episodium:6 『novus advenaー新参者ー』
『死ね、厄災の忌み子!』
『死ぬのは、お前達だ!!』
ルーグと魔獣達が駆け出す。
その隙を突いてリディは洞穴から出て、旅人の男の元へと駆け寄った。
「早く、こっちに来て!」
「君は………?」
「話は後よ。彼らが戦いに気を向けている間に、早く!」
「………なんだかよく分からないが、承知した!」
ルーグと魔獣は争いに夢中で、2人は魔獣達に気付かれないように、洞穴へと向かった。
中に入り、リディは「とりあえず、此処で暫く隠れてて」と告げると、旅人の男は「かたじけない」と感謝の意を示す。
そして洞穴に入ると、リティルの姿を見て呟いた。
「おや、もう一人いたのかい?」
「え?誰………?」
「私はフェネラス、流浪の旅人だ」
「ちなみに私はリディ、そしてこの子はリティルよ。事情があって、この森で暮らしているの」
「この森で?大丈夫なのかい?」
「ええ、その辺は大丈夫よ。今だって、彼が私たちを守るために、闘ってくれてるのだから」
そう言って、リディはルーグが魔獣達を蹴散らし、追い払ってくれる事を願って、洞穴の外に視線を向けた。
その視線に、先ほど出会った人の言葉を話す魔獣・ルーグに向けているのだと知ったフェネラスは、リディに問い掛けた。
「君たち、あの喋る魔獣と一緒にいるのかい?危なくないのか?」
「ルーグは私たちと同じ、ハグレ者だから平気よ。それよりファラネスさん、アナタの方こそ、こんな夜に森の中に入って、何をしていたの?」
「ルーグ………あの喋る魔獣のことかい?まあ、確かにこんな夜に独りで森にいたら、不審がられてもおかしくはないのだけれど。私もちょっとした事情があって、ここへ来たんだ。君たちは、ハグレ者だって言うけれど、それってどういう意味だい?」
「………これを見ればわかるはずよ………」
そう言い、リディはそっと隠している片目を晒して見せた。
そしてリティルも同様に、同じく隠していた片目を見せる。
フェネラスは驚きはしたものの、他の人たちとは違い邪険なことはいわず、「それはまた珍しいね」と興味津々とでもいうように、2人の片目を凝視していた。
フェネラスの意外な反応に、リディとリティルは拍子抜けしたようにポカンとしていた。
「確かに、普通に考えればその目は災いの象徴だとかいいそうだけど、私は別になんとも思わないね。むしろ、きれいだと思うよ。左右の目の色が違うのも、面白いと思うし。まあ、他のやつらが聞いたら、私も異端者扱いされかねないけれどね」
「ふふ、確かにそうかもしれないわ。この目をそんな風に言っていれたのは、あなたが初めてだもの」
「そうね。アナタってちょっと変わり者だわ」
「はは、確かにそれはよく言われるよ。私は他の人と違って、災いだの掟だのを別に何とも思わないというか、あまり考えないで普通に接しているからね。その所為で私も周りからは異端者扱いされかけてるかもしれないね」
「かもしれない、じゃなくて………実際そうなんじゃ無いの?」
「おやおや、君は随分と物事をはっきりと言うのだね、リティル」
フェネラスはリティルの態度に苦笑いを浮かべながら、話を続けた。
「元々、私も自分の村での生活が窮屈に感じて、旅に出るようになったんだ。でも、いろんな場所へ訪れても、掟だのしきたりだの何だかんだ厳しくて、何処も同じなんだなと感じているよ。でも、だからといって旅を辞めて帰ることはしない。あんな所にはもう、二度と帰りたくも無いね。まあ帰ったところで、私の居場所なんて何処にも無いのだけれど」
「………そう、ね。居場所が無いのは、皆同じね」
リディの言葉に、皆が沈黙し、会話が一旦途切れてしまう。
しかし、フェネラスが外が静かなのに気付いて様子を窺うと、リディもルーグが気になり様子を窺った。
「戦いは終わったのかな?」
「どうだろう?静かになってるけど………。ルーグ、大丈夫かしら?」
『心配はご無用さ。奴ら、日が昇りかけたのもあって、撤退していったよ』
「ルーグ!無事だったのね。よかった」
リディはルーグが無事に戻ってきたことを喜ぶと、ぎゅっと抱きついて、そして身体を撫でた。
その様子に、フェネラスは気になったことを問い掛けた。
「日が昇りはじめたから撤退ってことは、魔獣は朝日に弱いのかい?」
『普通の魔獣なら、確かに朝日を浴びると体力が落ちるのさ。元々、闇に生きる獣だからな。だから夜にしか行動しないのだよ。俺様も多少は体力が落ちはするが、他の魔獣と比べれば、たいした差でも無いがな』
「へえ………。って、自分の弱点になる事をそんな風に言っても大丈夫なのかい?もし、私が魔獣狩の者だったら、大変なことになるんじゃないのかい?」
『まあ、それもそうだな。俺様としたことが、ちょいと警戒心が薄れてるようだな。だが、リディの目を見ても煙たがらない人間は初めてみたが………。貴様、面白い人間ではあるな、少しばかり興味が湧いたぞ』
そう言ってルーグは、フェネラスににやりと笑みを浮かべると、フェネラスもまたルーグに向かって、満面の笑みを浮かべるのだった。
メメント・モリ 結城朔夜 @sakuya_yuhki
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