第7話 ジャックと豆の木の塔

 落ちた場所は、なんと、高い高いとうのような場所だった。

 長い長いつるがからまる、青々とした大きな葉が生い茂っている。

 これは、巨大植物なのか。それとも自分が小型化してしまったのか。

 上部がバルコニーのようなしつらえになっている。

「落ちたはずなのに、なんでこんな高い所に?」

 下を見ると、地上が見えなかった。はる彼方かなたに雲がある。


「これは、ジャックと豆の木レベルの高さだみよ」


 例の通り、洞窟どうくつはひゅいんと閉じてしまった。

 塔はバルコニーだけで、他につながる道はない。


「どうしよう、高すぎる」

「鏡に聞けって言ってたみ」

「でも、かがみなんてどこにもないよ」


 その時、突然の風に、三人は吹き飛ばされる。

 大きな黒い物にあおられたのだ。

 気が付いたときには、バルコニーの手すりまで飛ばされていた。


「我らの家に立ち入るは、何者ぞ!」

 顔は女性で、体はわし人面鳥じんめんちょうが、塔の周りを、ものすごいいきおいで、ぐるぐる回っている。そして、威嚇いかくするように、キイエエエエ!といた。


「下品な真似まねはやめよ」


 別の者の声が聞こえる。

 その人面鳥は、回るのをやめて止まった。

 止まって初めて気づいたが、人面鳥は、三体いるのだった。顔は皆、そっくりである。

 彼女らは、りおたちを取り囲むように、等間隔とうかんかくに手すりに止まっていた。


疾風しっぷう!我が家に勝手に立ち入られたのだぞ!」

「それでも、知性ある者の対応ではない、静まりなさい、黒き者よ」


 三体目が、いやな舌なめずりをして言った。

「二人とも、どうでもよいではないか。実にうまそうだ。たかが魔法動物まほうどうぶつ、目くじら立てず、食えばいいだけよ」


 そう言うと、三体目の人面鳥が、シャーッと大口を開けて、ゆたぽんの喉元のどもとみ切ろうとする。


「速き者よ!もう少し人らしくしょくせぬのか」

 速き者は、ギリギリのところで、止った。


 ゆたぽんは、ピンクが真っ青になって、ペラペラの顔だけの布に戻った。そして、波打なみうちながら、りおの後ろにかくれる。

 速き者は、ぎゅっと、りおをにらんだ。大きくつばさを開いて、りおの前に出ると、「よかろう、上品に食してやろう。のう、魔法動物のバクや」と言って、りおにじりじり近付ちかづいてきた。

 りおは、後ずさった。手すりに貼り付くように逃げたが、下は空だ。

 落ちるか、われるか。


 その時、りおのうでのクリスタルがきらりと光る。

 速き者は、後ろに3mも飛びのいて、言った。

「こやつ!クリスタルレインのうろこを持っている!」


 疾風が、りおの前に降り立ち、黒い翼でりおの腕を持ち上げた。

間違まちがいない。この者、クリスタルレインの保護ほごを受けている」

 りおが、疾風をのぞき込んで言った。

「この腕輪うでわは、なんなの?」

「旅券だ。クリスタルレインが、お前の身分を証明している。らうわけにはいかん。それどころか、お前の行きたいところへ、連れて行かねばならない」

「旅券・・・」

「どこへ向かっている?」

「鏡、鏡よ」

「鏡の国は、かなり遠い。我らが行けるのは、シルフの丘までだな」

「シルフの丘?」

「シルフィードという風の精霊せいれいの丘だ」

「風の精霊。綺麗きれいやさしい精霊なんでしょうね」

「ハハハハハ。そうだな、そのようには見えるだろう。シルフィードに気に入られれば、風にせて運んでくれる。だがおぼえておくといい、見た目では、その者の事情じじょうは分からない。気をつけよ。クリスタルレインのうろこは、辺境へんきょうへゆくほど、効力こうりょくうすれる」


 疾風が、りおを前足まえあしでつかむと、大きな羽音はおとと共に飛び立った。

 それにならうように、速き者がみーくんをつかみ、黒き者がゆたぽんをつかんで飛び立つ。


ゆたぽんの布が、風にあばれている。

黒き者が、こまったように言った。

「お前、元の魔法動物の姿に戻れないのか?つかみにくくてかなわん。動くな!じっとしていろ!」

 ゆたぽんは、ぶるぶるふるえている。

「ゆたぽんは、う、うさぎだから、ほ、捕食ほしょくされる感覚かんかくが・・・」

 ゆたぽんは、バタバタと風にあおられ、じたばたと、もがいてしまう。

 かろうじて引っかかっていたつめがはずれ、ゆたぽんは、反対方向へい上がった。


「ゆたぽーん!!!」

 りおがさけんだ。

はなして!疾風!」

「鏡の国はいいのか?」

「ゆたぽんを失えない」

「では願え!クリスタルレインのうろこへ!行き先は、ゆたぽんと!」


 疾風と速き者は、りおとみーくんを離した。

三体は、うずを巻くように飛び去ってゆく。


 りおちゃんとみーくんのふたりは、抱き合うように、トルネードの風にあおられて落ちた。

「行き先は、ゆたぽん!クリスタルレインのうろこ!ゆたぽんの所へ連れて行って!」





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