葬送曲
雪間
葬送曲
中学生最後の吹奏楽部の集大成…それであればキリが良かったのに。
あれは中学2年の冬、最初で最後のアンサンブルコンテスト。
終わった。やり切った。
そう思える筈もなく、生温かくなったトランペットは力を残していた。けれどそうしなければ、後はないのだから。そう言ってしまわなければ怒られるのだから。
悔しかった。1stをやらせてもらったのに、あの子、2ndのあいつの方が上手いんだ。わかりきっていた。
でも、泣くつもりなんてなかった。
雑巾や楽譜を少し震えた手で持つ。やっと終わった。寒い中の辛い部活は一旦終わりだ。やっと。やっと…終わったよ。
舞台裏へ歩いて行く間に視界が歪んでいく。先生が近づいて大丈夫かと聞いてくる。嗚呼、かっこ悪いなぁ…
なんとも言えない季節。多分、秋だろう。
朝起きたときに聞いた。
そろそろだろうと思っていたから、そんなに驚かなかった。まだ眠いのか涙が出た。机に向かった。
学校を休んだ。
着た覚えもないのに制服を着ていた。
最後の握手をした。
人間だと思えない程、重たくて、固くて、冷たくて。
死んだ様に手が冷たい、なんて言葉は生温かったのだ。
豪華な車でそれが運ばれて行った。
時間があるだけ、黙々と鶴を折った。
冷たい椅子に座る退屈な時間。
何故、みんな泣いているのだろう。分かりきっていたのに。
病院のベットで起き上がるその人。
話しているのに、途中で寝てしまう。会う度にその時間の割合がどんどん長くなっていく。そういうことなのだと、直感的に理解した。
何故、話せないのに会いに行くのだろう。なら、早くその時間が来て欲しい。
花で棺が埋まって行く。
珠を繋ぐ糸が爆ぜた。
会場は煙たくて、咳と涙を抑える。喉が苦しい。
重い扉は閉められる。
もうその戸が開くことはない。
白く軽く脆い塊の集合体を係の人が説明していく。
手術で入れられた金属がその人であったと示している。
軽い袋と写真を持って揺られる。
煙たい灰の匂いと線香の香りが混じった制服。
いつものように部活の練習をする。
あの人が見に行きたいと言っていた、一度も叶うことがなかった大会の練習。
私は悔やんでいた。
泣かなかったこと、早く亡くなって仕舞えばいいと思ったこと、もっと会ってあげられなかったこと。
だから、私はこの大会の曲をあの人のために演奏する。
きっと泣いたのは、あの人だ。
祖母の思いが私を伝って、溢れたのだ。
叶うことがなかった、私の演奏を祖母は聞いてくれたのだ。
私にはそう思うしかなかった。
祖母の作ったスパゲッティも、おせちも、もう食べられない。
梅の種を抜き、叩き、鰹節と砂糖、醤油を混ぜた、私が好きだろうと作ってくれたものも。
家に行く度に、何個でもくれた蜜柑も。
食べてみなとくれた金柑の苦味も。
あの人がくれたものはこんなにあったのに。
私はいつまでも、悔やみ続ける。
そして、それは増え続ける。
あと何度あるのだろう。
葬送曲 雪間 @yukima_konome
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