episodium:5 『oppugnatorー襲撃ー』

衝撃的な出会いを経て、リディとリティルは湖の畔に並んで座り、互いのことを教えて、談笑していた。


天界の地で幽閉され、外の世界を知らないリティルは、地界の地について、リディに問い掛けて。

リディもまた、天界にも掟があるのだと知って、リティルの話に耳を傾けて。

どれくらいそうしていただろう。

気がつけば、周囲は夕闇に染まりはじめていた。


「あはは、なんだかあなたと一緒にいると、楽しすぎて時間があっという間だわ」

「本当ね。出来るならこのままずっと一緒に居たいわね」


しかし、その思いが叶わないことを、二人は知っていて。

だからこそ、今一緒にいるこの時間を、とても大切にしたくて。

リディもリティルも、互いに夜が更けるまで、共に同じ時間を過ごした。


その夜。

リディはリティルのために、大きな木の根に開いた洞穴に即席の寝床を用意して、そこで一緒に寝ることにした。

ルーグは二人の邪魔にならないようにと、自分は外にいると言って、洞穴の入り口付近で眠りについた。

リディもリティルも、はしゃぎ疲れたのか、すぐに眠りについた。

そして草木も眠る深夜。

森の奥深くからその洞穴を見つめるいくつかの視線が集まっていた。


ルーグは耳だけを研ぎ澄まして、眠ったふりを続けていた。

そのそのルーグの姿に、いくつかの視線は緊張した雰囲気を醸し出し、少しずつその距離を縮めていく。

明らかな敵意を感じて、眠っていたはずのリディもリティルも目覚めては居たが、眠ったふりをしていた。

そして、その影が一つ、二つと姿を現すようになり、それらが群れとなった魔獣達であることが判明した。


『コレはまた随分と、手荒な訪問だね。こんな夜更けになんの用だい?』


魔獣達は眠っていたとばかりに思って居たルーグの声に驚き、一歩引き下がるとその動きを止め、警戒するように身を構えた。


『寝たふりとは、卑怯な。そのまま永遠の眠りにつけば良かったものを………』


魔獣はグルル…と喉を鳴らしながら、様子を窺っている。

ルーグはやれやれといった風に、一つ溜息を吐くと、同様にグルル…と喉を鳴らす。

まさに一触即発の状態だ。

そして、先に行動に移ったのは………魔獣の方だった。


『その奥にこの地ではない生き物の匂いがする。まさかとは思うがお前達、厄災の者を匿ってはないだろうね?』

『厄災の者?はて、何のことだい。此処に居るのは嫌われ者の獣と小娘だけだ。我らが厄災の者というでないのなら、他に誰がいると言うんだい?』

『とぼけるんじゃあないよ。確かに、お前は忌み子。そしてそんなお前に寄り添う穢れた人間の小娘が一人。だが、それ以外にもう一人、別の匂いがするねぇ………いったい誰がそこに居るんだい?』

『別の匂いだって?それはどんな匂いだい?俺様にはわからないねえ………いったいどんな匂いなのか、教えてもらえないかい?』


さすがにばれたかとヒヤヒヤして、ルーグは相手に動揺が悟られないように言葉を紡ぐ。

だが、相手の魔獣たちが一瞬考えるように沈黙すると、それがブラフであったことに気づき、ルーグは畳み掛けるように問いかけた。


『おや?どうしたんだい。別の匂いとやらがするんだろう、それはどんな匂いかと聞いているんだが、答えられないのかい?』

『ごちゃごちゃと煩いねえ。大人しく我らの言うことを聞けば、危害は加えないつもりだったが………。仕方がない、力ずくでもそこを退いてもらおうか』

『ふん、最初から我らの居場所を奪うことが狙いだったのかい。それなら、こちらもそれなりに対応せねばなるまい………』


そういうや否や、共にグルル………と喉を鳴らし、臨戦態勢に構えると互いの間合いを狭めていく。

旗から見れば魔獣同士の縄張り争いに見えるだろう。

だが、一匹と複数匹との差は、あまりにも大きすぎて。

それでもルーグは死んでもこの場所を守る覚悟があった。

そしてまさに今、襲いかかろうとした瞬間………。


ーーーガサッと奥の茂みが揺れる音がして。


互いに音のした方へと視線を向けると。

そこには一人の男が身を潜めるように隠れて居るのがわかった。


『そこのお前、隠れてないで出ておいで』


ルーグは人の言葉で呼びかけると、男はゆっくりと立ち上がり、そして攻撃の意思はないというように両手を挙げながら呟いた。


「驚いたな。まさか本当に、人の言葉を話せる魔獣がいるなんてな」


男はルーグの言葉に、驚いた表情を浮かべながら、姿を現した。

ルーグは警戒をそのままに、男に向かって問い掛ける。


『こんな所で何をしている?』

「たまたま通りかかっただけだよ。魔獣達のうめき声が聞こえたから、様子を見に来たんだが………」

『たまたま、ね。お前さん、バカかい?こんな夜の森に人間が独りでいるわけ無いだろうに。どうせ魔獣狩にでも来たのだろう?ご苦労なことだね』

「いや、私は本当にたまたま通りかかっただけの、唯の旅人だ。今夜の寝床を探して歩いていただけなんだが………。まさか人の言葉を話す魔獣がいるとは思わなかったよ」

『ふん。そんな話、信じられると思うかい?』

「う~ん………。まあ、無理だろうね。でも、本当に私はたまたま通りかかっただけの人間だよ。縄張り争いの最中だったみたいで、邪魔してごめんね」


そう言って、男は両手を挙げたまま、目を伏せ、謝罪の意を示す。

その様子を静かに見ていた他の魔獣達は、その男に対し、敵意をむき出しにするもののルーグの行動にも警戒しており、何もせずに様子を窺っていた。


『まあいいさ、どうせ我らの敵には間違いないのだから。皆まとめて片付けてくれるわ!』


そう言うとルーグはウォーンと吠えると、その威勢に他の魔獣たちは構えた。

互いに睨み合い、そしてどちらからともなく、その一歩を蹴り出した。


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