第3話 眠りの癒し法違反の罪

 みーくんの叫び声で、りおは、目が覚めた。

 白い天井。もちろん、みーくんはいない。


 カサカサカサカサっと、何か虫のようなものが逃げる音がする。

 りおは、ぎょっとして起き上がった。

「りおなさん、目が覚めたのかしら?」

 木田先生が、りおに気づいて声をかける。

「ああ、はい、先生、起きました。あの。この部屋、今、誰かいましたか?」

「誰もいないわよ。どうしたの?変な夢でも見た?」

 そう言って、木田先生がカーテンを開けて入ってきた。

「あらあ?顔が真っ青よ。汗もかいてるわ」

 木田先生は、そう言うと体温計を差し出した。

微熱びねつだけど、今日は、帰ったほうがいいわね」

「お母さんに迎えに来てもらう?」

 りおは、首を横に振った。

「大丈夫です。一人で帰れます」

「そう?じゃあ、連絡だけしておくわ。岡林先生にもね。後の事は心配しないで、気を付けて帰るのよ」


 りおは、帰り道、事務室の前を通ったが、事務員さんもシュレもいなかった。

 やっぱり夢だ。ひどい夢だ。

 そういえば、みーくんの声がしたけど、何だったんだろう。

 まあいいか、どうせ夢だし。


 りおのお母さんは、近くのホームセンターでパートの仕事をしている。5時までは帰ってこない。

 りおは、誰もいない家のかぎを開け、自分の部屋に行って、ベッドに寝転がった。

 そばには、みーくんがいる。

「ただいま、みーくん」

 もちろん、みーくんからの返事はない。

「ねえ、みーくん、れんれんは、なんで、りおがきらいになったんだろう」

 りおの目から涙がこぼれた。

 れんれんは、挟上はさうえレインという。4年生の時と、5年生の時、同じクラスだった。

 同じ班で、すぐに仲良くなったのだ。

 背が高くて綺麗きれいで、りおは、れんれんの友達が自分であることが、自慢だった。

 ぼぼちゃんは、リ・ホウレイという。中国人だが日本生まれで、幼稚園ようちえんの時からのれんれんの友達だ。

 りおは、二人に比べたら、新参者しんざんものの友達だった。


 そのとき、タブレットから呼び出し音が鳴る。

 お母さんだ。

 母がビデオ通話で電話をかけてきたのだ。

 りおは、涙を拭いて電話に出る。

「りお?大丈夫なの?先生から電話をいただいたのよ。」

「うん、大丈夫。もう治った。」

「でも、顔色がよくないわね。目もれているわ。」

 目がれていると言われ、りおは少しあせった。

「そ、そうかな。」

「とにかく、今日はゆっくり寝ていなさい。お母さんも、なるべく早く帰るから。」


 電話を切った後、りおは、ぎゅうううっとみーくんを抱きしめた。

「みい」

 りおは、おどろいてみーくんを見た。みーくんが、ベッドのはしを指さしている。

 りおが、そっちに目をやるとベッドとかべの間にピンクの布がはさまっていた。

「なんだろう、あれ。」

「ゆたぽんだみ。」

 りおは、ビックリして、高い高いをするみたいに、みーくんをかかげた。

「みーくん、しゃべれるようになったの?」

「ずっとしゃべってるみ。」

 そうなのだ。しゃべってるどころか、みーくんは動いていた。

「りおちゃん、ゆたぽんを助けなきゃ。」


 ゆたぽんというのは、りおが小さなころに使っていた、湯たんぽのぬいぐるみだった。

 ピンクのウサギで、顔しかない。あごにチャックがついていて、そこから、温いジェルを入れる。寒い冬にはあったかくて、ベッドでよく一緒に寝ていた。

 それがいつの間にか、いなくなってしまったのだ。

「うそでしょ?あんなところにずっといたの?」

 りおは、ベッドの隙間すきまから引っ張り出そうとする。

 そして、驚いて飛びのいた。

 挟まっているのはベッドと壁の間ではない。壁にまっているのだ。

「なんで、こんなことに?」

「眠りのいやしに違反したんだみ。」

「眠りの癒しってなに?」

「眠りの国ではいやなことを考えてはいけないという、きびしいおきてがあるんだみ。」


 みーくんは、いつになく真剣な顔をして言った。

                         

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