第6話 その場の空気で決められる殺害計画

2月23日7時30分頃、6人は愛知県海部郡弥富町のドライブイン「オートステーション」に到着、朝食を兼ねて改めて今後について話し合うことにした。

須弥代は小島の車から近藤の車に移され、徳丸が2人を見張る。


話し合いと言っても出席者はバカしかいないんだからロクな案が出るわけはない。

しょっぱなからとんでもない案が極めつけのバカである小島の口から出ていた。


「やっぱ男は殺って、女は売り飛ばすしかないて」


空き地での話し合いの時に誰かが冗談半分で言った最悪のプランである。

同じく頭の悪い龍造寺が「まじ?ホントにやるんすか?」と驚いたのに対し、「オレは本気で言っとるんだわ」と小島は半ばキレ気味に冗談ではないことを強調した。

また、須弥代を風俗店に売り飛ばせなかった場合は須弥代にも死んでもらうことが決められる。


小島は逮捕された後の裁判で、「オートステーション」での話し合いでは本気ではなく口だけで言い出したことだったと言い訳をしているが、カップルの処理については誰も「殺すのはだめだ」と言い出すことなく勢いのまま殺害の方向で固まり、それからは殺害方法や死体の処理方法についての話し合いになった。


この集団、実は昔からつるんでお互い気心が知れた連中ではない。

事件のつい先日に知り合ってつるむようになった者もいたりして関係性は希薄、互いに相手の腹を探り合うようなところがあった。

ましてや不良の集団なんだから他の奴らに弱みは見せられず、常に虚勢を張り合い続けなければならなかったのである。


店を出た5人は、見張りをしていた徳丸に昭善と須弥代を殺すことにしたと伝えた結果、徳丸もあっさり了承した。

これも小島と同じく公判中に徳丸が述べたことだが、この時は本当にやるとは思っていなかったようだ。

つまりこの日の朝の時点において殺害することは口だけか本気か曖昧なままであった。

しかし、その本気度はその日のうちに一気に高まって実行に移されることになる。


店を出ると6人は須弥代を再び小島の車に乗せて、2台の車に分乗して移動。

途中で高志だけが帰宅することになり、自宅近くで車を降りる。


5人になった犯行グループは引き続き2人を連れ回し、9時40分頃に休憩のために「ホテルロペ」に入った。

近藤は車を借りた上役に車を傷つけてしまったことを報告しに向かったためにグループは小島・徳丸・龍造寺・筒井の4人となる。


この4人は無神経にも拉致した昭善と須弥代を連れて堂々ホテルに入り、夕方17時ごろまで二部屋に分かれて休憩することになるのだが、当然ながら同ホテルの従業員に怪しまれていた。

そりゃそうだ。

目つきの悪い連中に交じって深刻な顔をした男女がおり、しかも顔に殴られたような痕があるからである。

不審を抱いた従業員だったがすぐに通報しようとはしなかった一方で、彼らが乗ってきたグロリア(小島の車)のナンバーをメモしていた。

この事件の発覚が報じられて捜査が始まってからホテル側はそのメモを警察に提供して犯人の検挙につながることになるのだが、もしこの時に通報していれば殺人事件にはなっていなかったかもしれない。


グループのうち小島と筒井は同じ部屋で、徳丸と龍造寺は別の部屋で昭善と須弥代を見張っていたが、同室で徳丸がまたしても須弥代を彼氏の目の前でレイプしたというからとんでもない野郎だ。


小島も負けていなかった。

徳丸が楽しんでいた反面で当初の計画どおり大まじめに須弥代を売り飛ばそうとヤクザ関係者に電話していたのである。

だいたい何の罪もない女性を暴行・拉致したうえに風俗店に売り飛ばそうという発想自体無法極まりない。

しかしこの極悪なもくろみは不首尾に終わる。

三下ヤクザのまま組を脱退していた小島を信用する者などいなかったのだ。


だからといってそれは幸いなことではなかった。

小島の頭の中により最悪な「須弥代も殺す」というプラン2の実行が浮かんだからだ。


しかし、即実行というわけにはいかないし、それをこれから殺す本人たちに知られるわけにもいかない。

17時ごろホテルを出た一行は喫茶店などに立ち寄りつつ犯行の痕跡を隠すために洗車場で車を洗った後で拉致した2人には「帰したるでおとなしゅうしとけ」と言い、昭善の方に車の修理代を支払うという誓約書を書かせるなど、いずれ自分たちは解放されると思いこませていたのだ。


そして解決案は着実に2人の殺害の方向に向かっていく。

23時過ぎに小島たちは組事務所に行っていた近藤と一時合流して今後について話し合ったが、小島は近藤と2人きりになると「もう殺ってまわなかんて。いつやろう?」と迫っていた。

小島は極悪だったが自分一人でやる気はなかったし、近藤も近藤でグズグズしていた反面、どいつもこいつも虚勢だけは張りたがるから始末が悪い。

「解放」という選択肢もほのかに残しつつ近藤は所用により龍造寺といったんその場を離れ、犯行グループが再び集合したのは24日午前2時半ごろ、場所は港区にある『すかいらーく 熱田一番店(現ガスト)』。


昭善と須弥代は暴行・拉致されてからほぼ丸一日連れ回されて限界だったはずだ。

そんな2人に小島は「いつ帰れるか近藤と話し合って決めるだでよ、ちょっと待っとれ」と命じる。

彼らはいつか解放してもらえると信じ、まさか殺されることになるとは思っていなかったようで、言われるがままにしていた。


しかし、この『すかいらーく 熱田一番店』で改めて2人とも殺害することが決定されるのである。


そしてそれは最終決定だった。

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