後編

 ある日の夜会にて。

「コンスタンサ・マティルド・デ・ポンバル! 俺はお前のような地味な女との婚約を破棄する! そして、ポンバル伯爵家の正式な後継者となったジョアナと婚約をする!」

 コンスタンサの婚約者ドミンゴが公然の場でそう宣言したのだ。

 それに対し、コンスタンサはハッとヘーゼルの目を見開く。

「可哀想なお義妹ねえ様。婚約破棄の上、お義姉様はポンバル伯爵家から追い出されるのよ」

 ドミンゴに肩を抱かれているジョアナは、勝ち誇ったような笑みである。


 ポンバル伯爵家の正式な後継者はコンスタンサだったが、勝手にジョアナに変更されていたのだ。

 グロートロップ王国では正当な後継者以外は基本的に家から出なければならない。


「婚約破棄及び、後継者変更の件、承知いたしました」

 コンスタンサは淑女の笑みでそう答えた。

 すると、ルーベンがコンスタンサの前までやって来て片膝をつく。

「コンスタンサ嬢、それなら僕の婚約者になって、レンカストレ公爵家に嫁いで来て欲しい」

 彼のアンバーの目は、真っ直ぐコンスタンサを見つめていた。

「ルーベン様……! ですが、レンカストレ公爵家にとって利点はございませんわ」

 コンスタンサは少し困ったように微笑む。

「問題ない。その件については、

 ルーベンは意味ありげに微笑む。

「承知いたしました。ルーベン様との婚約、お受けいたしますわ」

 コンスタンサのヘーゼルの目は、嬉しそうに輝いていた。

「まあ、コンスタンサ様とルーベンの婚約、おめでたいわね」

 ふふっと嬉しそうな笑みで、テルマは二人の元へ寄って来た。

「ありがとうございます、テルマ様」

 コンスタンサは嬉しそうにヘーゼルの目を細める。

「ルーベンも、コンスタンサ様のことをしっかり守るのよ」

「言われなくてもそうするさ」

 ルーベンはクスッと笑った。

 テルマの友人達も、コンスタンサとルーベンの婚約を祝っていた。

 その様子を面白くなさそうな表情で見るジョアナとドミンゴ。

「お義姉様はあんな地味な男にプロポーズされて喜ぶなんて、恥ずかしくないのかしら?」

「地味女と地味男、ある意味お似合いだな」

 そう言い捨て、会場から出るのであった。


 その後、トントン拍子でことが進み、コンスタンサはルーベンと結婚し、次期レンカストレ公爵夫人となった。






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 数ヶ月後。

「あらまあ……!」

 レンカストレ公爵城にて、新聞を読んでいたコンスタンサはヘーゼルの目を見開いた。

「コンスタンサ、どうしたんだい?」

 ルーベンのアンバーの目は、優しげにコンスタンサを見つめている。

「こちらをご覧ください。ポンバル伯爵家が……!」

 コンスタンサが読んでいた記事には、ポンバル伯爵家の不祥事について書かれていた。


 ポンバル伯爵家が脱税及び国家反逆を企てていたとして、一族連座で処刑されることになったのだ。

 処刑されるのは、コンスタンサの父と後妻。それから義妹いもうとのジョアナと元婚約者だったドミンゴ。

 コンスタンサは結婚し、ポンバル伯爵家から離れていたので裁かれることはなかった。


「僕の愛するコンスタンサを虐げていたからね。当然の報いを受けさせたまでだよ。。あ、脱税と国家反逆については冤罪ではなく、ポンバル伯爵家が本当にやっていたことだから」

 ふふっと笑うルーベン。

「あらまあ……」

 コンスタンサは困ったように微笑んだ。

(どうしましょう。他の方々はともかく、ジョアナがいないと。これからどうしたらいいかしら?)

 コンスタンサは心の中でため息をついた。






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 コンスタンサは元々色々な面で見る目がなかった。

 自分で選んだドレスやアクセサリーは、粗悪品だったり貴族社会で趣味が悪いとされるものが多かったのだ。

 また、仲良くなった友人も、マウンティングしてきたりと性格に難ありな者が多い。コンスタンサは仲良くなってから後悔することが多々あったが、縁を切るのも難しい。

 そこへ救世主のようにやって来たのがジョアナだった。

 ジョアナはコンスタンサにとって不要なドレスやアクセサリーを奪う形で引き取ってくれたのだ。

 コンスタンサの手元に残ったのは、母の形見のネイビーの古びたシンプルなドレスと古いアクセサリー。

 これらはコンスタンサにとって、他のものよりも気に入っていたものだ。

(もしかして、ジョアナはわたくしにとって不要なものを引き取ってくれるのかしら?)

 そう思ったコンスタンサは、縁を切りたいと思っている者達をジョアナに引き合わせた。

 するとジョアナはその者達を見事にコンスタンサから引き離してくれたのだ。


 当時のコンスタンサには悩みがあった。

 それは婚約者のドミンゴのこと。

 ドミンゴはことあるごとにコンスタンサに暴言を吐いていたのだ。

(ドミンゴ様このゴミを早く捨てたいのだけれど……)

 その時、頭に思い浮かんだのはジョアナの存在。

(ジョアナに会わせたらどうなるかしら?)

 コンスタンサは興味本位でジョアナにドミンゴを会わせた。

 するとドミンゴはコンスタンサから離れ、ジョアナとばかり過ごすようになっていた。

 それにより、コンスタンサは確信する。

(やっぱりジョアナはわたくしにとってゴミ箱だわ!)

 コンスタンサは嬉しそうだった。

(だってこれから不用品はジョアナに押し付けたら良いのだもの!)


 そんなある日、王家主催の夜会でテルマやルーベン達と出会ったコンスタンサ。

 ジョアナはテルマやルーベン達をあまり気に入らなかったようだ。

 そしてテルマがコンスタンサの着用していたドレスやアクセサリーを価値あるものだと言われたことで、こんなことを思い始めるコンスタンサ。

(きっとジョアナが手を出さないものは、わたくしにとって価値のあるものだわ。つまり、テルマ様やルーベン様は、わたくしにとって関係を持っていた方が良い存在ね)

 見る目がないコンスタンサは、ジョアナの反応でものも人も価値あるものかどうかを判断するようになっていた。


 テルマは性格がキツくて有名なのは真実である。しかし、彼女が叱責して泣かせた令嬢は礼儀礼節が未熟だったのだ。テルマはその令嬢を叱責した後、きっちり礼儀礼節を教え込み、恥をかかずに済むようにした。その後、テルマに叱責された令嬢は彼女を慕うようになったのだ。

 また、テルマが国王に直談判して解雇させた文官は不正をおこなっていた。よって彼女がしたことは別に横暴なことではなかったのである。

 一見性格がキツく敬遠されがちなテルマだが、やっていることは正しい。おまけに一度仲間になったものは決して見捨てないので一定数からはかなり慕われているのだ。

 また、一見地味なルーベンも、領地経営の腕は確かなのでレンカストレ公爵家の安泰は保証されたようなものである。


 そしてドミンゴから婚約破棄され、ジョアナからポンバル伯爵家の後継者を変更されていたことを聞かされた時のこと。

(きっとポンバル伯爵家はわたくしにとって不要なものゴミなのね。だったらジョアナに押し付けましょう)

 コンスタンサは内心ほくそ笑んだ。

 そしてその後すぐにルーベンから求婚された時、コンスタンサは喜んだ。

(ドミンゴ様ゴミと完全に縁が切れた上に、少し気になっていたルーベン様と結婚出来るだなんて……!)


 そして今、ルーベンがコンスタンサを虐げていたポンパル伯爵家の者達を破滅へと追いやった。

「心配しないで、コンスタンサ。今後ポンバル伯爵家は、君と僕の間に生まれた子供の中の一人が継ぐことになるから」

 ルーベンはアンバーの目を優しく細めた。

「ありがとうございます、ルーベン様」

 コンスタンサはふふっと微笑む。

 しかし内心少しだけ困ってしまう。

(わたくしはあまり見る目がないから、ジョアナゴミ箱がないと困るのだけど……)

 コンスタンサは今後どうしようか悩むのであった。

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ゴミ箱がないと困るのだけど…… @ren-lotus

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