第10話 魔法というもの
旅に出る数日前。
私は父様から魔法について教えてもらっていた。
「——いい、エヴァ。魔法は諸刃の剣だよ。良い結果をもたらすこともあれば、取り返しのつかないくらい悪い結果をもたらすこともある。これを覚えておいてね」
「わ、わかりました」
「うん。それでは魔法について教えようか」
隣に座っている父様は満足したように言った。
「まず、魔法と密接な関わりがある魔力について。魔力は長く生きていけばいくほどに強く大きくなる。エヴァは100年間眠っていた。つまり100年以上生きていることになるね」
「そうですね?」
確かに100年以上生きていることになるけど、それがどうしたのかな?
それだけ魔力が強く大きくなったということ?
「それはこの世界で一番多い種族である人間の数倍魔力があるということ。だから、というのも少し違うかもしれないが、自らの力を正しく制御しなければならない。万が一暴走した場合、止められる者は少ないから」
「確かに……」
「魔力が暴走して制御できなくなることを『魔力暴走』というよ。魔力暴走を起こすとその者自身も周りも危険にさらすことになるから、そうならないように気をつけようね」
父様はさらっと言ったけど、これはかなり大事な話じゃない?
……とりあえず気をつけよう。でもどうやって気をつければ良いのかな?
「そして魔力は強い感情に影響されやすい。例えば怒り、悲しみ、苦しみとかね。そういった負の感情には特に影響される。ではここで問題だよ。感情からの影響を最小限に抑えるにはどうすればいいと思う?」
……なかなか難しい。
まず、父様の説明だと魔力は制御できるものだよね。
で、魔力は感情に影響されやすい。
おそらく魔力と感情は切っても切れないものなのだろう。
それなら単純にこれしかなくない?
「……魔力を制御できるようになる、ですかね?」
「ほとんど正解。それに自分の魔力量を把握する、を付け加えると大正解。魔力を制御しようとするあまり、自身の魔力量の把握を疎かにしている者は意外といる。これをやらないと制御できるものも出来なくなるのにね」
父様は何かを思い起こすように言った。
誰かに思うところでもあったのかもしれない。
「……まあ、それは置いておいて。エヴァは魔力量の把握を忘れないようにね。魔力制御ができるようになると、魔力暴走の可能性は大幅に減少する。だから、これから少しずつ制御の練習をしていこう」
「はい、よろしくお願いします!」
「うん、こちらこそよろしくね。さて、今までの話や魔法についてで何か質問はある?」
質問か……。
……そういえば父様は呪文も杖も使わずに魔法を発動させていた。
これはどういうことなのだろう?
魔法って呪文と杖がないと使えないものじゃなかったっけ?
「……あります」
「何かな?」
「呪文と杖を使わなくても魔法は発動できるんですか?」
「良い質問だね。結論から言うと、できる。呪文も杖もあくまで魔法発動の補助だから。練習をしたりして何回も使ったら補助はなしでも大丈夫になるよ」
確かに、補助ならなくても大丈夫だよね。
「ただ、複雑な魔法や強力な魔法は呪文や杖が必要になることもある。ちなみに、呪文はイメージと思いの具現化を、杖は魔力量の調節を手伝ってくれるよ」
「なるほどです。呪文と杖を使うことによって魔法の成功率を上げる、ということですよね?」
「うん、その通り。……これで質問への答えになっているかな?」
呪文と杖はあくまで補助、魔法を発動するのに必須ではない。
うん、覚えた。
……でも、どうして呪文と杖が必須だと思ったんだろう?
まあ、今はいいか。
「はい、なっています。ありがとうございます」
「それは良かったよ。……そうだ、最後に一つだけ知っておいて欲しいことがあった」
「……何ですか?」
「魔法はね、明確なイメージさえあればなんとかなるということ。色々と説明したけど、結局はそうなんだ」
明確なイメージ? どういうことなんだろう?
父様はおもむろにテーブルに置いてあるコップを手に取る。
「例えば、水を生み出す魔法を使うには、『今』、『このコップに』、『こぼれない程度の』、『冷たい』、『飲める』、『水』を生み出す、というようなイメージをする必要がある」
父様は水が入ったコップを渡してくれる。
いつの間に水を生み出す魔法を使ったんだろう?
「あ、ありがとうございます」
「うん。魔法の呪文に決まった形はないし、それは必須ではない。『水よ』でも『
「な、なるほど」
……『水よ』はまだ分かるけど『
父様が昔使っていた、とか? さすがに違うだろうけど。
……聞きたいけど聞きにくい。
「……念の為話すと、2つ目の呪文は昔ある者が使っていたものだよ。私は断じて使ったことはないからね。断じて、ないからね」
「そ、そうなんですね」
父様は良い笑顔で2回言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます