望む能力が手に入ったとして人生は楽しいのだろうか

@soranin-

第1話 黄泉帰り 壱

 まったくもって最悪な人生であった。


 生まれながらの才能は持ち合わせておらず、何をやっても人より劣る。それならば人と関わり、集となりて個に打ち勝つことも考えた。だが子供の頃より人は苦手であり、それがちょっとした思い付き程度でそれが覆ることなどありえなかったのだ。ただバイトを転々とし、特定の人とはかかわらず生活をしてきた。

 そんな私の人生ももう終わる。高層ビルの窓ふきをしているところ、急な立ち眩みと突風が自らを襲ってきた。それが原因で私は空中へと放り投げだされ50m先の地面へと向かっている。あと数秒もたてば私は地面にぶつかり、形も何ものこらないだろう。死ぬ時でさえなんの役にもたたず、いや地面を汚すのだから人様の迷惑となって死んでいくのだ。そう考えると得も言われぬ感情に襲われた。

 死ぬときは走馬灯が見えるというが俺の走馬灯はいつも食べていたうどん屋であった。あぁ、願えるのなら食べてから死にたかった。


 目を開けると私は真っ白な空間の中にいた。私は何かに横たわっているようで視界を右にずらすと人型の”なにか”が椅子のようなものに座っている。


「あ、起きた。聞こえるかい?あれ、反応がないな。弱ったなこれがうまくいかないともうチャンスは、、」

「え、あ、あの全然話せます。」

「よかったー。これで話せなかったらどうしようかと思ったよ。」


 目の前の”なにか”はよろこんでいるようだが声の抑揚はまったくといってもいいほどない。まるで機械音声のようだが人間のような雰囲気も残しておりかなり異様な雰囲気だ。体の向きを見る限りこちらを見ているよう。


「あぁとにかくこっちに来て話そう。あなたには話しておきたいことがたくさんあるんだ。」


 私はその”なにか”の方に向かう。そしてその”なにか”の目の前にある椅子のようなものに座る。このようなあやふやな表現をするのは申し訳ないのだがこのようにしか表現できないものはできないのだ。


「さて、こちらから話すことは結構あるんだけどあなたが知りたいことから答えていこうかな。何が聞きたい?」

「聞きたいことは多くありますが。私はしんでしまったということでよろしいのでしょうか。」


 と私は少し悩んだあとそういう。私はビルから落ちてまず間違いなく死んだはずなのだ。それなのにいま痛み一つなく会話ができているということはここはあの世というやつなのではないだろうかと思案する。


「んーそうだな。なんというか微妙な位置なんだよね。ちょっと上をみてくれない?」


 上には何というか観覧車を横にしたようなものがぐるぐるとゆっくり回っている。遠近感はよくわからないがとてつもなく大きいことはわかった。


「あれは、何でしょうか。」

「あれは”環”というものだよ。生物のすべてが死んだあとこの中に入っていくんだ。そしてこの中にはいった魂はまたまとめたり分けたりして次の命に生まれ変わる。魂を作るのもやすくないからね。こうやって再利用しないと。」

「は、はぁ。つまりどういうことなんですか。なんで私はその”環”というものにはいっていないんですか。」

「そう。いい着眼点だね。」


 ”なにか”はよくいってくれたといいたげに指をこちらに向ける。人型ということしか認知できないがかなり身振りがおおきいように感じさせる。こちらへの配慮であろうか表情も声もよくわからないのに身振りのおかげか話しやすい。


「つまり、あなたは死んでしまってはいるが、”環”にはとりこまれていないそういう状態なんだよ。死んでいるのは死んでいるんだけど完璧に死んでいるわけではない。のさ。だから記憶はあるし話せる。最初の質問の答えはこれ。」

「なるほど?」

「そしてその理由なんだけど、それは僕がむりやりここに引き留めてるんだ。とても苦労したよ。ルールをかいくぐってやっとのことここに人を引き留めることができた。」


 机のようなものに頬杖を突き「とても疲れたよ」と”なにか”は脱力感をもっていう。ほんとうに人間臭い行動をとる。私はこの時、異様な姿をしているが”なにか”どこか親近感がわいていた。


「そんな苦労をして私をここに引き留めている理由はなんですか。わたしにそんな価値があるとは到底思えませんが。」

「あぁ、あなたをここに引き留めているのはね。僕の知的好奇心を満たしてほしいからなんだ。」

「知的好奇心?」

「まぁ、やってもらうことはあなたに害はないと思うけどね。そのやってもらう内容ってのはよみがえって人生を続けてもらうってことさ。もちろんあなたが死んだという周りの記憶はすべてかきかえさせてもらうよ。」

「え、、」

 ”なにか”はさも当たり前のように頂上的なことを言ってのけた。




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