第4話 野獣に捕捉された二人

「おったおった!カップルおったぞ!チェイサーに乗っとる!」


大高緑地公園内の木陰に潜む小島茂夫(19歳)らのもとへ、園内の第一駐車場へ偵察に行っていた近藤浩之(19歳)が戻って来た。


「平日のこんな時間までいちゃつきよってよ。ヤキ入れたらなかんな!」


小島はサディスティックな期待に胸を高鳴らせて「ほんならさっきみたいにやるでよ、まわしせい!」と、その場にいた他の徳丸信久(17歳)、高志健一(20歳)、龍造寺リエ(17歳)、筒井良枝(19歳)に声をかけて公園入口ロータリーに停めてある自分たちの車に戻った。


彼らは名古屋市栄区のセントラルパークにたむろしてはシンナー吸引にふける『噴水族』と自称する不良少年たちの一部だ。

それも半端な不良少年ではない。

一味の者たちを仕切る小島と徳丸は「元」とはいえ山口組系弘道会傘下の薗田組の組員だったこともあり、高志は現役の同組員、近藤も弘道会内高山組に属する現役暴力団組員であり、龍造寺はヤクザの情婦で、筒井は小島と同棲して暴力団事務所にも出入りしていたから本格的な悪党たちである。


彼らは前日22日の深夜までセントラルパークでたむろしていたが、小島が彼らの使う隠語でカップル狩りを意味する「バッカン」をやろうと言い出したことから行動を開始していたのだ。

最初は金城ふ頭で二組のカップルを襲い、一組には逃げられたがもう一組は仕留めることに成功し、現金86000円や腕時計などの「戦利品」を得ていた。


一旦は栄に戻ってお開きにしようとしてはいたが、「あと二回か三回はやろう」ということになって、今度は新たな狩場として大高緑地公園に来ていたのだ。


もうすぐ夜が明けて仕事が始まるので帰りたいと思っている者もいたが、小島に言われてガムテープと段ボールでこれから犯行に使う二台の車のナンバーを隠すなどの細工を始める。

彼らの中には昨年金城ふ頭でカップル狩りを重ねて逮捕された少年グループの中に知り合いがいる者がいて、その連中から何度か手口を教わっていた。

そして先ほどの金城ふ頭における二回の実践でコツはつかんだ。

もう慣れたもので、段取りを話し合った後6人は小島の所有する車と近藤が自分の所属する高山組の上役から借りた車に分乗し、ターゲットの車が停まっている駐車場に向かう。


駐車場に入ると、お目当てのチェイサーは後ろ向きに停車している。

好都合だ。

二台はチェイサーの後方左右に向かって進み、まるで退路を断つかの如く停車。

特攻隊長気取りの徳丸が木刀片手に車を降り、「オラァ出てこいや!!」とチェイサーに向かって雄叫びを上げて近づき、車体を叩いて車内の者を脅す。


昭善と須弥代の方は異変に気付いたが、遅すぎた。

ずっと自分たちの世界に浸っていたのもあるが、後ろ向きに駐車していたので後方から向かってくる二台がおかしな動きをしているのが分からなかったのである。

駐車場に他の車が入って来たのには気づいていただろうが、いきなり自分たちの車の所に向かってきて後ろ左右に停まり、中からいかにもな若者たちが鉄パイプや木刀片手に怒声を発して降りてくるとは思わなかった。


どう考えてもこちらに危害を加える気満々の者たちに囲まれ、二人がびっくり仰天したのは言うまでもない。


逃げなければまずい!捕まったら何をされるか分からない。


この時運転席にいた昭善は慌てて逃走を図ろうとチェイサーをバックさせた。


だが、パニックになるあまり昭善はより最悪の結果を招く事態を引き起こしてしまう。


この車は須弥代の父親の車で乗り慣れていない上に、後方は逃げられないように小島と近藤の車が停まっているのである。

昭善のチェイサーは車体を襲撃者の乗って来た車二台にぶつけてしまったのだ。


「オレの車にナニしてくれとるんだて、コラアァァー!!!!」


外からは不良の怒りの咆哮が響き、木刀や鉄パイプで車体がより強く叩かれ、ガラスにひびが入る。

その大きな声と音、予想される今後を前に二人の心臓は凍り付いた。

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