった。
………
「ご馳走様…、じゃあ、食後は少し休むわ。」
「あのっ!杏奈さん!」
「ん?何?」
「その…少しお話が…」
優希は勢いに任せて杏奈に義両親のことを話した。
このタイミングで話すことが適切だとは思わなかったが、家に帰っている時もフレンチトーストを作っているときも義両親のことが全く頭から離れないのだから仕方がない。
優希は話の中で何度も元妻に未練があるわけではないことを強調しながら話した。
杏奈は黙って最後まで話を聞いていたが、少しずつ表情が曇っているように感じる。
「言いたいことは大体わかったわ…、でも、許可できない。」
「えぇ…?いや、でも本当に少し話すだけですよ?別にこれから会いたいとかそういうことじゃなくて…」
「そうね、優希は本当にそんな気はないかもしれないし、私が見張っていれば変な気を起こすこともないでしょうね。でも、周りはどう思う?」
「周り、ですか。確かに義両親の近所では噂になっているかもしれませんが…」
優希がそこまで言うと、杏奈は優希の言葉を遮って話し始めた。
「確かに近所の目も気にならないわけじゃないけど、私が言っているのは主に親戚のことよ。」
「親戚?」
「えぇ、次の当主は私がなる予定だけど、そんな中で私の夫が前の妻と会っているなんて変な噂が流れたらどうするの?」
やっぱり当主になる問題が絡むのか…。優希は一瞬そう思ったが、杏奈がそう考えるのも仕方ないと思っていた。
元々愛し合って結婚したわけではなく、杏奈にとっては子どもを作ることと当主になることが第一優先だ。
優希自身もそれを理解した上で結婚したし、結婚の条件で最終的な杏奈の決定には従うことを約束している。杏奈が反対しているのであればこれ以上優希ができることはない。
「じゃあ、僕は今元義両親には会えないんですね…。」
「そうね、悪いけど。」
「では、当主になった後なら良いんですか?杏奈さんが一緒にいても良いですから…」
「それは当主になってから考えましょう。前向きに考えてあげるから、この話はもう終わり、私はもう休むから…」
杏奈は立ち上がると背を向けて部屋に戻ってしまった。
………
「自分の選んだ人とはいえ…これはきついな…」
ドタドタドタドタ!!
ん?なんだ?
ガララッ!!
「ただいま帰りましたぁ!!杏奈ちゃんが結婚したって聞いて…」
「………」
………
「あなた誰よ?」
「はい?あなたこそ誰なんですか?」
ドタドタとうるさい足音が聞こえたかと思うと、40代くらいの女性が居間に飛び込んできた。
その女性は興奮し、息を切らせながら話そうとしていたが、居間にポツンと取り残されている優希をみてなんともいえない表情になっている。
「私?私は佐々木明代(ささきあきよ)。鈴野家で最も長くお手伝いとして働いている者よ。というか、なんで私を知らないような人がこの家に…。うぉぉ!あなたが杏奈ちゃんの旦那さん!?」
「んん?あぁ、確かに杏奈さんと結婚はしましたが…」
「いや〜、イケメン!がっちり!いいじゃな〜い!杏奈ちゃんも良い人捕まえたわね!」
明代さんはペタペタと優希の体を触ってくる。
優希はこんなタイプの人が鈴野家にいるのかと驚いたが、考えを整理する前に義母の強い声が耳に入ってきた。
「誰よ!家の中をバタバタと…、明代!帰ってくるのはもう少し先じゃ…」
「恵美様〜!」
明代という女性はすぐに義母に駆け寄って抱きついた。
「お久しぶりです〜!もう少し息子のところにいる予定だったんですけど、杏奈ちゃんが結婚したって聞いてすっ飛んできました。杏奈ちゃんはどこです?早く話を聞かないと…、あっ、杏奈ちゃんの旦那さんとは話しました。もう仲良しです。杏奈ちゃーん!どこー?」
「話してはないんだけど…」
「全く…相変わらずね…。」
数十分後…
「いやぁ〜ごめんなさいね〜、久しぶりだっていうのと杏奈ちゃんが結婚したっていう衝撃が強すぎてつい話し込んじゃった。」
「あぁ、大丈夫です。もう入っても良いですか?」
「いいわよ、じゃあ私は恵美様のところに行かなきゃいけないからこれで失礼するわ。」
明代さんは部屋でしばらく杏奈と話していた。
部屋の外まで明代さんの大きな声が聞こえ、優希は部屋に入りずらかったため、部屋の外でうろうろとしながら待っていたのだ。
そして、明代さんは自分が話したいだけ話すと部屋から出てきて、すぐに行ってしまった。
マイペース、というだけの言葉では言い表すことのできない不思議な人だ。しかも、自分のことを『お手伝いさん』といっていたはず。
お手伝いさんが自分の主人と友達のように話すことがあるんだろうか?
優希はぐるぐると明代さんのことを考えていると、今までに見た事がないほど笑顔になっている杏奈が口を開いた。
「明代さんは不思議な人でしょう?」
「えぇ、でも、お手伝いさんですよね?」
「明代さんはちょっと特別なのよ。夕食までしばらく時間があるし、いいわよ、話してあげる。」
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