第2話 拉致された理容師カップル
金城ふ頭でのカップル狩り(当時はアベックという言い方がまだ一般的だったが)の事件自体は木刀で車や乗っていたカップルを滅多打ちにするなど凶悪ではあったが、似たような犯罪が過去にも何度か起きていたために世間に与えた衝撃は当初それほどでもなかった。
第一、それまでの事件でも今回報道された事件でも被害者たちは暴行されて金品を奪われていても命までは奪われていないからだ。
だが、二日後の2月25日の報道でこの事件の犯人が世間の人々の想像以上に悪質である可能性が浮上する。
金城ふ頭から少し離れた場所で同じ犯人と思われる者たちによってより凶悪な第三のカップル襲撃事件が起こされ、被害者が拉致されたと思われることが報じられたのだ。
23日の夕刊にはまだ掲載されていなかったことだが、金城ふ頭のカップルたちが襲われた23日の午前8時半頃、10キロ離れた名古屋市緑区の県営大高緑地公園第一駐車場にフロントガラスやヘッドライトが割られ、車体がボコボコにへこんだトヨタのチェイサーが放置されているのを通行人が発見して緑署に通報。
同署の捜査で車内からは血痕が残っていることが分かり、車の外には血の付いたブラジャーや空になった財布、ハンドバックが散乱していた。
また、近所の住民から朝6時ごろ何かを叩くような音と男女が争う声が聞こえたという証言もあり、何らかの犯罪が行われたのは明白である。
肝心の被害者の方は行方が分からず、拉致された見方が早くも出ていた。
犯人が金城ふ頭でカップルを狩った者たちと同一犯と考えられたのは車の窓ガラスを割るなど手口が似ていたことと、大高緑地公園までは車で20分もかからない距離であったこと。
そして金城ふ頭で襲われた被害者の目撃証言で犯人グループは白いクラウンと茶色のセドリックもしくはグロリアに乗っており、放置されていたチェイサーのバンパーに別の車がぶつかった痕があって、そこに残った塗膜片を鑑識で調べたところ別の車のものであり、車は茶色のグロリアかセドリックと考えられるという結果が出ていたからだ。
やがて、拉致されたと思われる男女は理容師の野村昭善(19歳)と同じ店で理容師見習いとして働く末松須弥代(20歳)と判明。
放置されていたチェイサーは須弥代の父親所有のものであり、彼女は22日の夜に仕事から帰ると「友達のところへ行く」と言ってからチェイサーに乗って出かけて行ったきり帰らなかったため翌24日に家族から捜索願が出されており、須弥代の彼氏である昭善も22日の夜以降行方が分からなくなって同じく身内から捜索願が出されていた。
襲われたのはこの二人である可能性しか考えられない。
2月25日、この大高緑地公園での事件を捜査する緑署は上記の理由から金城ふ頭事件と同一の犯人による犯行と断定し、金城ふ頭事件を捜査する名古屋水上署と合同捜査本部を設置した。
襲撃されたばかりか拉致までされているとは、この当時誰も思わなかったはずだ。
事件発生から二日も経っており、被害者の身内や関係者は居ても立っても居られなかっただろう。
だが、まさか生きていないことはないだろうと思われていた。
犯人は極めて悪辣な不良少年たちのようだが、いくら何でも何の落ち度もないカップルをさらって殺すなんてありえない。
昭善と須弥代が務めていた理容店は二人が生存していると信じ、身代金目的で誘拐されている可能性まで考えて現金まで用意していたくらいだ。
しかし、その「まさか」が起きていた。
二日後に一連の強盗事件の容疑で逮捕されることになる少年少女たちはすでに両人を殺して埋めていたのだ。
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