第6話 クリスタルレインの鱗

 不思議な動物がいなくなると、辺りは静かになって、りおは少し怖くなった。


 何かが、なんだかおかしいのだ。

 目に、にょろんとしたものが映っている。

 右を見ても左を見ても、それは、ぶらんと付いてくるのだ。

 そっと触れてみる。

「ひ!」

 それは、自分の鼻だった。長く伸びている。

 振り返ると、みーくんはイモリのような四角い顔になり、ゆたぽんの耳はサソリのはさみになっていた。

「きゃーーーーー!!」

 三人はお互いを見やって、尻もちをついた。

「なになになになに?!」

 イモリ?

 りおは、食べ終わったカップラーメンのラベルを見た。

 そこには、『イモリの肺』とある。

 他の2つは『サソリのはさみ』『バクの鼻』だった。


 まっまっまさか!


「これは、今食べてたカップラーメンのせい?」

「魔法のカップラーメンだったみか?」

「僕たちもう元に戻れないの?」


「待って待って」と、りおはカップラーメンのラベルを再び見やった。

『力は一回限り、使うと元に戻ります』とあった。


「力って、何だみか?」

「きっと、イモリパワーがあるんだよ」

「でも、元には戻れそうでよかったじゃない?」


 三人は、互いに顔を見合わせて笑った。

「なんか、みんな、ゆるキャラみたいになってるよ」


 その時、ふっと、風が頬を撫でた。

 みんなは、にわかに真顔になって、「外?」とつぶやいた。


「何だがこっちから、風が来るよ。」

 ゆたぽんが指さした。

「ほんとだ。」

「行ってみよう。」

 三人は深くうなづいて、壁を伝いながらゆっくり進んでいった。

 風は、少しづつ強まってきた。


ヒュルルリラー、ヒュルルリラー。


 どこからか、風が吹き込んでいる。


 光。

 空だ。

「外とつながっているよ!」

 明るい。

 りおたちは走り出した。

 そして、その窓を覗き込んで息をのむのだ。

 そこは、海だった。

 洞窟から1m下に砂浜が広がっている。


「広い。ここは、外なの?」

「だけど、ここはどこだみか?」

「僕たち、どこにいるのかな」


 3人は、砂浜に降り立った。

 すると、洞窟どうくつの道がひゅいんと消えてしまったのだ。

 洞窟に戻りたいわけではなかったが、消えてしまうと、心もとない感じがする。


「誰かいないのかしら?」

 りおは、海に向かって歩き出した。

 みーくんは、いぶかしんで、洞窟のあった場所をぐるぐる回っている。

 ゆたぽんは、とぼとぼと、りおの後をついて歩いた。


 りおの足に、何か固いものが触れる。

 りおは、しゃがみこんで砂浜を探ぐった。

 平べったい、水晶のようなものが出てくる。

 太陽にかざしてみると、七色に光っていた。


 その時、その七色の光が海に映り、美しい歌声がひびいた。


 ラン、ランララ、ランランラン。らららんランランラーン。


 その歌声に合わせて、海がおどり出す。

 まるで噴水ふんすいショウのように、虹色にかがやきながら、海がおどる。

 躍る踊る。


 やがて、その真ん中に、一本の道が出来上がった。


「きれい」

「どこにつながってるんだみか?」

「行ってみよう。きっと僕たちを招待しょうたいしてるんだ」


 歌声に合わせて踊り光る海の道を、三人は進んでいった。

 海の中にはサンゴが見える。タイやヒラメがキラキラと光っていた。


 それが突然とつぜん行き止まりをむかえる。

「なに?なんで?招待じゃなかったの?」

 その行き止まりの中に、人が見えた。

 いや、人ではない。人魚だ。

 うろこがクリスタルに輝いている。

 長いクリスタルの髪。クリスタルのモリを持つ、女性ではない。男性だった。


「あなたは、どなた?」

「私は、戦士、クリスタルレイン。失ったうろこを持ち、私に会いに来たのはお前か」

うろこ?」

 りおは、さっき拾った水晶を取り出した。

「それはクリスタル、またの名を水晶。浄化を意味する。お前は、心に何を抱えている。話しなさい」

 りおは。困ったような顔をした。

「お前は、その為にここへ来た」

 りおは、クリスタルレインに、うろこを差し出して言った。

「クリスタルレイン、りおは、なぜ、れんれんにきらわれたの?」


 クリスタルレインは、りおの涙をたどった。

いたるものよ。それは、かがみが知っている。鏡に聞きなさい」

 クリスタルレインは、りおからうろこを受け取ると、それをゆるやかに丸めてりおの手首にはめた。すると、三人の足元に穴が開き、長い長いすべり台のような洞窟が開いた。りおたちは、いびつな滑り台に翻弄ほんろうされるように、飛び上がったり、逆さになったり、ものすごいいきおいで、滑り落ちてゆくのだった。

                            ・・・つづく




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る