第3話 スポナーですよ! 最弱職!

「由紀! 来てくれたんだ!」


 その言葉を聞くと由紀はいつもの歯を見せた笑顔になる。


「当たり前でしょ! 私から誘ったんだし」


 由紀がゆっくりと目を閉じ静かに笑う。


「あと私は由紀じゃないよ」


「え?」


 由紀はそう言うと弓を構える。


「ランキング六位。『スノー』よ!」


 そう言って放った10本の矢は全てゴブリンに命中した!


「グギィィィィ!」


 ボシュン! ゴブリンは光になって消えた。


「すごい!」


 由紀は地面に降りてきて弓を構える。


「下がって琴音! 琴音じゃまだこの数は相手にできない!」


「わ、わかった! ありがとう!」


「異常ね……。この数のゴブリンは見たことがない!」


 上にジャンプし、また矢を放つ!


「まるで統率を取って移動してるみたい……くらえ『フレイムアロー』!」


「グギャァァァ……!」


 矢が当たったゴブリンはまた光になる。


「くっ! キリがない! なんなの。コイツら……! 倒しても倒しても出てくる!」


 くやしい。今の私じゃこの数を相手にできない……。なにか……。なにか出来ることは……。


「ナビゲーターさん。私はあと何回魔法を打てるの?」


『あと八回です』


 八回……。八回でこの数を全員倒さないといけないのか……。

 私が使える魔法は『ファイア』と『アイス』多分、名前的にも威力はあまりない……。

 どうしよ……。どうすれば……


「グギャァァァ!」


 近い! そんなに接近されてたの!?


「どこ!?」


 その時、私は嫌なものを見た。見たくもない。最悪な物を。


「え? なに……あれ……」


 それが強く黒く禍々しい光を放ち出す。すると光は渦を巻き、やがて二つの個体となる。


「「グギャァァァ!」」


 光はゴブリンと化した。


「嘘……でしよ……」


 それはゴブリンが湧いて出る黒くて丸い巨大な宝石だった。


***


 私は宝石を指さし


「由紀! なにかある! ゴブリンが出てくる不思議な宝石が!」


「宝石!? まさか……ゴブリンのスポーンジュエル!? くっそ。厄介な物に出会った!」


「スポーンジュエル!? なにそれ!?」


「スポーンジュエル。通称スポナー。モンスターが湧いて出てくる面倒な宝石よ」


「なにそれ!? てことはその宝石を壊さない限り一生モンスターが出てくるってこと!?」


 由紀は首を横に振る。


「スポナーの大量発生は違う」


 カッ! その時、スポナーが強くさらに強く。紫の禍々しい光を放った。


「琴音。私たちは運がないみたいよ」


 光は収束しやがて一つの巨大な命となる。


「グオオオオオオオオオオオオオオ!」


『強力なモンスターです。逃走をオススメします』


「隠しボス『キングゴブリン』。こいつを倒すのがスポナーの攻略条件よ」


 どうやら強敵のようです。


***


『「キングゴブリン」は「誕生の森」に生息するボスモンスターです。通常の個体の四倍以上はある巨体が特徴で、非常に強力なモンスターです』


 なるほど……。つまりピンチってことね!


「グガァァァァ!」


「うわっ! うるさ!」


 なに!? 突然叫んで!

 私は思わず目を瞑った。


「「え!?」」


 目を開けるとそこには信じられない光景が広がっていた。


「なにここ……。洞窟!?」


 そこは薄暗い洞窟の中だった。


「あははは!」


 由紀が突然、笑い声をあげる。


「ど、どうしたの!? 由紀!」


「いや、嬉しくてさ」


 由紀が弓を回転させる。


「うれしい?」


「そう。うれしいの」


 回転をやめ、弓を構えた。


「最強の魔法を試せるからね!」


 由紀の周りにイナズマが走り出す。


「琴音。見てて! 私が今使える中での最強の魔法を! くらえ!」


 由紀の弓の周りに巨大な無数の魔法陣が出現した。


「『アルクス・サンダーフォルテッシモ』!」


 その刹那、魔法陣から無数の純白の光線が放たれた。


「うわっ!」


 直後、洞窟内に強風が吹き荒れ、光線はゴブリン達を的確に射抜きゴブリン達の身体に溶け込んだ。


「「「「「グギャァァァ!」」」」」


 するとゴブリン達の内側から雷撃が放たれゴブリンたちは光になった。

 一体を除いて。


「ふしゅー。ふしゅー。ふしゅー」


 キングゴブリンは生き残った。


「ははは。なんだ……。耐えちゃうのか……」


「由紀!? え? どうしたの!?」


 由紀は疲れ切っていた。まるで今すぐにでも倒れてしまいそうなほどに。


「ははは。MPって使いすぎると疲れるんだよね……。ははっ……」


「うそ!?」


「グガァァァァァァ!」


 キングゴブリンが由紀に向かって走り出す!


「由紀! 逃げて!」


「琴音……」


 キングゴブリンが拳を振り上げる!


「ごめん……無理……」


 キングゴブリンが拳を振り下ろした……。


「『アイス』!」


 私は由紀の前に氷の壁を作った!


「ガァァァァ!」


 キングゴブリンはその壁を打ち砕いた!


「ま、間に合った……」


 由紀が倒れ込む。


「由紀!」


「や、ヤバい……本当に動けない……」


「グギャァァァ!」


 たすけて。本当にピンチです。

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