永遠が終わるその日まで、きっと私は旅をする。

色葉みと

プロローグ 旅の始まり

プロローグ 旅の始まり

「エヴァ、準備はできた?」


 戸締まりもした。火も消した。家具に埃除けの布も被せた。

 もちろん、持ち物の確認もした。

 それでも何か忘れている気がするのは置いておいて。


「うん、できたよ」

「それでは行こうか」


 父様は頷き、言った。そして外へと通じる扉を開け、一歩踏み出す。

 私は扉の前で一度深呼吸。

 ……よし、行こう。


「いってきます」

『いってらっしゃい』


 一歩踏み出すと同時に私の背中側から優しい風が吹いた。

 いってらっしゃいという誰かの声が聞こえた。

 窓は閉めているはずなのに。誰もいないはずなのに。

 どういうことだろうねと父様に聞こうとしたが、その言葉が出てくることはない。

 なぜなら何かを懐かしむように微笑んでいたから。

 泣いてしまいそうなその表情は、どこまでも孤独だ。

 寂しいね……。辛いね……。でも、父様は独りじゃないよ。私はここにいるからね。

 そう言ってしまいたいがそれはできない。

 父様が感じている孤独と寂しさはきっと、その言葉じゃ気休めにもならないぐらい深いから。

 言ったところで、笑って誤魔化されるのが落ちだ。


「……ああ、ごめんね」


 父様は安心させるように笑い、扉と鍵を閉め、家全体に目眩しと保護の魔法をかける。

 大きな木の幹の中、隠れるようにあった家はあっという間に見えなくなっていく。

 そこには昔から木だけがあったのだと錯覚するように。

 盗賊や動物たちに家を荒らされないように。

 時間の流れのまま朽ちていかないように。

 その静かで美しい魔法に私はしばし見惚れていた。


「さあ、今度こそ行こうか」

「うん」


 そうして私たちの旅は始まった。




 これは永遠と名のつく世界アエテルニタスを旅する永遠を生きる者ヴァンパイアの物語である。

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