エメラルドとアメジストの輝きは一つになる
レスリーとメラニーの結婚式
この日、ネンガルド王国の王都ドルノンはいつも以上に賑わっていた。
王太子レスリーとナルフェック王国王女メラニーの結婚式が
(ナルフェック王国のメラニー王女殿下……彼女は自国から侍女を三人連れて来ると行きている。……もし彼女達と話す機会があったなら、ナルフェック王国の貴族に引き取られたシンシアの情報も聞けるかもしれない)
ティモシーは王宮の医務室でそんなことを考えていた。
ティモシー・ラッセル・ションバーグ。今年十七歳の、栗毛色の髪にエメラルドのような緑の目の少年だ。ションバーグ公爵家次男で宮廷医である。
レスリーとメラニーの結婚式は、滞りなく
式の時はティモシーも休憩を貰えたので、遠目からレスリーとメラニーの姿を見ることが出来た。
夕日に染まったようなストロベリーブロンドの髪にサファイアのような青い目のレスリー。この髪と目の色はネンガルド王国ハノーヴァー王家の特徴である。
純白のタキシード姿のレスリーは、妻となるメラニーと共に入場した。
純白のドレスに身を包んだナルフェックの王女メラニー。レスリーより二つ年下で、今年十八歳になる少女だ。
月の光に染まったようなプラチナブロンドの長い髪をシニョンにしている。そして凛としたアンバーの目。
本来ナルフェック王国のロベール王家の見た目の特徴としては、月の光に染まったようなプラチナブロンドの髪にアメジストのような紫の目である。
しかしメラニーは母であるナルフェック王妃ナタリーの目の色を引き継いでいた。
生きる彫刻のような美貌ではあるが、注目すべきは身に着けているネックレスだ。
(あれが王太子殿下が贈られたネックレス……)
ティモシーは以前風邪を引いて医務室にやって来たレスリーとの会話を思い出した。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
時はレスリーとメラニーが結婚する数ヶ月前まで遡る。
「いやあ、早くこの風邪治したい。メルに贈るメッセージジュエリーのネックレスのデザインを考えたいのだが、鼻水が止まらなくて集中出来ない。折角だからナルフェック語で伝えたいのだが」
典型的な鼻風邪の症状であるレスリーは苦笑している。
「メッセージジュエリー……?」
聞き慣れない言葉にティモシーは首を傾げた。
「ティモシー、知らないのか? 婚約者や大切な女性を喜ばせる手段だ。宝石の頭文字で相手に愛しているみたいなメッセージを伝えるんだ」
得意気に微笑むレスリー。
「左様でございますか……」
ティモシーは納得したように頷き、診察を続けた。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
ティモシーはメラニーが身に着けているネックレスを凝視する。
左からジェード、エメラルド、ターコイズ、アメジスト、アイオライト、ムーンストーン、エメラルドの並びである。
J……
E……
T……
A……
I……
M……
(メッセージジュエリーか……)
ティモシーはレスリーが身に着けているメラニーからお礼に貰ったブローチを見る。
こちらもメッセージジュエリーだ。
左からルビー、エメラルド、ガーネット、アメジスト、ルビー、ダイヤモンド。
R……
E……
G……
A……
R……
D……
それがメラニーからの答えである。
ネンガルド語で返って来たのだ。
(シンシアもこういう、喜ぶかな……?)
脳裏に浮かぶのは、アメジストの目をキラキラと輝かせたシンシアの笑顔。
ティモシーは無意識のうちにアメジストのカフスボタンを触っていた。
(王太子殿下はこの秋に外交で自らナルフェック王国に赴く。その際に僕も同行することが決まった。シンシア……絶対に迎えに行くからね)
エメラルドの目は希望に満ち溢れていた。
ティモシーはまだ知らない。
シンシアがメラニーの侍女としてネンガルド王国入りしたことを。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
時は少し遡り、レスリーとメラニーの結婚式の少し前。
「どうかしら?」
純白のウエディングドレス姿のメラニー。
首にはレスリーからのメッセージジュエリーのネックレスを着けている。
「お似合いです、メラニー王女殿下」
「本当に素敵ですわ」
シンシアは侍女仲間のエミリーと共に、うっとりとした表情でメラニーを見つめていた。
シンシア・マリルー・ド・モンベリアル。今年十七歳になる、ストロベリーブロンドの長い髪にアメジストのような紫の目の少女だ。メラニーの侍女である。
ちなみにもう一人の侍女は別の準備に取り掛かっていてこの場にはいない。
メラニーと共にネンガルド王国入りしたシンシア達。
シンシアは元々ネンガルドでもナルフェックでも名前の発音や綴りが変化することがなかった。
しかし、メラニーとエミリーは発音こそ変わらないものの、名前の綴りはネンガルドでは少しだけ変化するようだ。
「レスリー王太子殿下からのメッセージジュエリー、ロマンチックでですわ」
エミリーはうっとりとヘーゼルの目を輝かせている。
「宝石の頭文字でメッセージを伝える……面白くて素敵です」
シンシアもアメジストの目をキラキラと輝かせていた。
(ティムにもこんな風に宝石でメッセージを伝えることが出来たら……)
シンシアの脳裏にティモシーの姿が思い浮かぶ。
エメラルドの目はいつも優しかった。
シンシアはまだ知らない。
ティモシーが宮廷医として王宮にいることを。
シンシアとティモシー、二人の再会は果たして……?
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