第16話 固有魔法
『う、ん……? ボクのこと、呼んだ?』
その声は私の腕の中から聞こえた。
ノクティは眠たそうにしながらも体を起こし、とてとてと地面に降りる。
「よかった。目が覚めたんだね」
『うん。お姉さんが助けてくれたんだよね? ありがとう』
ノクティは私の目を正面から見て言った。
この子はきっと真っ直ぐな心を持っているんだろう。少し話しただけだが、妖精たちが愛してやまない理由が分かった気がした。
「ふふ、どういたしまして」
『ところでさ、お姉さんの名前を聞いても良い? ……あ、ボクはノクティだよ』
「私はエヴァ。エヴァ・クレプスクルム。よろしくね、ノクティ」
『ボクの方こそよろしくね』
私はその言葉に笑顔で頷く。
……父様、何かに驚いている?
視線を動かすと、少しだけ目を見開く父様の表情が見えた。一方レジーナさんは何かに納得した様子で頷いている。
どうしたんだろう?
二人の方を見ながら何なのかと疑問に思っていると、父様が話し出した。
「……ところで、エヴァはノクティの言葉が分かるの?」
ノクティの言葉?
……確かに猫であるノクティと言葉を交わせるのは不思議だ。この反応だと、父様はノクティの言葉が分からないのだろう。
普通じゃ起こらないようなことが立て続けに起こっていたからか、自然とこの状況も受け入れてしまっていた。
「うん、分かる」
「そうか……」
父様は何かを考えるようなそぶりを見せた。
ノクティは不思議な顔をしながらもこの状況を見守っている。
でも本当に、どうしてノクティの言葉が分かるんだろう? いつの間にか分かるようになっていたよね? 何か特別なことをしたかな?
……うーん、どうしてだろう?
しばらくの沈黙を破ったのはレジーナさんだった。
『それは固有魔法ではないかしら?』
「こゆうまほう?」
「確かに、そう考えるしかないね」
父様は納得しているようだが、私はどういうことなのか分かっていない。
固有魔法についてって知っているのが当たり前、なのかな……?
と思いつつ聞いてみる。
「あの、固有魔法ってなんですか?」
「ああ、まだ教えてなかったね。魔法は大きく分けると3種類ある。一つが火、水、風、土、光、闇の6属性からなる属性魔法。これは火や水などの属性に関するもので、魔法と言ったらまずこれを思い浮かべるね」
今まで教えてもらっていたのは属性魔法と呼ばれるものだったのか。
さっきノクティに使った治癒魔法は光属性の魔法だったっけ。
「一つが固有魔法。その者にだけ使えて、全く同じものを使える者はいない魔法。固有魔法を有する者は100人に一人いるかいないかくらいだよ。エヴァがノクティと話せているのは無意識に固有魔法を使っているからだろうね」
私、無意識に魔法を使っていたのか……! 驚きだ。
ところで父様にも固有魔法はあるのかな?
「そしてもう一つ、種族魔法。これは各種族ごとに使える特有の魔法だよ。……これについてはまた今度話すね。さて、今までの話で何か聞きたいことはある?」
「あります。……父様も固有魔法を使えるの?」
「そうだね。使えるには使えるんだけど……」
何か言いにくいことなのだろうか?
それだったら無理に聞こうとは思わないけど……。
『あら、もうこんな時間なのね』
レジーナさんは上を向いてふと呟いた。
それに倣って見上げてみると、薄明るい空が見える。
ここって空が見えたんだ。
……そっか。もう朝がやってくるのか。早かったような、遅かったような、なんとも不思議な感覚だ。
「……そろそろ行かないとかな」
「そうなの?」
「この森に長居をすると時間や魔力の感覚が狂うからね」
時間の感覚は分かるというか実際私も狂ってるけど、魔力の感覚ってどういうことだろう?
やっぱりこの森には何かがある。まあ「死の森」と呼ばれているくらいだから、何もない方がおかしいか。
「エヴァ、眠くない? 大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
「じゃあ、そろそろ行こうか」
『それなら出口まで案内するわ』
私たちはレジーナさんの案内で歩き出した。
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