第2話
私がアイラとあったのは、大学の入学式の時だった。
式に疲れた私は、庭園のベンチで、夢生動物の描夢をおこなっていた。
桜吹雪がまっていて、そこに、一筋の金色にかがやきをみた。
「あなた、おなじ学部の子よね」
髪をおさえながらアイラはいった。光はアイラの髪の光沢であった。
アイラの容姿は、とおい海のむこうの国のガラス人形のように、現実離れをした美しさをもっていた。
「まぁ、もう描夢をしているのね。とてもかわいいお馬さん。翼が生えているけれど、空をとぶの」
「昔、父の書斎でみた、幻生物回顧録に記述されていた動物をモチーフにしているのです。所詮は既存の模倣でしかないから、オリジナルの夢生動物としての認可はおりないでしょう」
「私も描夢をすこし学んだの。さっきね、そこの購買で念写紙を購入した」
アイラはカバンから念写紙を一枚とりだし、目をつむった。緑色の閃光が彼女のまわりでパチパチと爆ぜ、やがて、紙に線がひかれてゆく。描かれたのは、美しい、一角をもったクジラであった。まばたきをした瞬間、念写紙の景色は一変していた。クジラは宇宙のような空間に移動していた。潮をふきながら移動する様は、銀色の虹が、宇宙を泳いでいるようだった。「まばたきをする間もなく、描夢したものが姿をかえること」は優秀な描夢者としての条件だ、と昔読んだ本に書いてあった。「……あなた」「アイラよ」アイラは描夢をやめ、目をひらき、私に手をさしのべていた。
私は自分の名前をなのり、握手におうじた。
学食をいっしょにたべようとアイラは私をさそった。私は庭園を出る時、自作の念写紙を丸めて、くずかごに捨てた。
「捨てちゃうの」
「えぇ」あなたのみていると、くだらなくおもえた。だから、捨てた。とはいえなかった。
「かわいいお馬なのに」アイラはそれを拾い上げ、ポケットにしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます