1988年・名古屋アベック殺人事件~命をもてあそんだ六匹の野獣たち~

44年の童貞地獄

第1話 事件の前触れ~金城ふ頭で荒れ狂うカップル狩り~

1988年2月23日、東海地方の地方紙『中日新聞』の夕刊で悪質な少年犯罪が報道された。

同日深夜の名古屋市港区の金城ふ頭で、車に乗ってデートに来ていたカップル二組が複数の不良少年少女に襲撃され、うち一組が暴行されて金品を奪われたのだ。


金城ふ頭は当時から夜景を楽しむデートスポットとして名古屋では有名であり、多くのカップルが車に乗ってデートしに来ていたのだが、それまでにも彼らを狙った犯罪者がたびたび出現していた。

その多くは暴走族風の非行少年たちで、真夜中の金城ふ頭を狩場にカップルを恐喝。

この前年の9月にはこうしたカップル狩りを繰り返していた少年グループが検挙されていたが、これらカップルを捕食するヤカラが完全に一掃されたわけではなかったのである。


報道によると同日深夜の午前2時30分ごろ、まずは名古屋港82番岸壁上に車を停めてデートしていた専門学校生カップルが襲撃された。

カップルの乗る車をいきなり2台の車が挟み込むようにして停車、不良だと一目でわかる風体の6人の少年少女たちが木刀片手に降りてきて「コラ!降りて来いて!」と怒声を発して車体を叩いたのだ。

身の危険を問答無用で感じた専門学校生は車を発進させ、後部窓ガラスを割られながらも逃走。

不良たちの乗る2台の車も追いかけてきたが、このカップルは幸運にも約5キロ先の港警察署小碓派出所に逃げ込むことに成功したために襲撃者たちの車は姿を消す。


だが、次に襲われたカップルは逃げられなかった。


その一時間後の午前3時30分ごろ、最初の襲撃が行われた岸壁から約250 m離れた81番岸壁上に停車していたトヨタ車のカップルは捕まってしまい、フロントガラスを割られて乗っていた会社員の男性(25歳)は車外に引きずり出され、4人の不良に木刀や警棒で嫌というほど殴られて現金86000円を奪われたのだ。


男性の彼女(19歳)もただではすんでいない。

一味の中の2名の不良少女に「てめえも降りろて!」と髪をつかまれて引きずり降ろされ、木刀でリンチを受けた。

「ブスのくせにええ服着とるな。似合わんだでウチらによこせや!!」と言われて、女性は着ていたトレーナーを脱がされて腕時計も奪われ、なおも罵倒されながら踏みつけられて木刀を体にたたきつけられ、突かれる。


「汚ったねえ顔で泣きやがってよ!!オラ!オラア!!」


「痛い!!やめてくださ…げぼっおっ!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめっ…ぐええぇ!!うぅ~ううぅうう~痛い痛いぃぃ~、わあっっ!!…いったああああああい!!!!」


泣きじゃくって哀願しているにもかかわらず残酷な暴行を加えられて苦しみにのたうち回る彼女を目にし、いたたまれなくなったんだろう。

「もうやめろて!!」

自身も暴行を受けていた男性だったが身を挺して彼女を守ろうと、不良少女を突き飛ばして女性の体に覆いかぶさった。


「てめえオレの女にナニ手エ出しとるんだて!」


「ナニ見せつけてくれちゃってんの?死にてのかてコラア!!」


彼女に手を出されて我慢ができないのは少年たちも同じで、自分たちが悪いにもかかわらず怒り狂って男性の顔を拳で連打する。

女性も殴られ蹴られ続け、暴行は他の車のヘッドライトがこちらに近づいてくるのが見えるまで続き、車もめちゃくちゃに破壊された。

被害に遭った二人は全治一週間の軽傷と報道されているが、それは実際の彼らを目の当たりにすれば軽傷には見えなかったことだろう。

事件後はしばらく表を歩けないくらいひどい有様の姿にされて家に引きこもっており、文字通りボコボコにされていた。

男性の方は死を覚悟したと後に語っていたほどで両人とも心に大きな傷を負ったのは間違いなく、三十年以上たった今でもあの時の恐怖と苦痛を忘れてはいないはずだ。


2月23日時点での報道ではこの二件の卑劣なカップル狩りだけが報道されていたが、実は二件目の犯行の直後に同じ者たちによってより重大な事件が起こされていたことはまだ報じられていない。

その事件こそ日本社会を震撼させることになる名古屋アベック殺人であるが、事件そのものの発生が発覚するのはその二日後である。


そして、犯行はこの日の夕刊に載った同事件が読者に読まれていた時点で進行中だった。

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