第8話
アイラを敵視するグループに情報を売り、彼女の肉体を破壊する――。
私たちは共謀し、アイラを管理する研究棟へ襲撃をしかけた。
今宵「夢重ねシステム」の姫は死に、国はふたたび、暗黒の夜をむかえる。
――アイラに破壊工作を行う係に、私は立候補した。
――あなたの息の根の止めること。偽りではあったが、友情の帰結点をつくることは、私に与えられた使命だとおもった。
アイラを完全に破壊することで、自分が人々の新しい姫となる……一瞬だけそんなこともおもった。だが私は、アイラにはなれない。だからこれは、八つ当たりだ。何も手に入れることができないなら、せめて、見たくないものを破壊する。非常に戯事めいた、おろかな行為だ。わかっていながらも、私の足は止まらない。私はきづいた。私はアイラに消えてほしかった。絶対的な才能は、私には光であると同時に、毒だった。
アイラを保管する研究室に忍び入る。
多くの水槽がたちならぶ。
そのほとんどは、脳ミソが沈んでいる。夢遊学の研究のため、提供されていた脳ミソであった。
人体が眠る水槽は、ただ一つだけ。
「アイラ……私はこの日をずっと待っていた。今宵、あなたを消します」
生命維持装置の電源をおとす。
緊急アラートが鳴りひびく中、私は高笑いしていた。
アイラが死ぬ。彼女の水槽に、大量の泡が発生している。赤く輝き、皮膚が裂け始める。
笑い疲れた私は、なにをおもったのか「夢重ねシステム」のギアを装着し、アイラの夢に入ることにした。
死におびえるアイラに「ざまぁみろ」といってやりたかったのだ……。
だが、アイラは、死におびえてなど、いなかった。
彼女は、つったったまま、崩壊してゆく夢の世界をぼんやりとみていた。
一羽の銀鳥が彼女の指にとまった。
すぐに羽がちぎれ、ハラハラと粉末になった。
私の来訪にきづくと、アイラは「ア、きたわね」とふりむいた。
「プレゼントを用意していた。だけど、あなたのように上手にできなかった」
彼女は指笛をふいた。アトリエからでてきたのは、馬ににた、一頭の夢生動物であった。つばさが生えており、世界をみたす不穏な空気に、恐れ、はばたかせている。大学で初めて会った時、私が描夢したものとにている……、だが、こちらのほうが、高貴で、美しかった。
「私はもういっしょにいられない。あなたがお友達になってあげて」
「アイラ、あなた、私を怒っていないの」
「どうして」
「あなたの生命維持装置をとめたの、私」
「あなたが私のことを嫌っていると、私はしっていた。
だけど、あなたは私の友達でいてくれた。
だから、私はあなたに感謝をしている。
さぁ、もうおゆきなさい。
あなたまで夢の崩落に飲みこまれ、もどれなくなってしまう」
殴ろうとしたのか、抱きつこうとしたのか、あるいは、泣きつこうとしたのか――。
私はアイラに駆け寄ろうとした。
だが、アイラはふたたび指笛をふき、夢生動物に私のからだをくわえさせ、この場から離陸させた。
アイラのすがたは、すこしずつちいさくなっていった。
私は彼女にむけてなにかを叫んでいたが、それがアイラにとどいたか、わからない。
やがて、視界にくらやみが忍びより、アイラのすがたはどんどんみえなくなっていった。
最後、金色のちいさな光が、一瞬強くかがやき、きえていった。
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