第17話 童話図書館と不思議の鍵

 ニュクスが空をおおいいつくすと、辺りはすっかり暗くなった。

「ねえ、外に出てみようよ」と、ゆたぽんが言った。

 みんな一斉いっせいけ出す中、ひなのは、テーブルの本を大事そうにかかえてから、とびらに急いだ。

 彼らが小さなドアから表に出ると、そこに、小さな石が点々と光っているのが見える。

「道しるべという感じゃないわね」と、後からやってきた、ひなのが言った。

「クリスタルレインのうろこに、行き先を願わないといけないんだみよ」


 みなが、りおを見た。

 りおは、クリスタルレインの腕輪うでわを、胸に押し付けるようにして、両手を組んだ。

「お願い、白雪姫と、6人の小人の所へ連れて行って」

 鱗が光り出す。

 それにみちびかれるように、光る小石たちは、ずるずると動いたかと思うと、まっすぐに整列せいれつした。

「こっちだ」と、レヴァンが先頭を切って歩み始める。

 みなも、少し早足で、後に続いた。


 森の木々を、いくつ超えただろうか。

 洞窟どうくつのような場所が現れ、小石はそこで途絶とだええた。

「ここ?」

 洞窟の内部の壁に、りおが手をつくと、ほんわりと光をはなった。

「これ」

「そうだみ。元居もといた洞窟だみよ」

「ここに?白雪姫がいるの?」


 7人は、おそる恐るその中に入っていった。

 少し開けた、ドーム状の空間に出ると、ひなのが手にしていた本が、勢いよくページをめくり始める。そのままき上がると、洞窟のかべに、白雪姫の物語が、走馬灯そうまとうのようにうつし出された。

 そして、その壁の中から、ローリーを見つけた様子の白雪姫と6人の小人が、流れとは逆に向かって、走りだす。そして、壁の外にあらわれたのだ。


「ローリー!」

 白雪姫は、ローリーに向かって、一目散いちもくさんけ寄って抱きしめた。

「ローリー!ローリー!」

 他の小人たちもローリーを取り囲んで喜んでいる。

「よかった、よかったわ」


 白雪姫は立ち上がると、りおたちに丁寧ていねいに礼を言った。

「本当にありがとうございました。この本は、美女と野獣やじゅうのベルに、貸し出されたものだったのですが、彼女のお父さんが、野獣の城につかまった時の混乱で、ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家にまぎれ込んでしまったんです。ローリーだけいなくなってしまって、もう、心配で心配で」

「それは、大変でしたね」と、りおが声をかけた。

「ええ、そりゃあもう。ご面倒ついでに申し訳ないのですが、これを童話図書館どうわとしょかんにお返しいただけませんか?そしたら、私たちはもう、安心してらせますから」

「童話図書館?」と、りおが答えた。

「大きな図書室のような部屋を覚えておられません?」

「ああ!魔法まほうのカップラーメンのそばにあった」

「そうです」

「でも、もどれるかしら?」

「戻れますとも」

 すると、金色の粉のようなものが、白雪姫を取りかこみ始めた。

「あら、もう本に戻らなければ」

 7人の小人たちの周りにも粉がい始める。

「あ、あの!待って、白雪姫さん!白雪姫のかがみは、どこにあるんですか?」

「それなら、ガラスの宮殿きゅうでんの地下、魔法小道具まほうこどうぐの部屋に」

「それって、どうやって行けば?」

「これをお持ちになって」

 白雪姫は、黒いニョロニョロしたものを、りおに手渡てわたした。

「これは、お箸虫はしむし?違うのかしら?お箸って言ってるのに、箸にならないわ」

「それは、お箸虫の亜種あしゅ。魔法小道具の部屋のかぎ、と言うとね」

 黒いニョロニョロした者は、急に鍵の形になった。

「ガラスの宮殿の朝に、その子をはなってみて。魔法小道具の部屋に向かうわ」


 そう言うと、白雪姫はき上がっている本の中にまれるように消えた。

 6人の小人たちも、順番に本の中に消えてゆく。


 ローリーが、みんな握手あくしゅして歩いた。

「レヴァン、男の子になるんだね。幸運を祈ってるよ」

「メロウ、幸せに」

「みーくん、ゆたぽん、元気でね」

「りおちゃん、うまくいきますように」

 そして、ローリーは、ためらいがちに、ゆっくり、ひなのの前に歩み出た。

「ひなの・・・ひなの・・・」

 ひなのが、ローリーを抱きしめた。

「ローリー、家族に会えてよかったね。愛されていて、本当に良かった」

「ひなの!」

 ローリーは、泣き笑いしながら、ひなのを見上げた。

 金色の粉がローリーを取り巻く。

 みんなを見回し「ありがとう」と、つぶやくと、ローリーも又、本の中に消えて行った。


 浮いていた本は、パタンと閉じて床に落ちる。

 ひなのがひろい上げ、中を開くと、そこには、仲間と笑うローリーの姿があった。

 みなのぞき込んて、ほっとした笑顔を見せている。


 りおは、お箸虫をスカートのポケットの中に入れながら言った。

「図書館に戻さなきゃ、白雪姫と7人の小人が、安心してらせるように」


 先のかべが光っている。

「もしかして、あっち?」

「うん、たぶん、道案内みちあんないしてる」

 光る壁の方に向かって、りおたちは歩き出した。

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