第4話 回廊の牢屋
ゆたぽんは、りおちゃんに、すごく愛されていた。
ぬくぬくのゆたぽんを、りおちゃんは、毎日抱きしめて眠る。
それが、だんだん夏になり、暑くてぬくぬくのジェルを入れなくなったのだ。
ジェルのないゆたぽんは、ぺらぺらの布のようになって、りおちゃんはもう抱きしめない。それどころか、ペラペラの布は、お布団の中でぐちゃぐちゃになっていった。
ゆたぽんは悲しくなるのだ。
あんなに愛されていたのに、りおちゃんに嫌われた。もう、元には戻れない。ずっとこのまま忘れられる。りおちゃんは、もう、ゆたぽんを抱きしめてくれない。
お布団と壁に間で、ゆたぽんは、どきどきしていた。
そして、突然である。
ゆたぽんは、壁の中に引きづりこまれてしまったのだ。
「りおちゃんは、今、嫌なことを考えていたみ」
「それで、眠りの癒しに違反したから、壁が開きかかっていたんだみ」
「みーには、ゆたぽんの声が聞こえた。薄くなった壁から、ゆたぽんが見えたんだみよ」
「必死に助け出そうとしたんだけど、りおちゃんも引きずり込まれそうだったから。
みーは、りおちゃんを眠りの癒しから避難させようと一生懸命さけんだんだみ」
「だけど、りおちゃんがいなくなると、壁はあっという間に閉じてしまって、ゆたぽんは挟まったままになんちゃったんだみよ」
りおは、挟まったゆたぽんに触れてみた。
そして、まだ小さかった頃を思い出すのだ。
「もう暑いよ、お母さん」
「そうねえ、じゃあ、ジェルを抜くわね」
そして、お母さんは、ジェルだけを持って出て行ってしまった。
ジェルを抜いたゆたぽんは、急にかわいくなくなった。
そしてりおちゃんは、みーくんに言った。
「みーくん、ゆたぽん、ジェルがないとかわいくないね」
りおは、胸が詰まった。
自分が、心無い言葉を口にしていたのだと気が付いたのだ。
「りおちゃんってダイキライ」
その言葉が、再び心を貫いた。
突然壁が開いたかと思うと、りおを吸い込もうとする。何とか、あがなおうとするのだが、無駄だった。
吸い込まれるりおの後を追うように、ゆたぽんも奥に吸い込まれていくのが見える。
みーくんはとっさにゆたぽんをつかんだ。
落ちる!
三人はものすごい勢いで落ちていく。
「ああ、もうだめだ」
その時、みーくんが叫んだ。
「りおちゃん!両手でゆたぽんの耳をつかんで!」
りおは、
みーくんも、両手でゆたぽんをつかんだ。
ゆたぽんが広がって、速度が少し落ち着いた。
くるくると回りながら、それでも三人はみるみる落ちてゆく。
ピンクのゆたぽんが、真っ赤になっていった。
ゆたぽんが苦しそうだ。
「ゆたぽん、しんどいの?」
ゆたぽんは答えない。必死に歯を食いしばっている。
「ゆたぽん」
りおは、片方の手を
また、すごい勢いで落ち始めたとき、ゆたぽんの耳が、りおの手をつかんだ。
「いいんだ、りおちゃん」
ゆたぽんの
「
りおが
「いいんだ、りおちゃん」
「ゆたぽんね、りおちゃんが、だいすき」
おおきな
そして、そして三人は、ふわるわとゆっくり降り立った。
そこは
ぶううううううう
という音とともにゆたぽんが普通の姿に戻っていく。
りおは、ゆたぽんを抱きしめた。
「ゆたぽん、ごめんね、ごめんね。ひどいこと言って、大事にしなくて、本当にごめんなさい」
りおは、泣いている。
「そんなことないよ。りおちゃん。いっぱい大事にしてもらったよ」と、ゆたぽんが言った。
「ありがとう、ゆたぽん、大好きだよ」
りおちゃんは、ゆたぽんを抱きしめた。
ゆたぽんも泣いている。
ゆたぽんは、りおちゃんを抱きしめたいと思った。
手があったら、りおちゃんをいっぱい抱きしめたい。
すると驚くことに、ゆたぽんはピンクのうさぎのぬいぐるみになっていた。
そして、両腕でりおちゃんをおもいっきり抱きしめているのだった。
「ああ、りおちゃん、僕、ぬいぐるみになれた!顔だけじゃなくて、体のある、柔らかいぬいぐるみになりたいと、ずっと思ってたんだ」
二人の涙が合わさってた時、ゴーという音とともに1本の道が出来上がった。
穴だと思っていたのは、
いったい、この先には何があるのだろう。
それは、不思議な世界への入り口だった。
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