第7話 噂ですよ! 最弱職!
「ここが喫茶店だよ!」
「おぉー! これぞ西洋って感じの店だ!」
由紀が言っていた喫茶店に着いた。それは屋根に煙突が付いていて、店の周りに見たことがない花の花壇がある独特な雰囲気を放つ小さな喫茶店だった。
「こんにちはー!」
由紀がそう言って扉を開ける。
「ちょっ! 喫茶店ってそんなテンションで入っていいの!?」
由紀が振り向く。
「あ、あとスノーって呼んで! 私、ゲーム内ではスノーって呼ばれてるの! さぁ、行こー!」
「あ、はい……」
喫茶店の中は不思議な空間が広がっていた。壁を覆う無数の本棚に木のテーブルや椅子。店の端にある小さな暖炉。カウンターの横に置いてある大きな振り子時計も良い味を出している。アンティークという言葉がピッタリ当てはまる素敵な店だ。
「やぁ、マスター! 来たよ!」
「マスター?」
カウンターにいるあの人かな?
「いらっしゃい」
マスターはなんと女の子だった。黒髪でボブカット。白と黒のメイド服を着ていた。
「マスター! いつものお願いします!」
そう言いながら由紀はカウンターまで歩いて行く。
「いらっしゃい。スノーちゃん。いつものね」
マスターさんがこちらを向いた。
「あなたは? なにがいい?」
「えっと……同じやつで!」
***
私たちはカウンターに座り、マスターさんのコーヒーを待っている。
「で? なにか言いたげな顔ね。なにかあったの? スノーちゃん」
マスターさんはコーヒーを作りながらそう言った。
「実はまたよくないことが起きるそうなんです」
「そう。また神様のお告げがあったのね」
マスターさんの表情が少し曇った。
「それで何か知らないかなぁって」
「うーん。関係あるかどうか分からないけど、一つ気になることがあるわ」
「気になること?」
「ハーピーがよく目撃されるそうよ」
「ハーピーが!? あの滅多に人前に姿を表さないハーピーが!?」
由紀がそう声を出した。
「えぇ。ハーピーが山奥の里からここまで出てくる。これは間違いなく何かが起こっている証拠。神様のお告げと関係があるか分からない。けど何かが怒っているのは確かよ」
そう言うとマスターさんはコーヒーを出した。
「さ、どうぞ。火傷しないように気をつけてね」
「ありがとうございます! マスター!」
「ありがとうございます」
マスターさんは頷いた。
すごい。ちゃんと匂いを感じる。私はカップを握り一口飲んだ。
「美味しい! 苦くない。不思議……」
「でしょ!? マスターのコーヒーは世界一美味しいんだから!」
「ふふふ! 嬉しい。ありがとう。……ん?」
マスターさんが不思議な声を出した。マスターさんの目線の先、窓の外にボロボロの服を着た女の子がいた。
「あ、あの子……」
マスターは店の外へ行く。
「あの子、本当にどこでも現れるんだね」
「マスターさん、どうするんだろう」
マスターさんが女の子と手を繋ぐ。そして店に戻って来た。
「マスター。おかえりなさい。その子は?」
「今日からウチで面倒みるよ」
「「え!?」」
「どうやらこの子、孤児らしくてね。さすがに放っておけない。私が面倒みることにした」
「マスターさん、優しいですね」
「ありがとう。ということだから、今日からお願いね」
女の子は頷いた。
***
「じゃあ、マスター! また来るね!」
「マスターさん、ご馳走様でした!」
私たちはそう言うと店を後にした。
「美味しかったねぇ。マスターのコーヒー!」
「ね! また行こ!」
由紀の歩くスピードが遅くなる。
「さて。ハーピーのことを考えようか」
由紀は顔に手を当てながらゆっくりと話す。
「ハーピーは山奥に里を作ってそこで生活する種族なの。襲ってくるモンスターや、興味本位で近付く人間を戦闘部隊が撃退する。かなり警戒心が強い種族……。つまり」
由紀が止まった。
「里から出てくるのは普通じゃありえない」
「じゃあ、なんで……」
「分からない。けど間違いなく何かが起きてるもしかしたら……」
由紀がまっすぐ私の目を見て言った。
「ハーピーとの全面戦争になるかもしれない」
「それが襲撃イベントの正体!?」
これはかなり良くないことが起きそうです。
***
「てことはハーピーの里に行けば何か分かるってことね?」
「恐らく……」
「お姉ちゃん。これは一筋縄じゃいかないイベントになりそうね」
「ほんと最悪ね。ネア、行きましょ。いつハーピーが襲って来るか突き止めないと……。今回はレイドイベント。時間を特定してプレイヤー全員で対抗出来る準備をしないと絶対に負ける」
「そうだね。お姉ちゃん」
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