第3話

 音乃施さんの言葉に、私の心は揺れ動いた。彼女の笑顔が、私の日常に色を加えていく。


 それが、私にとってこの上ない喜びだった。




 もうすぐ日が落ちる頃。


 図書館の窓から差し込む柔らかな光が、私たちを包み込む。

 音乃施さんは、いつものように隣で本を読んでいる。私は彼女を横目に、自分の本に目を落とす。しかし、文字がぼやけて見える。


 私の頭の中は、音乃施さんのことでいっぱいだ。



「暗野ちゃん、私、ずっと言いたかったことがあるの」



 音乃施さんの声が、静かな図書館に響く。 私は息をのみ、彼女の方を向いた。



「私、好きな人がいる」

「......うん。知ってるよ」

「へ~。暗野ちゃん、知ってたの?」



 何かと思えば、そんなこと。


 正直聞きたくない。

 好きな人の口から、他の大切な誰かの話をされたくはない。


 

 でも言えない。

 

 その誰かを知りたい私もいる。


 

「その人はねぇ、とてもとても優しくて本が大好きな子なんだ」




 ──もしかして。そんなことあるはずないよ。



「皆は知らない。私だけが知ってること、私しか知っちゃいけないこと」



 ───その子の名前は。



「だから、独り占めしたくなる。一緒にいる時間が増えて嬉しくて、何でも好きになってしまいそう。  

私が本を好きになったのも、その子のおかげだね」



 ───きっと。



「どうしたの? 泣いてる」

「だって....私なんかじゃダメだよ」

「ん? あれれ~? まだ私は何も言ってないんだけどな~」

「....あ、嵌めた?」

「もぅ、人聞き悪いな。名前は言ってないから、暗野ちゃんに似た誰かかもね?」

「むー」

「えへへ、ごめんごめん。でも、好きな人からの告白(????)は素直に受け取って欲しいな」

「....名前のない誰かさんなんでしょ? 私じゃない」

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