第9話 踏みにじられる須弥代の命

一行が目的の場所に着いたのは翌25日の午前2時ごろだった。

それは車一台がやっと通れるほどの林道を進んだ先にあり、両脇はうっそうと茂る山林。

周りはもちろん真っ暗闇だ。


須弥代はタオルで目隠しをされており、小島ら男3人は外に出て道から7メートルほど奥に入った場所で懐中電灯を照らしながら死体を埋めるための穴を掘り始める。


そのころ、車中に待機していた龍造寺は「なんか最後にしてほしいこととかあんのかて?あったら言やー」と須弥代に聞いた。

もうここまで来た以上、生かして帰すつもりがないことを隠す必要はないのだ。

すると、「お兄ちゃんの顔が見たいです。お兄ちゃんと一緒に埋めてください」と、弱々しく悲しい答えが返って来た。

金城ふ頭で海に飛び込もうとしたくらいだから、とっくに覚悟を決めていたのである。

もっとも、極悪不良少女の龍造寺と筒井は「最後にも出た、純愛アピール!」と嘲笑ぎみだったが。


一時間後、大人の男女を十分埋められるだけの穴ができた。


作業を終わって車まで戻って来た徳丸は須弥代に「最後の飯だで、食べや」と途中で買った握り飯と缶ジュースを渡す。

徳丸は三回も須弥代を汚しておきながら自分勝手にもお気に入りにしていたようで、ここへ来るまでの車中でも自分の膝の上にのせていたりしていた。

嫌らしさがふんだんに混じった慈悲の心である。


それに対して須弥代は「私と一緒に埋めてください。天国でお兄ちゃんと食べます」と涙ながらに答え、改めて「お兄ちゃんの顔を見せてください」とお願いしてきた。


「見せたれ」


また「お兄ちゃんか」と鼻白みつつも小島は徳丸に車のトランクを開けさせて昭善の死体を懐中電灯で照らすと、目隠しを外されてそれを見た須弥代は死体にすがりついてむせび泣いた。

昭善の死体はまだ縛られたままだったので須弥代がそれをほどこうとしていたが、人間の心のない小島たちに阻止されてしまう。


午前3時ごろ、小島は厳寒の空の下にもかかわらず須弥代を裸にして再びタオルで目隠しして掘った穴の前に座らせた。

この時、ずっとされるがままで哀願ばかりしていた須弥代はこれまでのしおれた態度とはうって変わって小島たちに向かい「どうしてこんなひどいことするんですか?警察に捕まらないと思っているんですか?」と言ったとされる。

非道な犯人たちへ彼女なりに精一杯の抗議をしたんだろう。

そして「やるなら、ひとおもいにやってください」と頼んだ。

覚悟を決めていたというより、暴虐の限りを尽くされた結果、命乞いするほどの生きる気力がもう残っていなかったのかもしれない。


小島と徳丸は昭善の時と同じように焼き切っておいたビニールひもを須弥代の首に二重に巻き付け、高志に懐中電灯で照らさせて互いに引っ張り合う。


須弥代は「やるならひとおもいに」と言っていたが、望みどおりりにはいかなかった。

ビニールひもが外れるなどのハプニングがあったりして苦しむ時間が昭善より長引くことになってしまう。

しかも一回殺人をクリアしている小島と徳丸はすでに慣れてしまっており、「がぁぁぁぁ~げぇぇぇぇ~げぇっげぇぇっ…」と、若い女性が発しているとは思えないほどのおぞましいうめき声を上げて苦しむ須弥代の首を絞め続けながら「綱引きだぜ」と笑みすら浮かべて前回同様ふざけたことを言い始め、高志にも「お前もやってみろや」とか言って余裕ですらあった。

元々悪い奴らが余計に悪くなってしまっていたのである。


結局30分もかかって須弥代は死んだ。

ただ単にデートしていただけなのに、いわれなき苦痛と屈辱を加えられ続けたあげく短い人生にピリオドをうたれてしまった。


何の罪もない人間を二人殺してしまった後も犯行グループの悪ノリは止まらない。


誰が言い出したかは分からないが、穴に須弥代の死体を生前の願いどおり昭善の死体とともに入れた後、カップルの死体なんだからと、お互い抱き合っているような状態にしたのだ。

死者への冒涜にもほどがあるだろう。

二人とも死してなおもこの外道たちに弄ばれたのである。


「へぼいお兄ちゃんと一緒に埋めてもらえてよかったな」「死にたがっとった奴殺しただけだで」「ウチらいいことしたったんだがね。あれんた土ん中で永遠にハメ合えるんだで」「ハハハ!おみゃーさまも相変わらず悪い女やな~」などと、どいつもこいつも全く悪びれていない。


午前3時30分、死体を埋め終わって落ち葉などをかけ、現場に遺留品が残っていないことを確かめた悪魔たちは現場を離れた。

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