第3話 あの場所に
223番街西神高地古町
外はもう夜中
満月の光が、美しく照らす
夜になっても、町に出歩く者はいる
そんな中で、楽しくお菓子やらスイーツの案を練っている一匹の生き物
いつもはお店が終わると、籠って新作のお菓子やデザートを考えているのだが、今日は珍しく案が浮かばないらしい
そんな時は外に出て、のんびりと考える時があるそうだ
ノイズside
「むむむぅ…」
ホイップ殿が自身の店の前で、ゆったりと浮遊している
また新しいスイーツやお菓子の案が思い浮かびそうなのだろうか
「面白そうなことをしておりますね。ホイップ殿」
後ろから声をかけると、私の存在に気付いていなかったのか、びっくりしてこちらに目線を向ける
「うわぁ?!…って……ノ…ノイズ……なんでこんなところに居るのだ」
ホイップ殿は、私のことを警戒しながらジリジリと下がった
「何をそんなに警戒するのですか。”まだ”何もしていませんよ?」
「まだって言ってるのだ!!!絶対何か企んでるのだ!!」
なぜこうなるのかと言うのなら、簡単な話です
ホイップ殿の反応が面白いので、いつもこうしたくなるのですよ
そうこう話した後に、私の目的を話すことに
「お客様が東のほうにいらっしゃるので、一緒に届けるのを手伝って欲しいと、そうホイップ殿が頼んできたのですよ?お相手の都合上、夜しか受けとって貰えないのですから」
「うぅ…そうだったのだ……じゃあ少し待っててなのだ…」
そう言って、自身のお店に戻り、支度を始めました
ホイップ殿は人間に近い姿になったうえで、二つ段ボールを持つ
それも浮遊させて
そういえば、ホイップ殿は浮遊魔術のような物を使えるんでしたっけ
便利なものですね
そして、もうひとつの段ボールは、私が持つことに
「では、行きましょうか」
「はぁい!」
向かおうとした、そんな時
「こんな夜中に、お出かけかい?」
通りかかった者が、ホイップ殿に声を掛ける
彼は赤いメッシュに動きやすそうな和服
それと、刀を腰に帯びていた
「ん~?…あ!
ホイップ殿は、笑顔で返えす
今夜は迷い人も来ず、お店の手伝いをしていた
今日も至って平和だ
夜になり、手伝いを終わらせて、町を散歩する
すると、珍しい子が外に出ていた
僕は気になって、彼女に声を掛ける
「こんな夜中に、お出かけかい?」
「ん~?…あ!貂九さん!!こんばんわぁ~」
彼女は笑顔で、ブンブンと手を振って返してくれた
猫耳と尻尾は隠されており、フードにつながっている燃え袖がゆらりと揺れる
話を聞けば、どうやら東の方にお菓子やケーキを今夜中に届けるのだという
隣にいるテレビ頭のノイズさんは、その付き添いらしい
「その荷物…重そうだけど……」
彼女が浮遊させている荷物は、二つ上下に重なっている
「大丈夫なのだ!これ……くらい…軽々………とっ!」
そう言いながら、頑張って移動するホイップちゃん
しかし、移動はのんびりとしていて、浮遊している荷物が不安定な状態だった
今にも崩れ落ちてしまいそうだ
「僕も手伝うよ」
僕がそういうと、ホイップちゃんはびっくりした様子で僕を見る
「え?!で…でも……」
彼女は荷物をゆっくりと地面に下ろし、手伝ってもらうのは悪いと拒む
「たまには甘えてもいいのではありませんか?ホイップ殿。小さいのを一つ持って頂いて、あとの二つは私と彼でそれぞれ持つなんてどうですか?」
ノイズさんの提案で、渋々承諾してくれた
僕は小さな段ボールを一つ持ちあげる
中には沢山のプリンやクッキーが入っているのだという
落とさないように気を付けないとね
そう考えていると、遠くから、微かに”何かが”聞こえてきた
「……っちに…………きて」
僕は後ろを振り向く
しかし、風景は何も変わりはない
いつも通りの町だ
その声は、あまりはっきりと聞き取れず、途切れ途切れ
誰かに、呼ばれているような───
「………貂九さん?どうかしたのだ?」
ホイップちゃんが、心配そうに僕の顔を覗いてくる
「何回も呼んだんだけど、何も反応しなかったから…」
いつの間にか、ボーッとしていたようだ
僕はホイップちゃんの目線を合わせるようにしゃがみ、笑顔で応えた
「いや、大丈夫。さ、早くいかないと間に合わないよ」
「はッッ!そうだったのだ!!早く行くのだぁ!」
彼女は地面に置いていた小さな段ボール一つを浮遊させ、急ぐ
「相変わらず賑やかですねぇ。我々も行きましょうか」
ノイズさんも荷物を持ち、ホイップちゃんの後に続いた
「そうだね」
僕もそう答え、荷物を持つ
先ほどの事は気にしないでおこう
───ただの、空耳かもしれないからね
森付近から少し離れた木陰
彼らの街を覗く双子
二人の容姿は子供であり、
お互いに手を繋ぎ、青色のお面をつけた少年が口を開く
「……よんでみたけど、こなかった。むずかしいな」
そう少年が言葉を発すると、赤色のお面をつけた少女も頷き、同意する
「うん。むずかしいね。でも、きづいてくれそうだった。つぎは、どうするの?」
少女はそう言って、彼らをまた見つめた
「まず、ここのきけん、しらせる。だいじ」
少年は、近くにある木に片手を添えて、目を向ける
その様子を見た少女は、223番街の方面に指をさす
「わかった。ここ、だいじ。あそこも、だいじ」
少女の言葉に、少年はコクリと頷いた
「「はやく、"あのばしょ"へ、みちびくの」」
風が、強く吹き付ける
二人の姿は、霧の中へ隠れてしまった
その頃、事務所にて
月ノ宮side
少年は、ぽつりぽつりと話し始める
「…僕は、小さい頃から色々見えるんです……それこそ…幽霊さんとか…」
話は続いていく
要約すると、彼の両親は
実家が神社であったため、彼自身も、そのような仕事に就く予定だったらしい
そのころから、普通の人間では見えるはずのない幽霊や精霊が見えるのだという
また、善と悪を見分けつけるオーラというものまでも見えるのだとか
色が
色が
色は人によって違うらしく、黒鉄やレドナであれば
赤竜であれば赤色などらしい
その中でも、特に黒色は悪人を示すとのこと
こうして話してくれるのも、それで判断したのだという
りゅーがの耳や、らいの尻尾を見ても追及せず、驚いて居なかったのは、様々な妖達を見慣れていたのだろう
「では何故、一人で居た?」
私がそう聞けば、少し間が開いた後に、彼は答えた
「……両親が事故で亡くなって…親戚に引き取られたんですけど………ずっと邪魔者扱いされてました……僕はあの場所に居ちゃいけないんだって…」
そう言って俯きながら、白猫を撫でる彼
そんな中、白猫はグルグルと喉を鳴らしながら、気持ちよさそうにしている
満足したのか、白猫はその場で足を伸ばす
ふと、私は白猫の肘あたりに目を向けた
何やら文字が刻まれていたが、呪いというわけでもない
単なる
しかし、猫に刺青なんて入れるのか?
不思議に思ったが、今は”神隠し”についても聞いていこう
なぜそこまでして森に向かいたいのかもあるが、聞かれたくないこともあるだろう
「それと…神隠し、と言ったな。詳しく聞いても構わないだろうか」
私がそう聞けば、彼はコクリと頷く
「…神隠しについては、知っている方もいらっしゃるかもしれません。ですが、僕の知っている神隠しは、”普通のとは違うのです”」
「違う?何が違うんだ」
夜桐がそう聞けば、彼は白猫に目線を向け、頭を撫でながら話を続けた
【誰かに呼ばれ、導かれるように向かう。そして、二度と会えないであろう人影。家族、親友、愛人など様々だ。誰しもが無我夢中で走り、向かうだろう。しかしそれは、”本人ではないということ”。化け物がその者に化け、餌を待つ。その化け物は人間問わずであり、虫や動物、更には”妖”や”悪魔”でさえも食らうのだ。もし、誰かに呼ばれても、決して向かってはいけない。向かっていった者の末路など、わかりきっていることなのだから。そうならないよう、大昔に森の中で社を建て、
「もしかしたら、この化け物の封印が解かれたのかもしれない」
真剣な目で、そう話す彼
「…だが、そんな話は聞いたことがないぞ」
風樹は、ホシグマの言葉に反応する
私も、あの森に神社があること、別の神隠しがあるというのは聞いたことがなければ、感じたこともない
神隠しとは本来、悪戯好きの妖や神の仕業なのだと言い伝えられている
所説はあるが、その中でも極悪と言われるほどの神隠しなど聞いたことは無かった
これは、他のメンバーもそう思っているのだろう
もし仮に神社があり、彼の憑いている呪いが解ける程の実力を持った神がいるのなら、すぐに気づくはずだが──
そう考えていると、少しばかり間が空く
すると、彼は口をゆっくりと開いた
「それと……」
両袖をゆっくりと交互に捲る
彼の両腕には、
私は唖然とするばかり
先程まで無かったというのに、彼が袖を
見たことも、感じたこともない強力な”呪力”
彼はすぐさま捲った袖を戻す
すると、先程までの気配が消える
「この呪いを解くため…この世界のために、どうしても…森の中にある”あの神社”へ行きたいんです」
・・・・・・・・・・・・・・
「ほら、早く食べなきゃ冷めるぞ?」
カレーを目の前に、スプーンにも手を付けていない風樹君にそう伝える
彼は少し拒みながらも、ゆっくりとカレーを口に運んだ
「…!………美味しい…」
緊張や疲れが解れたのか、食べた瞬間彼から笑みが零れる
さっきまで色んな話をしたせいか、相当お腹を空かせたらしく、話が終われば俺のところに来てご飯を食べさせていたのだ
話によれば、例の事件で彼が関係している可能性が高く、223番街にも被害が及ぶことも視野に入れて、忙しくなるのだそう
だからみんなは、各々の作業や任務に取り掛かっていった
調査に向かう準備をしたり、情報を集めに行ったりなのだとか
「にしても……仲良しだね」
初めて会った時からだが、膝の上に乗っている白い子猫が気になってしょうがない
「昔からのお友達なので…ずっと一緒なんです」
彼は笑顔でそう言いながら、カレーを美味しそうにゆっくりと食べる
「せーがぁ~!らいはお菓子が欲しい。くれ」
らいちゃんがそう言いながら、椅子に座り、机を両手でぺしぺしと叩く
りゅーがちゃんはいつの間にかどこかへ行ってしまったが……
「さっき沢山食べてたでしょうが。駄目だ」
「けち!!!」
イライラしているせいなのか、三本の尻尾を激しく揺らす
らいちゃんはお菓子だけ、別腹なのだ
「それと…
既に片足が水槽の中に溶け込み、今にも水槽から水が溢れだそうとしてる
「え?ダメなのですか??」
「ダメに決まってんだろ。ここが水浸しになる」
そう注意していれば、風樹君がこちらを見て、呼びかけてきた
「あの…お菓子って、そんなに美味しいものなのですか?」
いつの間にか、風樹君はカレーを平らげ、らいちゃんに質問を投げる
いや食べ終わるの早すぎな
そんなにお腹空いていたのか
俺がそう考えていると、らいちゃんは風樹君の方に目線を向けた
それはもう驚いた様子で
「え!?!?お菓子食べたことないの?」
「えっと…ない……です…」
少し、しょんぼりとする風樹君
「せーが!なんか作って!」
らいちゃんが椅子から立ち上がり、唐突にそう言ってくる
「えぇ………そういってもなぁ…」
「え?まさかお菓子なんて難しすぎて作れないとか?」
俺を煽るように言ってくるらいちゃん
「は?作れるわ」
作れるには作れる
何か食べさせてあげたいのは山々なのだが、あいにくお菓子を作る材料が少ない
どうしたものか
「いい香りがしておりましたが…何をなさっているのですか?」
そんな時、扉が開かれる
そこにはかぐやちゃんが立っていた
「あ、かぐやちゃん。お疲れ様」
「はい。皆様もお疲れ様です!……っと…そちらの方は……お客様ですか?」
かぐやちゃんは風樹君を不思議そうに見つめる
「どうも…風樹と申します……」
車椅子を少し動かし、かぐやちゃんの方向に向けさせ、お辞儀をしながらそう言った
「初めまして!天野かぐやと申します」
お互いの自己紹介を終えたところで、かぐやちゃんは何やら袋を持っていることに気付く
「かぐやちゃん。その袋は?」
俺がそう聞けば、かぐやちゃんは笑顔で答える
「これですか?ホシグマ様と223番街へお出かけをした際に、あるお店の方から頂いたクッキーです。皆さんで分けて食べて欲しいとのことでした」
「お、丁度いいタイミング」
「……?」
かぐやちゃんはキョトンとし、首を傾げる
俺は、今までの経緯をざっくりと説明した
・・・・・・・・・・・
「そうだったのですね…お体の方は大丈夫なのですか?」
かぐやちゃんは心配そうに、風樹君へそう聞いた
すると彼は、笑顔で答える
「はい。青娥さんから美味しいご飯を食べさせてくださいましたし、ほかの方々にもよくしてもらったので…」
「そうですか。もし怪我をしてしまったら、私に言ってくださいね」
かぐやちゃんに任せれば、大丈夫だろう
そうしていると、風樹君も気になって仕方がないのか、渋々かぐやちゃんに聞く
「あの…僕も、食べていいですか?」
「どうぞ!私はお昼に一つだけ食べたのですが、とても美味しかったですよ」
風樹君は、かぐやちゃんから貰ったクッキーを口へ運ぶ
「甘い…とても美味しいです。これはらいさんが食べたがるのも納得がいきますね」
二コリとしながら、風樹君はらいちゃんを見つめる
「そうでしょそうでしょ!」
ドヤッとさせながら言うらいちゃん
「なんでらいちゃんが自慢げになるの…」
「ふふふ…」
俺は呆れながらそう言えば、かぐやちゃんはクスクスと笑う
らいさん達は、わちゃわちゃとして楽しそうだった
ここは、とても暖かい場所なんだな
久しぶりに食べたカレーに、初めて食べたクッキー
どれも美味しかった
もう一度食べてみたいと言ってみると、明日その店に案内してくれるのだという
早く……明日になってはくれないだろうか
今夜は、僕も今回の件で森へ同行させてもらうことになっている
正直なところ、不安だ
怖いに越したことはないけど…やってみるしかない
───この呪いが、消えてくれるのなら
さっきからずっと、嫌というほど聞こえてくる声
彼らに話している間も、ずっと──
『おいで』
お母さんの声
『おいで、風樹』
お父さんの声
何度も何度も、鬱陶しいくらい聞こえてくる
それに、子供のような人の声まで聞こえてきた
絶対に、向かってはならない
偽物だって、分かっている
けれど、思ってしまう
居なくなっている、そうなのだとしても、もう一度───
”会いたい”、なんて思ってしまう
「あれ??鏡虹は?」
らいさんがそう言うと、みんな周りをキョロキョロと見渡し始めた
「そういえば……どこかに行ってしまったのでしょうか」
僕とらいさんが話している佐中、何やら下の階が騒がしくしている
「鏡虹さーーーん!天井に居られると水浸しになるっていいましたよねー!」
赤竜さんの声が響く
鏡虹さんはまた天井に居るらしく、赤竜さんに怒られているのが伺える
その声を聴いて、らいさんとかぐやさんが様子を見に行った
「はぁ…いつもいつも騒がしいな」
青娥さんは頭を抱えながら片づけを進める
「でも、とても賑やかでいいと思いますよ」
僕が笑顔でそういえば、そうか?と青娥さんは首を傾げた
羨ましい
僕に、帰る場所なんてどこにもない
けれど、あそこにだけ、大切な場所がある
昔、僕がまだ小さいころ、とある森に遊びに行った時があった
僕の家系は代々、あの森に位置する神社にお参りすることを大事にしていたらしい
あまりよくわかっていないけど、余程大事なんだなとは分かる
その時から、僕の目は見えてはいけないものが見えていたし、善悪を見分けることも出来ていた
発覚した当初は、僕がまだ6歳の頃だ
両親にこのことを知らせると、他の人には絶対に言わないと約束してほしいと言われた
今なら分かる
五年前、僕が10歳のころに、両親の葬式を行った
場の色や雰囲気は…正直最悪だ
黒やら灰色やらの色が沢山見える
親戚に引き取られても、あの空気には耐えられなかった
それに、耳を傾ければ…
"まだ小さいのにな"
"まぁ当然の結果よね。だってあの子は………"
──呪われているんだから
永遠に、この夢から出られずにいる
気づけば、無我夢中で雨の中を走っていた
僕のせいで、両親が死んだのだ
全部、僕のせい
眩しい光が瞳に映る
気が付けば、見知らぬ天井が見えた
どうやら、僕は交通事故にあったらしく、左足がダメになったそう
みんな黒い霧に覆われていて、重い空気
もういらない存在なのだと言われ、捨てられたも同然なのだろう
正確に言えば、追い出されたと言えば正しい
事故から二か月経った頃
ふと、とある記憶が蘇る
『もし何かあったら、またこの神社に来なさいな』
僕は病院を抜け出し、あの場所まで杖を使って、街を放浪した
──3年前、とある森の中にある神社──
両親が亡くなって2年が経過した頃
引き取ってくれた親戚の人たちは、僕を恐れていた
みんなから気味悪がられる
見えてはいけないものを見えると言っただけで嫌われた
何がいけないのだろう
僕は悪い者でもないのに
彼らも、何もしていないのに
どうしてそんなひどいことをするのか
理解が出来なかった
だから、人の信用なんてできやしない
僕はいつの日か、あの森へ逃げるようになった
両親といつもこの森で遊んだり、お参りしたりしていたからだ
いつものように森の中へ入り、しばらく歩くと小さな神社が見える
すると、僕の存在に気付いた子たちがこちらに目を向けた
「あ!いらっしゃ~い!ひとのこ~」
「ひとのこ~」
僕より少し大きな犬や兎などの動物たちが、ふわふわと浮きながら元気そうに僕を呼ぶ
この子たちは動物霊
特に害はないから、普通に接している
僕は彼らのところまで歩き、近くまで行き呆れながら彼らを見た
「だから、僕は風樹だって…」
何度も人の子という呼び名なのは、あまりなれないし、ぎこちない
すると、社のほうから女性の声が聞こえてきた
「何度言っても変わらぬぞ?風樹よ」
「あ、
そこには、全身白く、前帯は水色を象徴とした着物を纏った綺麗な女性が立っている
髪は腰当たりまであり、絹のような白い髪に、優しい緑の瞳をしていた
この方は、この世界の様々な災いから守ってくれる神様
何故人間である僕が見えるのか、全くもって不思議だ
「道祖神さま~!ひとのことあそびたぁい!」
犬の霊は道祖神様に近づいてそういう
「…それは主らの目の前にいる本人に言え。私ではなかろう?」
「道祖神さまもあそぶ~!」
「我もなのかw」
道祖神様は笑顔で、優しく彼らと話す
最初、神様や妖は怖いものだと思っていた
しかし、いざ会ってみると、全然違うものだ
しばらくみんなと野原で遊ぶ
僕は疲れたので、神社の影に座り、休んでいると、道祖神様が隣にやってくる
「…風樹よ。あやつらの相手をしてくれること、いつも感謝しておるぞ」
「いやいやそんな…僕はみんなと遊べるの。好きなので……」
どぎまぎしながら伝えた
すると、道祖神様は申し訳なさそうに話し始める
「すまぬの…もう少し時が早ければ、主の役に立てただろうに」
なんだ
そのことか
そう思いながら、僕はニコリと笑顔で返す
「…気にしてませんよ」
僕の手のひらを覗けば、小さく
他人には見えないもの
これは一種の呪いだ
初めてこれを道祖神様に見せた時は、すごい驚かれていたっけ
古代に伝わる呪いで、当時の神でしか扱えないものらしい
その中でも強力なものが、僕に憑いているのだ
道祖神様でも解けないらしいから、しばらくの間はこのままなのだそう
この呪いのせいで、僕の両親は死んだ
ここは、第二の故郷とも言える場所
そう…大切な場所
僕は、ここが大好きだ
「さて、もう遅い。赤子は寝る時間だぞ」
道祖神様の言葉に、空を見上げると、綺麗な夕日が広がっていた
子供はそろそろ帰らなければならない時間
「えぇ!もっと遊びたいよぉ道祖神様ぁ~…」
動物霊たちは駄々をこね始める
「何を言っておるのだ…騒いでしまったらまた面倒なことになりかねないのだぞ?明日にもまた遊べばよかろう?」
まるで、みんなのお母さんのようなひと
僕の両親は、もうこの世界にいない
けれど、いい両親だったということは覚えている
優しい両親
「いつ部外者が来るのかわからないのだからな。さっさと帰って寝るのだぞ」
「「はぁい!」」
道祖神様の言葉を聞いて、動物霊たちは元気よく返事をする
そして、自分たちの住処に帰っていった
道祖神様、何やらピリピリしている様子
珍しいな
そう思いながら、僕はまた空を眺めた
「さ、主もそろそろ帰れ。夜も近いんじゃからな」
道祖神様はそう言って、僕を見つめる
「最近では、天界でも騒がしくなってきておる」
「天界が…ですか?」
天界が関わるとなれば、とてつもなく大きな出来事が待ち受けていることを意味する
「…またしばらく、こちらには居ないのですか?」
ふと、そんな言葉が零れた
僕はただの人間だし、何も役に立たない
こんなことを聞いても、何も変わらないのだろうに
「大がかりな仕事が入ったのでな、一度天界に戻らなければならないのだ」
「そうですか…僕に、何かできることは……」
「…お主はただの人間であろう?気持ちは有り難いが、何も出来やしない。それに、危険も伴う。やめておけ。さっさと帰るのだぞ?良いな。何かあれば、”あやつ”に頼れ。それと……」
──お主が15にもなれば、呪いも解けるようになっていると思うぞ
「時が訪れたら、必ずここに来い。良いな」
そう伝えられ、道祖神様は天界へと向かった
ポツンと一人、神社に居座る
「待っていも無駄だよ。諦めなさいな」
大人な雰囲気の動物霊さんが目の前に現れ、僕に言う
「あ、キツネさん」
狐の動物霊で、唯一のまとめ役を務めている霊だ
あまり姿を現さないキツネさん
名前を全然教えては貰えないから、僕はキツネさんと呼んでいる
そんな彼女は、僕の隣にふわりと座った
「道祖神様も、あんたのことを思って言ってるんだと思うよ?少しは聞いてあげたら?」
「それは…そう……だと思うんだけど…」
僕は俯き、考える
「納得してない感じかい?」
「……うん…」
渋々頷く僕を見て、キツネさんはため息を吐いた
「あんたはいつもいつも……自分以外のことを考えているね。前から言っているけど、あんた自身のことも大切にしなさいな」
キツネさんはそう言いながら、モフモフとした小さな獣の手をポフッと僕の頬に置く
「…でも……まだ恩返しもしてないし………」
道祖神様は、お母さんのように僕を見てくれた
──僕を助けてくれた恩がある
「恩返しも何も、風樹が生きて入ればそれでいいのよ。それが道祖神様の望みでもあるんだからね。さぁさ、早く帰りなさい。また怖い大人が来て、面倒ごとが起きてしまうわよ」
それは…困ってしまう
渋々ではあるものの、警察沙汰にされたくはないのは確かだ
「うん。またね。キツネさん」
僕は素直にそう言って、森の階段を下りていく
「気を付けて帰りなさいね。もし何かあったら、またこの神社に来なさいな」
そう聞こえた後、キツネさんはまた森の奥へと向かっていった
──現在──
森の奥深く
一人の妖が、森の中を巡回する
九つの尻尾を揺らして、のんびりとしていた
九尾side
「全く……あの神様はいつまであたし達を待たせればいいのかねぇ。あれから全然帰って来ないし。ほんと、何をやってるんだろうねぇ」
森の奥で夜の景色を見ながら、そうぽつりと言葉を零した
久しぶりに昔のことを考えていると、もうそんなに時が経過していたことに驚いてしまう
大昔、それはとんでもない妖怪が居たのさ
あたしより力は強く、みんなの力を合わせても倒せなかった悪魔のような奴
そいつは人間に宿った感情を利用しておびき寄せ、食っていたのさ
人間たちの間では神隠しなんて言われていたが、あたしらからすればとんでもない殺人者
何もできず、あたしも食われそうになった時、風樹と彼のお父さん、そして道祖伸様が助けに来てくれたんだ
そりゃもう凄かった
神の力と人間、そして妖怪たちまでもが手を取り合って封印することが出来たのだから
人間はめんどくさい者
最初はそう思ってい居たが、今は違う
あたしも丸くなったと、風樹の親から言われた
あの子が何かを成し遂げたいだとか、助けたいだとか思っているのなら、全力で手を貸そうなんて思っている
ふと、あの子の両親が願っていたことを思い出した
どうか
どうかこの子達に
神のご加護がありますように
女の腕の中に抱えてる小さな体の風樹
それと、彼女の中にいる胎児達
一度会って見たかったと、寂しく思えた
あの子たちの願いは、あたしらが守らなきゃいけないのだと、改めて思ったのだ
「…今更考えても、何もないね」
そうぽつりと呟く
そんな時、何やら異様な気配を感じた
「……何?」
そういえば、最近になって人間達がこの森に足を踏み入れるようになったのを見かけたけど……
最近はやけに血の匂いが強く感じるようになったんだ
そこら中探しても、いつも通りの森
嫌な予感がするから、より警戒をしなきゃ行けないんだけどねぇ…
「おい」
「?!」
後ろからの殺気に気づき、体を大きくさせ、振り向いて奴に威嚇する
そこには、一人の白髪の人間が立っていた
いや、人間に
「ほぉ…てめぇは
「
今は九尾としているが、昔は
けど、それは大昔の話だ
あたしは狐の姿から和装を纏った人間の女に変化する
「…で?あたしに何の用?何も名乗らずに来るなんて失礼なんじゃないの?」
そう聞けば、奴はゆっくりと歩きだした
「どうでもいいだろ?言ったところで、すぐ忘れるだけだ。それに、用も何も、俺はこの世界全てを食らう。…全て壊さなきゃいけねぇんだ」
何を言っているのかさっぱりだねぇ
けど、これだけは分かる
嫌気がさすほど強く感じる”血の匂い”と”強力な
こいつは──放置しちゃいけない奴だね
「ま、今そんなことはどうでもいい」
奴はそう言って、あたしの方に殺気と、鬼と化した腕を向け、一直線に向かって来る
その顔は、怒りと悲しみに満ちているように見えた
「あんた……」
呪い子?
・・・・・・・・・・・・
ヘイズside
「……ッチ…」
俺は舌打ちをしながら飴玉を取り出し口に運ぶ
ボロボロの神社にある木の上から、夜の街を眺めていた
ふと、思い返す
『あんた……呪い子?』
あの狐野郎からそんな言葉を聞くなんて思いもしなかった
結局どこかへ逃げて行きやがったし、より一層苛立ちが収まらない
俺はそう思いながら、自分自身の頬に手を当てる
普通の肌とは違い、草木が巻き付けられ、触ればチクチクと痛みだす
「あ!やっと見つけたぁ!調子どう??いい感じ?」
嫌な声が耳元で響いた
反吐が出そうになるほど、気分が悪くなる
「…はぁ……ナナシ。勝手に後ろから抱き着くな気持ち悪りぃ」
俺がそう言えばナナシはその場からすぐに離れ、奴は頬を膨らませながら言ってきた
「えぇぇ?酷くなぁい?せっかくいい”おもちゃ”を沢山集めて来たんだから、喜んでくれるって思ったのに」
ナナシが怪しく笑う
ふと周りを見てみれば、今まで集めてきた人間、動物…そして妖怪共が透明な糸で吊るされている
周りの地面には、赤い血の池が出来ていた
相変わらず容赦はないが、全員息をしている
死んでいたのなら、魂が無いのと等しいからな
まだ良しとするか
そう思っていると、ナナシは大国主のようにニタリと笑って語りだす
「思い出すなぁ…もう居ないはずの人が生きてるって勘違いしたり、好奇心で近づいたり、優しさで駆け付けたり……小さな希望を持ちながら向かった先は”口の中”。みーんな餌なんだって自覚した瞬間に叫ぶんだもん。面白かったぁ…」
俺は大きな溜息をして、呆れながら奴を見た
「それは大昔に仕組んだお前の仕業だろうが。つか、同じことしなくても色々あっただろ」
「だってぇ…他の試したところでつまんなかったし、こっちの方が効率的にも良かったんだもーん。けど、もう少し食べたいなぁ……」
奴は自身の舌をペロリとさせ、ヨダレを垂らす
「…どれぐらい食ったのかは知らねぇが、あの大社や街に居る奴らは俺の獲物なんだからな」
俺が睨みながら言えば、ナナシはケラケラと笑いだす
「あははは!分かってるってぇ…ちゃーんと守ってるよ。それに、もう少しで君の”お目当て”も来るだろうし」
そう言いながら、ナナシは片手に壊れかけの懐中時計を俺に見せて来た
「なんだ?それ」
「この前拾ったんだぁ…不思議な力が使えるからあげようかなって思ってさぁ……」
ナナシはそう言って、懐中時計を左右に揺らしながら俺の目の前まで差し出す
そして、俺の耳元まで口を近づけて来た
「これを使うとさぁ……─────で、────なんだってぇ」
期待はしていなかったが、案外使えそうな品物だ
「…なるほどな」
俺は懐中時計を受け取り、鎖を自身の掌に巻き付ける
「”あれ、やっていいぞ”」
するとナナシは一気に声のテンションが上がり始め、立ち上がった
相当嬉しかったんだろう
にっこりと笑いながら、俺の顔を覗き込んで口を開く
「え?!ほんとぉ?!やったあ!じゃあ早速始めるね!」
奴はそう言って神社の前まで飛び降りると、片手を口元まで持っていき隠す
口を開き何か唱えると、中から黒い煙が溢れだした
煙からは、呪い達の笑い声が聞こえてくる
「さてさて……遊べる準備は整ったね。よぉし…まずは"あそこ"だねぇ……みんなぁ」
──おいでぇ
ナナシは”例の街”に向かって声をかけた
呪われている霧が向かってゆく
そしてその声は、徐々に変わっていった
まるで、”あの猫又”のような
その頃、223番街東中央区郊外
ホイップside
「うぅ…やっぱりここは落ち着かないのだ……」
僕は今、お客さんに頼まれたお菓子とケーキを詰めた小さな段ボールを、人間に擬態して大事に持って歩く
東は雰囲気はあまり得意じゃない
だからいつも付き添いを頼んでるんだけど……
やっぱり慣れないのだ
「やはり私が持ちましょうか?」
ノイズが僕に向かってそういった
「いいのだ!!これくらい自分で持てるのだ」
「おやおや、意地を張らなくてもいいのですよ?」
「張ってないのだ!!!」
いつもこうなる
毎度毎度……弄られるから、あまり得意じゃないのだ
でも、僕の作ったスイーツとかは買ってくれるし、どことなく付き合ってくれるから、助かっているんだけど……
「まぁまぁ、ようやくあと一つなんだし、早く配達を済ませよう」
貂九さんが言ってくれたお陰で、何とかモチベーションが上がる
そうしていると、背中から視線を感じた
「……ん?」
なんか…見られてるのだ?
ふとそう思って、後ろを振り向いた
見てみると、薄暗い通路から見覚えのある姿が目に映る
「…あれ?……らい様?」
ここにいるなんて珍しい…なんて思いつつ、眺めていると、らい様は薄暗い通路へ小走りに歩いて行った
「おいで…おいで……」
らい様が手招きをしながら僕を呼んだ
不思議と追いかけたくなる
少しばかり眺めていると、何やらスキップしながら奥へと向かっていくのが分かった
「らい様!ちょっと待ってなのだ!」
僕はダンボールを持ち、追いかける
真っ直ぐに進んでいっても、らい様に追いつけずにいた
猫さんだから、歩くのも早いんだろうな
そう思いながらついて行く
「待ってぇ!らい様~」
呼びかけても止まってくれない
そうしていると、暗闇の通路から抜け出せた
そこは広々とした森の中で、長い階段を上り終えた真ん中あたりに古びた神社みたいなものが立っていたんだ
「らい様~!どこに行ったのだぁ?」
呼びかけながら周りを見渡す
けれど、見失っちゃったみたいなのだ
「…というかここ……どこなのだ?」
こんな道は初めて見つけた
「なんかの抜け道的な場所なのかなぁ…」
不安になりながらも、大事に荷物を持ちながら歩き出す
大切な物だからね
古びた神社に向かうために、とても長い階段が待っていた
小さな鳥居が階段に沿って幾つも
「ほぁ……なんか凄いところを見つけちゃったのかもしれないのだ……らい様こんなところで何かするのかなぁ…って、あれ?ノイズ?貂九さん?」
いつの間にか、他の二人の姿がなかった
ど…どうしよう
帰り道なんて全然覚えてない
さっきの道を戻ろうとしたけど、さっき通った道が消えていることに気付く
まさかとは思うけど、これ結構遠い所まで歩いちゃったのかな
「これ…完全に迷子なのだ……みんなどこに行ったのだぁぁ…」
元に戻ろうにもただただ暗い森のなかだし、少しだけ明かりが漏れている神社に向かうことにした
階段を頑張って階段を上ってゆく
「はぁ…ど……どこまで行けば着くのだぁ…?」
疲れて行きながらも、頑張って上る
ようやく着くと、大きな鳥居が入り口にあり、広々とした景色の奥には古びた社が佇んでいた
「…?こんなところにも神社なんてあったんだ……あ!今度みんなに伝えて、ここで遊んだりとかできそうなのだぁ」
そんなことを言っていると、後ろから聞き覚えのある男性声が聞こえてくる
「あれれ~?こーんな所に”人間”?なんでぇ?呼んでないはずなんだけどなぁ……」
ボクはその声を、一度たりとも聞きたくなかった
怖くなってその場に留まる
というより、足が氷になったみたいに動かないのだ
──逃げたいのに、逃げられない
「なぁにしてんのぉ?」
後ろからねっとりしたような喋り方でボクに声を掛けてくる
「だ……誰なのだ?」
ボクは、その人に問いかけた
「僕?僕はナナシだよぉ…君は?」
───少し時は戻り
ノイズside
気長に話していれば、何やら視線を後ろへ向くホイップ殿
「ホイップ殿?どうかされました?」
私がそう聞いても、何も返事はせず、ただただ薄暗い通路を眺めている
「らい様!ちょっと待ってなのだ!」
「え?!ちょっとどこに行くんだい?!」
貂九殿の言葉を無視してまで、ホイップ殿は走り出す
貂九殿も、ホイップ度を急いで追いかけていきました
「おやおや、お待ちくださいお二人とも。配達はどうするのですか?」
そう聞いたところで、耳に入っていないらしい
気楽に返事をしていましたが、こればかりは仕方ありませんね
一つだけ、気になったことがあるのです
ホイップ殿が声をかけた先なんて……
────誰もいなかったのですから
よく目を細めれば、何やら気味の悪いものが見える
そして黒い霧に、多くの怪しい笑い声
「…少し、面白いことになりそうですねぇ」
私も二人を追いかけて行きました
暗闇の中を、前へ前へと進んでいく
勿論、貂九殿とホイップ殿を追いかけながらです
すると、一気に白い霧が立ちこむ
風が勢いよく吹き付ける
「………おや?ここはどこなのでしょうかね」
一瞬にして霧が通り過ぎたと思えば、目の前の景色は路地裏などのような場所ではなく、”とある森”へと繋がっていました
後ろを振り返って見ても、先ほど通った道はどこにもない
この街から離れているようにも感じますが…
「ノイズさん!」
そう考えていると、貂九殿が私に声を掛ける
「そんなに慌ててどうしました?貂九殿」
私は貂九殿の声が聞こえる方面を向く
瞬間、その光景を見て私はすぐさま理解し、手元に所持していた銃を取り出す
「離れて!!」
貂九殿が刀を”奴らに”向けていた
何せ彼の目の前には、血だらけの”妖達”が襲い掛かって来たのですから
黒鉄side
僕たちは、風樹君を連れて任務を行うことになった
森に向かうメンバーは僕とおじいちゃんに天龍
そして夜桐と風樹君の五人
海はりゅーがとレドナ、らいに鏡虹
大社や223番街に関しては、他のみんなが守ってくれるから大丈夫やろ
風樹君の連れていた白い猫はというと、いつの間にか先に行ってしまったんや
ぼ
どうやら、僕らの道案内をしてくれるらしい
本当に大丈夫なんやろか……
そう思いながら風樹君の車椅子を押していると、前でギャーギャーと騒いでいるムサ苦しい男供が居た
「えっと……止めなくていいんですか?」
風樹君はその様子を見ながら心配そうに聞いてくる
「大丈夫やろ。おこちゃまはいつまでもおこちゃまやしなぁ」
「「誰がおこちゃまだ」」
二人は僕の言葉にすぐさま反応して、こっちに振り向き言ってきた
「………聞こえてたんかいな…あ、単独行動せんようにな。流石に子供一人にさせるのも危なっかしくなるんやから」
「んなもん分かってるわ。しっかし…今のところただの一本道なんだが……」
おじいちゃんの言う通り、森近くだと思われる道で歩いているが、それらしき入り口が見当たらない
「本当に、この森の中に神社なんてあるのか?」
夜桐が疑いの目を向けながら聞けば、風樹君は頷く
「はい…もう少し奥に行けばあるはずなんですけど………あ!あそこです!あの鳥居です」
風樹君が指をさす方向には、言葉通り古びた赤く染まっている小さな鳥居と社に続くであろう階段が上へ上へと長く続いていた
今の風樹君の足では大変やし、天龍の背中に乗せて移動することに
僕たちは奥へ奥へと進んでいく
「……今のところ普通の森だが…」
歩きながら、おじいちゃんがそう言う
ふと疑問が浮かんできた
すぐに分かると思っていた異常な気配が全く感じないんや
「レドナが結界を張るぐらいやし…話を聞く限り、とんでもない奴がおるはずなんやけど……一切気配なんて感じへんな」
僕がそう言っている中で、風樹君は天龍の背中の上でオドオドと周りを見渡す
「どうした?やはり少し怖いか」
天龍が聞けば、風樹君は首を横に振った
しばらく歩き続けると、ようやく目的地に到着したようだ
「随分ボロボロだな。この社」
おじいちゃんの言う通り、目の前には、風樹君の話通り社が建っている
全体を見れば大きな鳥居があり、奥には立派な社が佇んでいた
けど一部一部剥がれていたり、崩れかけていたりと相当な月日が流れていたと見える
「この様子じゃ、調べようにも建物自体が崩れそうだ。中を調べるのはよしたほうがいいのかもしれないな」
「天龍の言う通りだな…じゃあ手分けして……」
おじいちゃんが提案しようとしたその時、何やら異様な空気が流れ込む
「…ッ!みんな!伏せろ!!」
「「「「?!」」」」
僕は咄嗟に、大きく叫びながら、みんなを囲うほどの結界を張る
強く押される衝撃に耐えられたが、結界に少しヒビが入っていた
襲った状態のまま硬直している一人の男
だらしない男物の制服に赤色の瞳に白髪の短い髪
そして、頬に植え付けられた草木が特徴的な奴やった
目の前には、赤く染まった鬼の腕
人間の腕とは程遠く、それは化け物の手だ
「ッチ…!」
奴は舌打ちをして、一度離れる
「ありゃりゃざんねぇん!外れてらぁw」
どこからか誰かの声が森に響いた
その声はまた別の男の声で、何やら楽しそうにケラケラと笑う
「うるせぇ。てめぇは黙ってろ」
その声を聞いて苛立ったのか、男は低い声でそう言った
「お前たちは何者だ!それともう1人、姿を見せろ!」
夜桐がそういえば、お姉さんは笑い出す
「あははは!ごめんねぇ?僕は手を出さないってことになってるんだぁ……お前たちの相手はそっちぃ。それじゃ、僕は"もう片方の方"に行くから、あとはよろしくねぇ~?"ヘイズ"」
「……さっさと行け」
ヘイズという男がそういえば、姿の見えない奴はクスッと笑い声を発すると、はいはいと相槌をして気配を消した
「ようやく会えたな」
男はそう言って、風樹君と僕らを見てニヤリと笑う
───俺の獲物達
その頃、海辺近く
レドナside
ワタシは海辺近くで結界を貼り、攻撃を防いでいた
「これは…ッ!どうしたもんかねぇ…!」
目の前には、可愛らしい幽霊の動物達が爪を出して襲って来る
動物達の生気は無く、霊だというのに”傷だらけ”だ
「うわぁあああ!なんなんだこいつらぁぁああ!」
らいちゃんは武器を持っている妖達に追われていた
けれど、らいちゃんの逃げ足は速いから、大丈夫だと思うんだけど…
「らい様!こちらに!」
鏡虹が戦いながら少し敵と距離をとった上で、らいちゃんを呼ぶ
それに気づいたらいちゃんは猛ダッシュで鏡虹に駆け寄った
「きょうじーーー!!!」
…鏡虹が居るのなら大丈夫か
そんな中、バチバチと稲妻の音が聞こえてくる
ふと見れば、息を切らしながら戦っているりゅーがちゃんの姿があった
「はぁ…はぁ……いくら!倒しても…ッ!起きて来るし!うちの雷も…!あんまり効いてないしぃ!」
そう言いながら、血だらけの妖を雷で倒していくりゅーがちゃん
彼らは倒されてもまた起き上がって、襲ってくる
勿論ワタシの方に来る子たちもそうだ
何も理由が分からないまま攻撃するなんて、ワタシにはできない
さて、ここからどうしようか
神主に連絡したいのは山々なんだけど……この状況では難しい
結界を張っているのもあってか、連絡も繋がりづらいしね
ここは何としても耐えなければ
そう考えていると、クスクスと笑い声が聞こえてきた
「うふふふ…ほらほら、頑張って」
夜空に浮かびながら足を組み、片手を自身の頬に添えて楽しそうな表情で見下ろす、一人の女性
女性にしては身長が高く、水色の髪に墨のような黒い肌
そして、怪しく光る黄色の瞳にワタシ達を映す
「君は……何をしたいんだ」
ワタシが睨みつけながらそう彼女に聞くと、すんなりと答えてくれた
「私はただ、貴方たちのことを見たいだけよ。さぁ…」
──私を楽しませて頂戴
彼女は微笑み、またワタシ達を見下ろす
同時刻 事務所
月ノ宮side
私は古杣と二人で仕事をしていた
だが───
「…………遅い…」
予定の時刻になっても、皆が帰って来ない
「そうですね…連絡もありませんから、待つしかないでしょうね」
古杣がそう言っていると、かぐやは心配そうに話しかけてきた
「私…心配です……無事に帰って来てくれますでしょうか…」
「彼らのことですから、大丈夫だと思いますよ」
古杣の言葉に、かぐやは心配ながらもコクリと頷く
そんな時、ドタドタと誰かが走ってこちらに向かってくる
「神主!!」
そこには、慌てた様子の小鳥遊がいた
「小鳥遊様?!こんな時間にどうしたのですか?そんなに慌てて……」
かぐやがそう言いながら、小鳥遊の近くに歩む
小鳥遊は息を切らしていたが、ゆっくりと呼吸を整えていた
珍しい光景に少し驚いたが、まず話を聞こう
「…小鳥遊。何があった」
「実は……”223番街”が…」
私はその言葉を聞き、すぐに立ち上がる
「…すぐに向かおう。
「分かりました」
そう話していると、赤竜が通りかかり、どうしたのかと聞いてきた
「赤竜。急ですまないが、かぐやを頼めるか」
「はーい。承知しました神主」
かぐやは赤竜に任せて、私たちは223番街を目指す
どうやら、"客人"が来たらしい
?年前
今日は、美しい満月の日
誰かの歌が聞こえてくる
その歌声は女の子のようだ
彼女は楽し気にその歌を歌い続ける
何度も、何度も
───あの者と同じ呪いがかかるように
「かごめ かごめ~♪
籠の中の鳥は~♪
いつ いつ出やる~♪
夜明けの晩に~♪
鶴と亀が滑った~♪
後ろの正面
だぁれ?♪」
双子の胎児を抱えた女は、森にある高い崖にいた
ただ、景色を眺めていただけであったろうに
後ろから押された感覚だけが残る
女の体は、森の奥深くにある海の底まで落ちていった
手を突き出すは小さな女の子
水色の髪に墨のような黒い肌をしたその者は、その場から離れ、美しい海を眺める
時は戻り現在、その女は月の光で輝く海を眺めていた
小さく歌を歌いながら、裸足で砂浜をゆっくりと歩いてゆく
結界の傍まで行くと立ち止まり、手元に持っていた水晶を眺めた
水晶の中から聞こえてくる魂たち
助けてだの苦しいだの
普通の人間からしたら、不気味に思うことだろう
しかし彼女はその叫び声を聞きながら、静かに微笑むのだ
…To be continued
祈りと呪い 琴望(ことの) @kotonoignisu
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