第5話 魔法世界のカップラーメン

 3人は顔を見合わせた。

「ここって、なんなの?」

 りおが言った。

「眠りの国にある、回廊かいろうの城エレデの牢屋ろうやのはずなんだけど。」

 ゆたぽんが言った。

「でも、ゆたぽんが居たのは、ただの穴だったよ。こんな道もなかった。」

「ゆたぽん、そんな長い間、たった一人で牢屋にいたの?」

「時間は長くなかったんだ。1時間ぐらいに感じた。」

「1時間?」


 突然とつぜん、みーくんが、すっとんきょうな声を上げた。

「おいしそうな匂いがするみ!」

 りおとゆたぽんは、顔を見合わせる。

「おいしそうってみーくん、この状況でお腹すいたの?」

「絶対おいしい奴だみ!」

 みーくんはクンクンしながら、進んでいく。

 りおとゆたぽんは、あきれ顔でついていった。

 壁がうっすら光るが、あまりにも暗い。


 壁に、トイレマークのプレートがかかっている。

「ここ、なんだか穴が開いてるよ。」

 そう言ってりおが手を入れてみると、ぱっと中に明かりがついた。

 中は、小さな部屋になっていて、ポツンとトイレが一つ置いてある。

「ここ、トイレなんだ。」

「ドアがないとなんか気になるみ。」

「そうだよね。」

 トイレの明かりで回りが少し見える。

 どうやらあちこちに同じような部屋があるようだ。

「なんだか、アリの巣みたいだね。」

 とゆたぽんが言った。

「そんなことより、おいしい奴はどこだみ。」

 トイレからはなれると、明かりは消え、元の暗がりに戻ってしまった。

「さっき見た感じだと、この辺にも部屋があったよね。」

 今度は本のマークがかかっていた。

 りおが手を入れてみると、また明かりがついた。

「本だ。」

 トイレの100倍ぐらいあるような大きな部屋が広がっている。

「図書室みたいだよ。」

 見たことのないような本がたくさんあった。

「本は食べれないみ。」

 みーくんは、目的の場所にたどり着けなくて不機嫌ふきげんだ。

 どすどすと歩きながらさっさと行ってしまった。

「待ってよ、みーくん。」

 あまりにも暗くて、みーくんを見失いそうだ。

 りおは、ゆたぽんの手を取って、速足でついていく。


 突然、みーくんにぶつかった。

「急に止まらないでよ、みーくん。」

「ここだみ!ここから、おいしい匂いがするんだみ!」

 肉や野菜のプレートが下がっている。

 りおがのぞいてみると、ぱあっと明かりがついた。やはり、食糧庫しょくりょうこのようだ。

 でも、見たことのない食べ物ばかりである。

 ワイングラスの形をした果物とか、四角い赤い野菜とか。

 流し台や調理スペースもある。

「冷蔵庫もあるよ。」

 ゆたぽんが指さしている。

 りおが近づいて開けてみた。

 りおは息をのんで、そのまま閉じる。

 しばらく動けないように放心している。

「どうしたんだみ?何が入ってたんだみ?」

 みーくんとゆたぽんは、りおの足元に集まった。

「りおちゃん、開けて。」

 りおは無言で、ゆっくりと扉を開けた。

 そこにあったのは、宇宙だった。

 恐ろしいほどの美しさが目の前に広がっていた。

 しばらく3人はその場に立ちすくんで、浮かんでいた。


 みゃ~

 という鳴き声が、突然扉とつぜんとびらを閉めた。

 黒い猫だ。

 黒い猫は、挑戦的ちょうせんてきにりおたちの周りを3回周ると、ぴょんとテーブルに飛び乗った。

「みやおん。」

 そう言うと、黒猫はカタカタカタカタと左右にれて、長い尾っぽを、くるんと曲げて、背中にくっつけた。まるで取っ手のようだ。そして、黒猫は、そのまま固く固まってしまった。

 口を開け、ピーというと、湯気を吐き出している。

「何?この猫。」

 りおが、そうつぶやくと、空中に文字が浮かんだ。

 それを読み上げる声もする。


 学名 〇▽▲◎✖〇▼=◆

 通称 にゃポット


 気が向いた時だけお湯を沸かしてくれる。

 気が向かないと頼んでもお湯を沸かさない。

 お腹が空いているときにお湯を沸かしてくれたら、すかさず使用すること。

 できるなら、空いていなくても取り合えず使用することをお勧めする。


 読み上げが終わると、消えてしまった。


「使うみ。お湯と言えばカップラーメンだみ。」

 仁王立ちするみーくんの前に、積みあがるカップラーメンが見える。

 ラベルはどれも見たことのないものばかりだ。

「何味かもわからないのに、本当に食べるの?」

「食べないでどうするみ!腹減はらへってなくても、今食べないともう食べれないかもしれないみ!」


 いきおいに圧倒あっとうされて、りおは「う、うん。」と答えていた。

 だけど、どれにしよう。フタの絵で決めようか。

 紫のコウモリ?それとも黒のどくろ・・・。赤に焼けただれた人形もあるなあ。

「みーは、このみーカラーにする!」

 みーくんが手にしていたのは、水色に干からびたイモリが描かれているラベルだった。

「じゃ、じゃあ、ゆたぽんはピンクにする。」

 ゆたぽんは、ピンクにみじゃけたサソリの絵にしたようだ。

「じゃ、じゃ、じゃ、じゃあああ、りおは、黄色に鼻の長い豚にしようかな。」

 比較的ひかくてきマシそうだ。

 3人はそれぞれお湯を注いで、3分待った。

「あっ!おはしがないみ!」

 みーくんが、そうさけぶと、天井からばらばらとお箸が落ちてきた。

「なにこれ。」

 するとまた、ポンと文字が浮かび上がった。


 学名 〇〇◆△☆彡

 通称 お箸虫はしむし


 天井裏に多く生息し、雄雌おすめす2匹で行動している。にょろにょろと動くが、「お箸」という言葉に反応して固まる性質がある。

「フォーク」とか「かぎ」という言葉に反応し、その形状を作る亜種あしゅも存在する。


 三人は、うんうんうんと首を動かし、お箸虫を取り上げた。

「どっからどう見てもお箸だね。」

 りおが感心して言う。

「とりあえず、食べるみよ。」

 ずるずるっと一口すすった瞬間しゅんかん、みーくんがふるえるように伸びあがった。

「うまい!うますぎるみー!!」

 確かに、匂いはめちゃくちゃおいしそうだ。

 りおは、恐る恐る口にしてみた。

「おいしー!」


 三人は夢中むちゅうで食べた。

 食べ終わると、ふーと大きく息を吐いた。

「おいしかったね。お腹いっぱいだね。」

 すると、にゃポットはやわらかい猫に戻って、どこかに消えてしまった。

 同じように、お箸虫も、にょろにょろと天井に消えてしまった。

                        


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