episodium:4 『Primum contactus —交わした言葉―』
いつものように、リディは朝の水浴びをしに湖の畔で仕度をしていると。
何やら森の方がざわついているのに気付いて。
何かあったのだろうか?と、気にしつつ湖の中に入り、体を水につけた。
そして、大きく息を吸って、全身を水の中に潜らせて、湖の中を泳いだ。
暫く泳いだ後、一度顔を出して、もう一度潜ろうとしたときだった。
―――ガサガサと、近くの茂みが揺れた。
そして―――。
「………え?」
誰かの声がして振り向くと、湖の畔に一人の少女が立っていた。
しかし、その姿を見た瞬間、リディは一瞬目を疑った。
なぜなら、そこにいたのは自分と同じ顔をした少女だったからだ。
「え………?」
リディが思わず声を漏らすと、相手の少女もまた、驚いたように目を見開いて、互いに身動きを止めた。
それが、リディとリティルの初めての邂逅だった。
「「………あなた、誰………?」」
その言葉は同時に発せられ、そして、再び沈黙する。
その沈黙を破ったのは、森の散策から戻ってきたルーグだった。
『リディ、こんな所にいたのかい。先ほど森で獣たちが噂していたんだが、どうやら天界の者が紛れ込んだらしいんだが………おや?』
リディの姿を探して、茂みから顔を出したルーグは、すぐ傍にいたもう一人の存在に気付き、そして驚いた。
『コレは一体、どう言うことだ?リディが二人だと………?いや、一人は本物のリディだ。では、こちらのリディと同じ姿のお前さんは………まさか、天界の者か?』
ルーグがリティルに向かって、グルグルとうなり声を上げると、リティルもまた驚いて、一歩後ずさった。
「魔獣が、人語を話してる………?っていうか、私の名前はリティルよ。リディって、あなたのこと?もう、一体何なの、ここは!」
「リティル………?あなた、天界の者なの?どうして、こんな所に天界の者がいるのよ?」
「ちょっと、質問してるのは私なんだけど!あなた、リディって言うの?私と同じ姿してるくせに、名前まで似てるのね」
「………そうね。でも、明らかに違うところもあるわ。アナタは天界の者でしょう?ここは地界の領域よ。一体、何しにきたのよ?」
「別に、唯ちょっと興味本位で地界の様子を見て見たかっただけよ」
「興味本位って………。あなた本当に天界の者なの?そんな単純な理由で地界に来られても、意味が分からないわ」
「分からなくて結構よ。どうせ誰にも私の気持ちなんて、理解できるわけ無いんだから………」
「何それ。ええ、アナタの気持ちなんて理解できませんよ。そんな上から目線で物事を言いつけてたら、誰も相手にしてくれないんでしょうね」
「………なんですって?あなたこそ、こんな人語を話せる魔獣なんかと一緒にいるみたいだけど、化け物と一緒にいるなんて、変な子ね!」
「ルーグを化け物なんて言わないで!彼は私の友人よ。あなたこそ、友達が独りもいなさそうで、可哀想な子ね」
「何ですって!」
「何よ!」
互いに睨み合うリディとリティル。
ルーグはその様子を無言で見つめていた。
どうやら二人とも性格が似ているらしい。
我が強く、自分の信念を固持していることと、ワガママであるという所だ。
(見た目だけじゃなくて、中身も似てる二人だな………)
まるで鏡合わせにしたかのような、そんな二人の姿に、ルーグはそう思った。
水浴びを中断し、リディは湖から出て水気を切り、茂みに掛けていた服に袖を通し、ルーグの毛並みをそっと撫でた。
ルーグは気持ちよさそうに喉をグルグルと鳴らして、目を細めた。
その様子を、訝しげな目で見つめるリティル。
その気配に、ルーグはふと思ったことを聞いてみた。
『なぜ天界の者がこんな所にいるのかは知らぬが、他にも仲間はいるのかい?見たところ、お前さん一人だけのようだが………』
「私は一人でここに来たのよ。今まで窮屈な生活してたけど、たまには自由に生きたいじゃない。それに、仮に誰か一緒だったとしても、あんな奴らと一緒に行動なんて………するものですか」
そう言ってリティルがふいっと顔を背けて、少しだけ俯いた。
その際、隠れていた片目のその瞳の色が見えて。
リディは思わず、声を上げた。
「あなた………片目が赤いのね」
「っ………なによ!あなたも私のことを不吉だって言いたいの?」
「え………。違うわ、私はそう言う意味で言ったわけじゃ………」
そう言いかけると、ふと風が吹いてリディの髪を揺らした。
その時に、リディも隠れて居た片目が見えて、その瞳の色にリティルも声を上げた。
「あなたも、片目が金色なの?」
「ええ………そうよ。私も不吉だって、周りに言われてたわ。だから魔獣が棲みつくこの森で生活しているのよ」
「そう………だったの。………同じ事を言われてたのね。あなた、家族はいるの?」
「森の外で暮らしているわ。両親とも、普通の魔族で両目も赤いわ。ここでは私だけが、この瞳の色を持っているの。あなたは?」
「私、父は知らないの。母は私を産んだせいで、処刑されたわ。それから私はずっと、幽閉されていたんだけど、監視の目を盗んで、ここまで逃げてきたって所よ」
「そう、だったんだ。………私たち、なんだか姉妹みたいね。生まれた境遇も、見た目も、同じだなんて」
「ふふ、そうね。なんだか親近感が湧いて来ちゃったわ」
「ええ、私もよ」
先ほどの剣幕とは一転して、互いに笑い合う二人。
不思議なこともあるものだと、ルーグはそう思い、二人を見つめていた。
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