決めたことは貫く!覚悟なら出来た!
「そうだ、ジーニアスさんに連絡を……っ!」
防戦一方のシノカに加勢すべきだと感じていたが、全くの戦力外として蚊帳の外にされている現状、そしてこの場で最も弱き者としては、まず助けを呼ぶべきだと頭が判断した。ところが、
「え、えっ、どうして……⁉︎」
「
「エルフの魔法……っ!」
「へえ、わかるんだ? お嬢ちゃん賢いねぇ。でも、解除方法までは知らないだろ?」
エルフという種族の作り出した魔法は、魔法の起源と位置付けられている。未だ解明できていない魔法が数多くあり、その中で人間が解明できたものを初めて〝魔法〟という。厳密にいえば、それらとは体系の異なる魔法も多数存在しており、全ての魔法がエルフを起源とするわけではないが、エルフの魔法が全てを解明されていないのも事実で、
「
「アタシらを通報しようとした罰だよ」
なんとか仰向けになったと同時にごぼりと血を吐いたプエルに、にべもなく言った。プエルは
「た、助けて……」
動かない足腰を引きずり、見下ろすヘッドに背を向けてなんとか逃れようとする。
「腰抜けのガキかい、オマエみたいな女がいるから男にナメられるんだよ」
「アンタ、プエちに何すんのッ!」
もう一人の女の攻撃を丸太でガードしながらも、シノカはどうにかプエルに気を向けて怒号を飛ばす。しかし、相手が妖魔憑きである以上、それは意識がないだけの〝人間〟であり、押し返すことまでは出来ずにいるようだった。
「安心しな? 元々狙いはオマエだけなんだ」と、シノカの背後に回ったヘッドが囁いた。シノカは瞬時に飛び退いて距離を取ったが、反応がわずかに遅れた。「
ヘッドの手元に生成された棘の付いた棒が、丸太を担いだシノカの頭頂部に向かって振り下ろされる。飛び退いたことで微かに狙いは外れて肩に激突し、シノカの高い密度を誇る鋼のような筋肉を容易く裂いた。鮮血が噴出し、着地点に赤黒い染みを作る。
「うっ、く……」
苦痛に顔を歪めたのも束の間、横から妖魔憑きが迫る。丸太を掻い潜って鋭い爪が腕の肉を切り裂いた。流血するのも構わず、シノカは丸太を押し出すことで妖魔憑きを吹き飛ばした。森の中に転がり込んでいったが、負傷らしい負傷はほとんどなく、すぐにでも戻ってきてしまうのは明白だった。ヘッドはそんな、遠慮がちな防戦を続けるシノカを嘲笑う。
「いつまで丸太にしがみついてんだい? 手放せばいい。そうしたら全力を出せるだろ?」
「やっぱ、知っててやってんだね……」
「頭領になんかならなくていいんだよ!」
再び
「うぁぁッ!」悲痛な声を上げるも、シノカは丸太を決して離さない。
「なんだオマエは……⁉︎ どうして手を離さないんだい! そうしたら終わりにしてやるって言ってるんだよ! 離せ! 離せ! 離せーッ!」
何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も、ヘッドは
「これは……あーしが決めたことだから……! 絶対離さないっ!」
「――っ!」と、その鬼気迫る形相を前にヘッドは息を呑んだ。この女は、たとえこのまま手が潰されようとも、腕がもがれようとも、あるいは自分がここで死んだとしても
こんな化け物と真っ向からやり合ってはいけない、とヘッドは直感する。何か打つ手はないかと左右に目を走らせた視界の端で、プエルがもぞもぞと動いたのが見えた。この後に及んで今も逃げようとしているようだが、芋虫のように体を捩らせるばかりで殆ど進んでいない。
「そうだ……このガキが殴られて動揺してたねぇ!」
弱ったプエルの首根っこを掴み、
「やめてよ! プエちは関係ないじゃん! 死んじゃうよ⁉︎」
「そうだよ? オマエがその丸太を離さないせいで、関係ないこのガキが大怪我するんだよ。まぁ、オマエの言う通りこのままだと死ぬかもしれないねぇ。でも、逆に言えば
「あーしが……離せば見逃してくれんの……?」
「ああ、約束は守る。必要のない殺しなんてしないよ」
「プエち、ごめん。やるって決めたのに貫けないや。あーしだけならいくらでも耐えられるけど、プエちがこれ以上傷つくのなんて耐えられない……」
所詮は口約束。彼女がそれを守る保証はどこにもない。それでも、大切な友人が傷つけられるのを黙って見過ごすことができる性格ではない。かといって、人間を相手に全力を出せるほど非情にもなりきれない。シノカの実力ならば、全力で立ち向かえば二人を同時にやり合っても圧勝できるほどの力があったはずだが、その選択肢はシノカの生来の優しさのせいで封じられていた。
「離しちゃダメだッ‼︎」
どうにもならない諦念から丸太から手を離そうとしたとき、プエルの声が上がった。首を掴まれた左手の隙間に両手を差し込んで抵抗し、なんとか絞り出した血の混じった叱咤だ。
「プエち……⁉︎」
「こいつ、まだそんな元気が……⁉︎」
「シノカさんは僕が守る! 決めたことは貫く! 覚悟なら出来た!」
プエルは先ほど、逃げようとしていたのではなかった。どれだけ傷つけられても、どれだけ尊厳を踏み躙られようとも、シノカは少しも退かなかった。それを目の当たりにして、体の震えは止まった。同時に、痛みから逃れようとした自分と比較しての情けなさをバネに体が動いた。少しでもシノカの手助けになれるようにと考えた結果の行動だ。魔法は使えない。力も、技もない。体力もない、何もないプエルに出来ることといえば、その身を張ることだけだ。
「このガキ……イキがるんじゃないよ! そんなに死にたいなら死なせてやるさね!」
掴んだ手に先ほどとは比べ物にならないほどの力が込められ、首に爪が食い込んで血を吹いた。それでも、やはり魔法は使えない。しっかりと
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