第1章 目覚め
第1話 目覚め
……苦しい。
息ができない程に強く拘束され、自由が利かない体。
……寒い。
手足の先から冷たくなり、だんだんと感覚を失っていく。
……怖い。
もう苦しさも、寒さも感じない。
感じるのは命が吸い取られていくような嫌な感覚だけ。
……誰か。
光のない闇の中、平衡感覚さえも分からなくなった。
だけど、どうしても願ってしまう。
「誰か私を助けて」と。
……温かい?
とうに感覚を失ったはずの左手に温かさを感じた。
その手は私をここに引き留めてくれている。
きっと大丈夫だ。私はまだ死なない。
不思議とそう思った。
***
楽しそうに
それら全てが心地良く感じる。
まだ眠っていたいな。でももう起きなきゃかな? そろそろ起きないと■■に怒られてしまうよね。
あれ? 私は誰に怒られてしまうの? ……まあいいか。思い出せないということはそこまで大事な記憶じゃないだろうから。
よし、そろそろ起きよう。
私は重たい瞼をそっと開けた。
……眩しい。全てのものが光り輝いて見える。
「……おはようエヴァ、目が覚めたんだね」
左横から誰かの声がした。視線を動かすと、腰辺りまでの黒髪に深紅の瞳をもつ男性と目が合う。その男性は穏やかに微笑んでいた。
眩しくない……?
全てのものが光り輝いて見える世界で、その男性だけが普通に見える。
起き上がろうとするが体に力が入らない。指先だけはなんとか動かすことができたが。
とりあえず起きあがろうとするのは諦め、男性に意識を戻す。
「……ぁ」
あなたは誰ですか? そう聞こうとしたが声が出ない。
声を出すのってどうやるんだっけ?
意識せずともできていたことを体が忘れてしまっているようだ。
「……ああ、少し待ってて」
何かを思い出したかのように言い、男性は部屋から出て行く。
なんだろう? 何かあるのかな?
と思いつつ、私は眩しい世界を眺めていた。
数分後、男性はコップを乗せたトレーを持って戻ってきた。
そして、それをベッドのサイドテーブルに置き、椅子に座る。
「起き上がれる?」
その問いに私は小さく首を振って答える。
「そうだよね。……ちょっと失礼」
すると男性は私の背中に手を添え、体を起こしてくれた。
ありがとうの気持ちを込め、私はにこりと笑う。表情は動かせるようでよかった。
そんな私を見た男性は驚いた後に笑顔を見せる。
「エヴァ、これを飲んで。これは
口元に運ばれてきたそれを、私は進められるがままに飲む。
ほんのり甘くてとろみがある
コップに入っていた
動かせないほど重かった体は軽くなり、忘れていた声の出し方を思い出す。
止まっていた何かが身体中を巡り始める。そんな不思議な感覚もあった。
「……どう? 話せるようになったかな?」
その言葉に私はおそるおそる声を出そうとする。
大丈夫だよ、私。声の出し方は思い出したでしょ。
「……は、はい。……っ! 話せる、話せます! っごほ、げほっげほっ」
「大丈夫? まだ完全には回復してないからゆっくり話そうね」
男性が背中をさすってくれたおかげで少し落ち着くことができた。
話せることが嬉しくて、つい調子に乗ってしまった……。今まで全く話せなかった中で、突然大きな声を出したから体も驚いているよね。
うん、ゆっくり話すことを意識しよう。
「……落ち着きました。ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして」
……眩しくない。
今更気づいたが、あらゆるものが光り輝いていた世界は普通の世界に戻っていた。
なんとなく辺りを見回してみる。
木でできた温かみのある壁と天井。あちらこちらに見える植物の緑。
家具は今座っているベッドと傍にあるサイドテーブル、男性が座っている椅子がある。
必要最低限のものだけがあるといった印象だ。
隅々まで掃除が行き届いているのか埃ひとつないこの部屋には、人の住んでいる気配がない。
だが不思議と居心地の良い空間だ。
……私はどうしてここにいるんだっけ? この人は誰?
待って、その前に……、私は誰?
この人は私のことを「エヴァ」って呼んでいたけど、私は「私」の名前を知らない?
どういうことなの?
「聞きたいことがあったらなんでも聞いてね」
図ったようなタイミングで男性は言った。
たった今できた疑問も聞いても良いのかな? なんでもって言ってたし、良いよね。
「あの、どうして私に聞きたいことがあるって分かったんですか?」
「ああそれはね、私がエヴァの立場なら聞きたいことがたくさんあると思ったから」
「そうなんですね?」
この人がエヴァの立場なら? 口ぶりからしてエヴァは私のことだろう。つまり、私が何も知らないことを知っている?
とりあえず今は聞きたいこと聞こう。
「ところで、あなたは誰ですか? それと私は誰ですか?」
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