第8話 悲しみに暮れる須弥代を苛む悪魔たち


須弥代を連れた犯行グループは24日午前11時に近藤と合流、拉致していたカップルのうち男の方は殺し、残った女も今日中に殺すつもりであることを告げる。

大高緑地公園における襲撃の実行犯の一人で、昭善殺害の現場にいなかった高志にも電話をかけてこの日の22時に落ち合うことを約束させた。

近藤と高志にも殺害を手伝ってもらうつもりだったのだが、現役暴力団員の近藤は組の用事があることを理由に「後は任したでな」などと離脱してしまう。


小島たちはこの時点でまだ須弥代に昭善を殺したことを伝えていないし、もちろん須弥代自身を殺す予定であることも本人に伝えていない。

しかし須弥代はとっくに彼氏がこの世にいないことに気づいていたし、自分も殺されるであろうことにも感づいており、且つそれを望むようになってしまっていたようである。


一行が喫茶店などへ行ったりしてから、昨日カップル狩りをした金城ふ頭に寄った時のことだ。

徳丸に見張られてフラフラ外に出た須弥代が突然海に向かって走り出した。

海に飛び込むつもりである。


「お前ナニしとんだて!!」


ここで死なれるのはかなりまずい、死体が発見されないようにどこかで殺して埋めるつもりなのに。

海に飛び込まれる前に取り押さえ、車の中に押し込んだ。


「お兄ちゃん殺したでしょ!?わたし、もう生きていけないいい!!!」

ずっとしおれていた須弥代は別人のように泣きわめき、半狂乱となっていた。


「家帰したったって言っとるが!」


見え透いたウソをここでも言い張ったが、すでに昭善の死を確信していた須弥代は悲嘆のあまり後追い自殺を図ろうとしていたのだ。

しかし、このあまりに悲しい暴挙は人をいたぶるのが大好きな極悪少年少女たちのサディズムの炎に油を注いでしまった。


「私たち本当に愛し合ってました」アピールしやがって。

なんか結構ムカついてきたな。

ますますいじめてやりたくなってきた。


その後、小島たちはグループのたまり場にしていたアパートに転ずるや、失意のどん底に打ちひしがれる須弥代をリンチ。


「勝手なことするなて!バカ女!!」「“お兄ちゃんお兄ちゃん”やかましいじゃい!」「オラ!泣いてんじゃねえ!すんでれぇムカつくわ!」


男には強烈なパンチや蹴りを見舞われて吹っ飛び、女には髪の毛をつかまれて口汚くののしられながら顔をはたかれて踏みつけられる。

事件後、階下の住民はこの時にドスーンと大きく響く物音を何度か聞いたと証言しており、たった一人残されて孤立無援の須弥代にかなり情け容赦のない暴力が振るわれていたようである。


さらにはここで雄獣の徳丸がまたも須弥代をレイプした。

どうせ殺すんだから何やってもいいと小島はじめ他の奴らも考えていたらしく、筒井も同性が蹂躙されているにもかかわらず「元気だねえ」などと笑っている。

人生最後の日になっても須弥代は尊厳を踏みにじられ、痛めつけられ続けたのだ。


同日22時ごろ、小島たちはさんざんいじめた須弥代を連れてたまり場を出発し、22時40分に高志と合流。

そこで小島は昭善をすでに殺害したことを話し、車のトランクに入れた死体も見せた。


「え!?マジ?あの野郎マジで殺ってまったんか!?おぉ…ホントや、死んどる…」

「女の方も殺らなかんでよ。あとはどこでやって、どこに埋めるかなんだわ」


小島と徳丸に高志も加えた男3人で殺害場所と埋める場所の話し合いが始まった。

車の中には生きる気力を失ったほどやつれはてた須弥代が龍造寺と筒井に見張られて乗っている。


「富士の樹海とか…。あかん、遠い。オレ明日朝早うから事務所行かなかんだでな」

「三重の山奥にせんか?オレあそこよう知っとるんだわ」


小島の言う三重の山奥とは、現在三重県伊賀市の山林のことである。

彼はそのあたりに土地勘があったのだ。


「ほんならそこにしよか」


徳丸と高志はその案に同意し、23時10分ごろに高志も加えた一行は三重県に向けて出発。

須弥代にとって絶望のドライブが始まった。

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