第4話 裏ボスですよ! 最弱職!

「や、やばい……。本当に動けない……」


 どうしよ。由紀が動けなくなっちゃった。


「グゴォォォォ!」


 ズン。ズン。

 やばい! アイツが近付いてきた!


「由紀! どうにかして動けないの!?」


「無理……。MPって0になると動けなくなるんだよ……。だめ。身体がピクリとも動かない」


 こうなったら由紀を引きずって避けるしかない!


「由紀! 痛いだろうけど我慢して!」


 私は由紀の足を握って走った!


「痛たたたた! だめ! 痛い痛い!」


「我慢して! 襲われると即ゲームオーバーだよ!?」


 ズン。ズン。ズン。

 ひぃぃぃぃ! 追いかけてくる音が聞こえる!


「ちょっ! 琴音! 闇雲にエリア内を走り回っても意味無いよ! どこかに隠れなきゃ!」


「隠れる!? 隠れる……」


 このエリアの隠れる場所……場所……。


「だめ! このエリア何も無い広場じゃん!」


 ズドン! その時、キングゴブリンの方から爆発音のような音が聞こえた。


「え、なに……?」


「グゴォォォォォォォ!」


 あれは……岩……? 岩なんてどこから……。


「まさか……魔法!?」


 由紀が言ったのが先か動いたのが先か。

 その岩は私たち目掛けて飛んできた。


「嘘でしょ!?」


「琴音! さっきの氷出して! 早く!」


「『アイス』!」


 バキャァァァァン! 氷と岩が同時に砕け散り、聞いた事の無いような音が辺りに響き渡る。


「きゃああああ!」


 氷と岩が凄まじい勢いで飛んでくる! もしかしてコイツらにもダメージ判定ある!?


『攻撃を相殺しているためダメージは受けません』


 なるほど。ご丁寧にどうも! とりあえずはなんとか攻撃は防げそうだな……。

 ナビゲーターさん。私はあと何回打ったら倒れる?


『「魔法使い」はMPが0になっても倒れません』


「なるほど……。MPが0になってもとりあえずは大丈夫ってことね……」


『はい。ただし魔法使いは直接攻撃以外全てMPを消費して攻撃するため戦闘は困難です』


 え、それって詰みってこと!?


「琴音……! 琴音! にげて!」


「え……?」


 気が付くとそこに拳を振り上げているキングゴブリンがいた。


「────!? 『アイス』!」


 バキャアアアアア! また氷と岩の破片が辺りに飛散した。


「くっ……! またMPを使っちゃった……」


 私はすぐにその場から立ち去る。

 ダメだ! 考えてる暇がない!


「琴音……ごめんなさい……。もう私のことはいいから……」


「由紀?」


 由紀の目には涙が浮かんでいた。


「私はもう身動きが取れない……。こんな私のことは見捨てて逃げて。お願い。私、これ以上琴音の足を引っ張りたくない!」


 なに……。それ……。

 私はしゃがみ、由紀に目を真っ直ぐ見た。


「……」


「琴音……?」


「なに言ってんの?」


「え?」


やるんでしょ? 由紀を見捨てるなんて選択肢、私にはないよ!」


「琴音……!」


「一緒に見つけよ。勝利の道筋。そして一緒に倒そう──」


 私は立ち上がってヤツを睨んだ。そう。


「キングゴブリンを!」


***


「琴音……! うん! 倒そう!」


 とは言ったもののどうしよう……。由紀が身動き取れない以上、私たちが不利なのに変わりはない。


「とりあえず、逃げる! これで時間稼がないと……」


「アイツに弱点はないのかな……」


 由紀がそう呟きながらキングゴブリンをじっと見ていた。


「弱点……」


 アイツの行動パターンは二つ……。一つは岩を飛ばしてくる。もう一つはパンチ。主にこの二つ。共通点は……。


「……! 由紀! 見つけたかもしれない。アイツの弱点を!」


 そう言って由紀を見る。すると由紀の顔に笑顔が浮かんでいた。


「ちょうど良いね。私も分かったよ。あいつの弱点」


「ほんと!?」


「もちろん。あいつの弱点。それは攻撃までのタメの長さだ! あいつのこれまでの攻撃、全て交わしたり、防いだりできた。あいつは攻撃までに時間がかかるんだ!」


 ビックリだ。


「由紀、私も同じ考えだよ!」


 私たちは互いに笑い合う。


「グギャァァァ!」


 キングゴブリンは腕を大きく振りかぶり身体を仰け反らせた。


「琴音! 足! 足を狙って『アイス』を打って!」


「わかった! 『アイス』!」


 これで三回目。

 ナビゲーターさん! 私はあと何回でMP切れになる?


『あと四回です』


 キングゴブリンの足に氷が覆う。


「琴音! 今よ! 願って! 魔法はイメージ! 私のMP回復を願って! 魔法はイメージ! きっとMPを回復できる!」


「えぇ!? き、気持ち!?」


 き、気持ちって……そんな無茶な!


「きっと出来る! はやく!」


「か、回復しろー!」


 しかし何も起こらない。


「しろー!」


 何も起こらない。


「グゴォォォォォォォ!」


「ひぃ!」


「やばい! アイツが動く!」


「か、回復ー!」


 バキバキバキ! 氷が軋む音がする。


「回復して! お願い!」


 何も起こらない。


「グギャァァァァァァ!」


 バキィィィン!


「やばい! 氷が割れた! 琴音!」


「回復して! お願い! お願いい!」


 ズン。ズン。キングゴブリンが近付いてくる音がする。その足音は私たちに敗北の二文字を想像させるには十分すぎる音だった。


「か、回復して……お願い……」


 あれ? なんだろう。涙が出てくる。ダメだ。身体に力が入んない。

 私は思わず座り込んだ。


「琴音……」


 ズン。ズン。


「ごめんね……。私が弱くて……」


 その時、由紀はにっこりと笑った。


「琴音。大丈夫。次勝てばいいんだよ!」


 くやしい。情けない。いやだ。


「負けない!」


 カッ!

 その瞬間、由紀の身体が強く光る。


「流石だね。琴音」


 由紀は飛び起き、弓を構える。


「私の親友に力を貰ったんだ」


 弓の周りに無数の巨大な魔法陣が出現する。


「今度はアンタ一人だ。この無数の矢。一人で味わえ!」


 魔法陣の周りに巨大な光の渦が巻き起こる。


「『アルクス・サンダーフォルテッシモ』!」


 魔法陣から無数の巨大な光線が放たれる。


「命中した!」


「グガァァァァァァァ!」


 やがて光は収まる。


「「───!」」


 そこにキングゴブリンの姿はなかった。


『ボス「キングゴブリン」を撃破しました』


「や、やった……。勝った……。倒したんだ……」


 由紀がその場に倒れ込む。


「由紀!」


 私は由紀の元へ駆け寄り、由紀を支えた。


「由紀。ありがとう。由紀がいないとアイツを倒せなかったよ」


「それはこっちのセリフだよ。琴音がいないと身動き取れなくてそのまま負けてた」


「「ぷっ。あはははは!」」


『スキル「邪精を滅し者」を獲得しました。HP、MP、ATKに3倍補正が追加されます』


 私たちは見つめ合う。


「聞いた? 琴音」


「もちろん。由紀」


 私たちはハイタッチする。

 私たちは最高の親友だ。


***


『全てのプレイヤーにお知らせします。「キングゴブリン」が撃破されました。これにより全てのボスが撃破されました。ただいまよりが発生可能になります』

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