第11話 二つ目の『つとめ』
王宮。眼の前には鎧を身に着けたロシャナク。そして机の上には空になった皿。
シェランはどきどきしながらそれを見つめる。
口をそっと白い布でふきとりながら、ロシャナクはこういった。
「――合格です」
やったー!とおもわずシェランは叫んでしまう。
「なんの変哲もない炊き込みご飯ですが――それがいい」
ルドヴィカの言う通りだった、とシェランは心のなかでつぶやいた」
「われらオアシスの民にとって、米は何よりのごちそう。そして貴重な野菜と羊の肉の組み合わせは栄養的にもかなっている。なにより――」
スプーンをとり、そのさきっぽをじっとみつめながらロシャナクは続けた。
「『香辛料』を使われましたね。これは食用だけではなく、薬としてもその効果は絶大と言われています。さらに」
これもまたルドヴィカの入れ知恵である。すこし恐縮してしまうシェランである。
「わが王国にとって、大事な交易の品でもある『香辛料』。これがわがオアシス都市に莫大な富をもたらす元となっています。まさに『永遠の命。不老長寿の秘訣。その糧』の命題にふさわしい。よって――」
こほんとせきばらいをするロシャナク。少し間をおいて。
「『王妃のつとめ』の一つ目、合格とします」
わー!と思わず歓声をシェランはあげる。
それをカーテンの奥から見つめる視線――他ならぬ国王ファルシードの姿であった。ホッとした表情を浮かべたあと、目を閉じ再び執務に向かう――
「ルドヴィカちゃん、ありがとう。おかげでお姫様喜んでくれた!」
市場の店でそうシェランはルドヴィカに報告する。
「あの『香辛料』は私の自慢の調合だからな。どんなやつでもイチコロだよ」
へへん、とルドヴィカは鼻をならす。
「――で、ねえ......実はまた問題が起きちゃって......」
ん?とルドヴィカはパンをはみながら聞き返す。
「姫様からこんなお願いされてしまって――」
小さな紙切れを手渡す。それをルドヴィカは開き、読み上げる。
「『類まれなる宝石。オアシスの女神。それを捧げよ』......?」
うんうんと腕を組みながらシェランはうなずく。
「姫様がねぇ、宝石がほしいって。それもこのオアシス都市でしか手に入れられないようなとーってもすごいやつを。で」
すこし間をおいて、シェランは続ける。
「ルドヴィカちゃんなら、商人だし知ってるかなって......」
ふーんとルドヴィカは考え込む。
「まあ、この都市にはいくらでも珍しい宝石は売っているぜ。もちろん」
指で輪っかを作る。
「これ次第――金次第だがな。姫様のご予算はおいくら万銀ゴルドだい?」
「ええと......それは......」
「まあ、一〇〇万銀ゴルドはほしいところだな」
「いやそれより、こうちょっと......」
「流石は『大鳳皇国』のお姫様だ。桁が違ったか」
「いや、上の方じゃなくて下の方に桁が違って」
「じゃあ一〇万」
「もうちょっとした」
「一万か?」
「いやもっとこう、ずっと――つまり......ゼロ......万銀ゴルドっていうやつで」
動きが止まるルドヴィカ。
「ゼロ......ロハ......つまりただってことで......」
「用事を思い出した。帰ってくれ」
そんな事言わずに~と泣きつくシェラン。
「お前、私は商人だぞ!ただでものを売るバカがどこにいる!」
ロシャナクから出された二つ目の『王妃のつとめ』。それはオアシスの女神と言われる宝石を、自らの力で手に入れることであった――
「まあ泣くのはやめろよ。こっちまで悲しくなる」
ぐすぐすと鼻をすするシェラン。それをそっとルドヴィカはなぐさめる。
「おまえさんがお姫様だとはな。こっちこそ失礼した」
すべてをシェランは打ち明けた。自分のおかれた境遇や生い立ちについても。
「どうせ私なんか......かわいくないし......ビンボだし.....」
「見た目はいいと思うけどな」
ルドヴィカはさり気なくシェランの銀髪をなでる。
「それにしてもなぁ......この『王妃のつとめ』の条件が『一切国費は使わないこと』というのも......シェラン、だったっけ?お前金持ってないのかよ」
全力で首をふるシェラン。
「いやさ、あの『大鳳皇国』からの輿入れだったら色々もらったんだろ。持参金」
「......父様の借金払って、道中の旅費でほとんどなくなって......お金管理している人も途中でいなくなっちゃって......」
なんともしがたい話を聞いてルドヴィカは、はあ、ため息をつく。
しゃあないか。
「よしわかった!私がなんとかしてやる!」
「......?」
「お姫様に恩を売っておくのも商人として悪くない。探してやるよ、『オアシスの女神』を!」
ありがとう!とルドヴィカに抱きつくシェラン。
こうして二つ目の『王妃のつとめ』を探すミッションが幕を開ける――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます