第15話 白雪姫の森

 レヴァンとメロウは、周りが見えていないようだった。

 ひなのは、申し訳なさそうに、二人の間に割って入る。

「あのう……メロウさん、シルバードラゴンとして入国審査にゅうこくしんさをしていたなら、この国にくわしいですよね。かげかがみをご存じですか?」

 メロウは、ハッと気づいてはずずかしそうに答えた。

「え、ええ、影の鏡なら、ハデスが持っているわ」

「ハデス?」

「鏡の国の王よ」

「あの宮殿きゅうでんに住んでいるの?」

「もちろん」

「見せてくれるかしら?」

「見るべきものには、見せることになっているから、それは、あなた次第しだいね」

 ひなのは、ガラスの宮殿を見上げた。

「こわい?」と、りおが声をかける。

「少しね。でも、行くわ」

 ひなのは、りお、みーくん、ゆたぽんを見た。

「一緒に来てくれる?」

 三人はうなずいた。

 りおは、レヴァンとメロウを見上げる。

「俺も行くよ。ついて行かないと、クリスタルレインの所には行けないからね」

「うん。そうだ、クリスタルレインは、私に鏡に聞きなさいって言ったの、それも影の鏡のことかしら?」

「それは、たぶん、白雪姫しらゆきひめの鏡よ。質問しつもんに答えてくれるの」と、メロウが答えた。

「それも、ハデスが持っているの?」

「うううん、それはハデスも知らない。ガラスの宮殿の地下室ちかしつにあるって言われてるけど、白雪姫にしか、場所は分からないそうよ」

「そんな…」

 ゆたぽんが、少し心配げにりおを見た。

 そして、はげますように元気に言うのだ。

「でも、ガラスの宮殿の地下室にあるんでしょう?」

 メロウも又、気遣きづかうように元気に答えた。

「ええ、そうよ」

「じゃあ、大丈夫み。ガラスの宮殿にあるってことみよ」

 みーくんも、元気づけるように続けた。

「うん!そうよね」と、りおも元気に答えていた。


 みんなは、鏡の宮殿を見上げた。近いようでとおいようでもある。

 そして彼らは、気持ちを引きめるように、その一歩をみ出したのだ。


 だが、しばらく歩いてから、レヴァンが、「ん?」と言って立ち止まった。

 メロウが、城門じょうもんの所に立ち止まったままなのだ。

「メロウ!どうした?早く来いよ」

 メロウは、首を横にフリフリ、呆然ぼうぜんと立ちくしている。

 レヴァンは、メロウにった。

「どうしたの?」

こわいの、私、影の鏡が怖い」 

「メロウ…大丈夫だ。影の鏡には近づかなくていい。俺がずっと一緒にいて、守ってやる。心配いらない。な、行こう」

 メロウは、顔を赤らめ、下を向いたままうなずいた。

 みなが少しほっとした顔を見せた。そしてなぜか少し、幸せな気持ちになっていた。


 再び鏡の道を歩み始める。

 レヴァンとメロウは、四人から少しはなれて歩き出した。


 キラキラ光る鏡の垣根かきねは、木々に不思議ふしぎ木漏こもれ日を作っている。

「きれいねえ」と、りおが言った。

「光の花が咲いているみたいだみ」

「こんなステキな場所があったなんて」と、メロウがつぶやく。

 森はどんどん深くなっていった。

 ゆたぽんが、りおにけ寄り、そっと手をつなぐ。

「どうしたの?ゆたぽん」

「りおちゃん、ガラスの宮殿まで、道はまっすぐだったよね」

「なあに?急に」

「どうしてこんなに森が深いの?」

 りおはり返った。

 鏡の道はどこにもない。そこには、深い深い森が広がっているのだ。


「どおおおいうこと!」と、ひなのがさけんだ。

たぬきに化かされたのかな」と、レヴァンが言う。

精霊せいれいのセリフとは思えないみ」

「すぐそばに、ガラスの宮殿があったのに」と、メロウが不安ふあんげに言った。


 木々の根元に咲いていた、水仙すいせんに似た花が、びよ~んとびて、りおをのぞき込んだ。根元のたくさんの花たちが、ろくろ首のようにびよ~んと伸びたり、くねくね曲がったり動いているのだ。

 りおを覗き込んでいる花がしゃべった。

小人こびと?小人がもどったの?」

「小人?」

「昔々、この森には、7人の小人が暮らしていたの」

「7人の小人?白雪姫のお話しに出てくる?」

「そう!白雪姫と7人の小人。でも、一人をのぞいてみんな出て行った」

「一人を除いてって?」


「ローリー!」


 その声を合図あいずとするように、花たちは、ヒュンッと、身の丈30㎝にちぢんで固まった。


「白雪姫!白雪姫ー!!」

 そう言ってけ寄ってきたのは、ゆたぽんやみーくんと同じぐらい背丈せたけの小人だった。

 小人は、まっすぐひなのに向かって飛び込んだ。

「白雪姫!白雪姫!」

 そう言いながら大泣きしている。


「どこに行ってたの?ローリーを置いて。みんなも、ローリーを一人置ひとりおいて、行ってしまうなんて」

 ローリーは、ひなのの足に追いすがって泣いていた。

「白雪姫って私の事?」と、ひなのがたずねた。


 りおが、ありえないとばかりに首を横に振っている。

「ちがう、ちがう。ひなのは、白雪と姫から、一番遠い存在だからね」

 ローリーは、泣くのを忘れて怒った。

「うるさいぞ!はなの長い小人め!白雪姫に失礼なこと言うな!」

「小人じゃないし!」

「そんなに小さいのに、小人じゃないなら何なんだ!嘘ばかり言うやつだな」

 ローリーは、プイっと横を向いて、にこやかにひなのに話しかけた。

「白雪姫、ピンクの小人と水色の小人、二人の精霊が新しい仲間ですか?」

 ひなのは、ちょっと困った顔で答える。

「えっとー」

 ローリーは、話し半分で、ひなのの手を取るなり歩き出した。

「ささっ、小屋へ戻りましょ。つかれたでしょう?」

 皆がローリーに導かれるように、道なき道、森の木々の間をすりけるように歩く。

 急にひらけた場所に出ると、そこにあらわれたのは、大きな大きなリンゴの木だった。その下には、小さなかわいいお菓子かしの家があるのだ。

 バターケーキのかべ、フィンガーチョコの柱、クッキーの屋根には煙突えんとつまでついている。ドロップの意匠いしょうが、陽の光に照らされてキラキラかがやいていた。



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