第2話 黄泉帰り 弐
いったい目の前の"なにか"は何を言っているのだろうか。"なにか"は私を生き返らせると言っているそのようなこと本当に可能なのだろうか。
第一あの人生を続けるのはごめんこうむりたい。確かに食い損ねたうどんを食べたいという気持ちはあるが、死んだときまったく痛みを感じなかったし、魂として他のものに生まれ変われるとしたらそちらの方が望ましいとおもう。どうせあのまま生きても人様の役に立つことはあまりないのだから。私という人間の人生はここで終わりにしたい。
「すみませんが、この話は、、」
「あぁ待ってくれ。ただよみがえらせるわけではないよ。あなたには様々な能力をつけてよみがえらせるんだ。ただよみがえらせるだけでは一度死んだ記憶がある人間になるだけだしね。それならいつでもできてしまう。そんなのつまらないよ。」
「能力?」
「そうだね。例えば、そう、飲み食いや寝ることをせずに生活ができるとか、病気になることがないとか。もちろん寝ようと思えば寝れるし食べたいとおもえば食べれるよ。人間らしい欲望を消さないと約束しよう。」
私は”なにか”のいったことに対して驚愕し、言葉をしばらく発することができなかった。この”なにか”は私を生き返らせる上に食欲と睡眠欲をなくすという。それは人というか生物の枠組みから外れるようなことではないか。それに加えて病にかかることもないという。それにこの口ぶりだと他にも能力がありそうだ。このような力は私には身に余る。そしてそのようなことを”なにか”はさも当然のように言ってのけている。この”なにか”の目的はいったいなんだ。私にそのようなものを与えて一体何になるというんだ。
「あなたの目的は何ですか。知的好奇心といっていましたがとても信じられない。」
「それは信じてもらうしかないよ。そもそもあなたたち人間と僕とでは価値観が違うんだ。そんな壮大な理由なんてものはないよ。で、どーだい?僕のためによみがえってくれないかい?自分から言うのもなんだけどかなり好条件だと思うんだよね。」
確かに、もし本当にそれら能力が貰えるのならそんなありがたい話はない。どれだけ願ってもかなわないものだ。ただうまい話には必ず裏がある。私はこの人生でいやというほどそれを学んだ。”なにか”は身振り手振りで感情を表現しているが、表情が見えない。これでは本当にそう考えているのか判断が難しい。でもこの眼の前にいる”なにか”は食卓を囲んで家族に話すようにとても自然に目の前に座っている。ほんとうにそうなのではないか。やはり人間とは根本的に価値観が違っていて、このようなことをするのはただの気まぐれでそこまでの目的はないのではないかと。そう考えさせられる。本当に頭がこんがらがる。
「なぜ私が選ばれたのでしょう。」
「なんどもいうけどそれはたまたまだよ。こうやってここに引き留められるのも奇跡みたいなものなんだ。ふつうはあの”環”の引力に吸い込まれてしまうからね。私は単にあの時、その場所で都合よくたまたま君が死んだから君を選んだというだけなんだ。」
「そ、そうですか。あはは、そういえばさっきもこのような話をしましたね。なんども申し訳ない。」
「はは、いいんだよ。そりゃそうだよね。いきなりこんなとこにいて、こんな突拍子もないことを言われるんだもの混乱するのも当然さ。それでどうだい?もう一度人生をやりなおしてみないかい?」
私はこの”なにか”は知的好奇心で動いているということはひとまず信じることとした。冷静になってみればこれ以上考えても仕方ないことだからだ。この"なにか"の目的を知ったところで私自体がなにかできるわけがない。
そのうえで考えるが、この能力をもって生き返ればひとまず他人に迷惑をかけることはないし、もっというなら役立つことができるだろう。これだけ望ましいことはない。
かといって私はもう一度生き返ってやりたいこと、目的がない。家族は早いうちになくしているし、友人といえる友人もいない。私はなにをすればよいのだろうとしばらく考えていた。
「なにか悩んでいるようだね。君の言動をみるにさしずめ生きる目的がないのだろう。そんなのなんでもいいさというのも適当すぎるよね。」
「申し訳ないです。」
「なぜあやまるんだ。あなたを勝手に呼び止めているのは僕だというのに。でもそうだね目的か。」
”なにか”は少し間をおいて、
「では旅をするというのはどうだろう。」
「旅ですか?」
「そう。旅さ。ただあてもなく各地を歩いてみてくれよ。その間にやりたいことが見つかるかもしれないし、旅自体も楽しいものだよ。」
思えば私はそのようなことを考えたことがなかった。旅をしようとするにも金はなく、特段行きたいという場所もなかったからだ。だが、今の私なら意味もなく周りを歩いても腹はすかないし、眠くもならない。ならば、このあてのない旅も楽しむことができるのではないだろうか。
「確かにいいかもしれないですね。」
「だろう?じゃあ決意は固まったということでいいかな。」
「はい。よろしくお願いいたします。」
と私が言うと”なにか”は体全体の力をぬいたように机にたおれ「よかったーー。ダメだったらとか思ったらひやひやしたよ。」と安心しているように見える。つくづく人間らしい行動をとっていると思うがなんとなくの輪郭しかつかめていないのにそうおもうのは不思議である。私は最後にふと思ったことを聞いてみることにした。
「そういえばあなたの名前はなんというんですか?」
「僕の名前?ああいってなかったね僕は.....」
名前を聞くと同時に私の意識は落ちていた。
望む能力が手に入ったとして人生は楽しいのだろうか @soranin-
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