カガミの館にようこそ
桃福 もも
一話完結 5,300字の小さな児童文学
リオちゃんは、小学3年生です。
みんなは、ジェットコースターに
なぜなら、『120㎝以上ないと、ジェットコースターには乗れません』という
みんなと言うのは、いつも
みんなは、2年生の内に身長が120㎝をこえたのでした。
だけど、いよいよ、リオちゃんにもその時が来たのです。
明日、はじめてジェットコースターに乗れるのですから。
わくわく、わくわく。
リオちゃんは、楽しみなことがあると、なかなか
今日もそうです。
みーくんを
ぜんぜん
みーくんというのは、水色のクマのぬいぐるみです。
小さなリオちゃんのお気に入りで、いつも
でも、このごろ、リオちゃんは、白い大きな
「リオちゃん、起きて。もう時間よ」
ママの声で目が
リオちゃんは、
わくわく、わくわく。
でも、目の前には、遊園地があるのに、
「こまったな。ちょっと
リオちゃんのパパは、遊園地をぐるっと回って、
「ずいぶん歩かないといけないんじゃない?」
ママは、
「いや、
木と木の間に、くちたような古い
『裏口ゲート』
「ああ、良かった。でも、さすが裏口ね。
そこには、色あせたメリーゴーランドや、
「おい!見てくれよ!カガミの館だって。なつかしいなあ。パパは、子供のころ大好きだったんだ。ちょっと入っていこう」
「え?ジェットコースターは?」
「せっかく、すいてるんじゃないか。こういう所は、後からこむんだ。
カガミの
リオちゃんも、お化け
「うん。じゃあ、この次がジェットコースターね」
そう言って中に入ると、ちょうどドアが3つあります。
「よしよし、いいぞ。みんな別々の道を行こう」
「ええ!いやだよ、はなれたらだめだよ」
「大丈夫さ。せまいんだから、すぐに会うよ。カガミにも
パパは、そう言うと、さっさと行ってしまいました。
「リオちゃんは、どっち?」と、ママが聞いてきます。
リオちゃんは、しぶしぶ右のドアをえらびました。
するとママは、何のまよいもなく、まん中のドアに入っていきます。
リオちゃんは、ひとりはいやだなと思っていましたが、入るとカガミに映るパパが見えます。リオちゃんに向かって手をふっていました。
本当に入り口がちがうだけのようです。
リオちゃんは、少し安心しました。
でも中は、外ほどきれいではありません。カガミが古くて、黒いシミができています。
次の部屋に入って、リオちゃんはおどろきました。ずらっと
「すごい!本当に、
リオちゃんは、右手を上げてみます。
ですが、おどろいたことに、その中の一人が、走って
「え?」
リオちゃんは、目をこすってみます。
「かんちがいかな」
リオちゃんが映っていないカガミはありません。
「気のせいか」
何だかカガミのシミが、さっきより大きくなったように見えます。
リオちゃんはこわくなって、
次の部屋に入って、リオちゃんはほっとしました。そこには、パパがいたのです。
「パパ!」
そこは、カガミ
「やあ、リオちゃん!
リオちゃんは、パパにしがみついてブランコに乗りました。
急に音楽が
色とりどりの
それは、
「
ブランコが、
空の
その時、おかしなことが起こりました。
ブランコが後ろに引いて、次に前に行くタイミングで、もう一度、後ろに引いたのです。
いえいえ、
ブランコが、前に向かってゆくのが見えるのです。ブランコだけではありません。前に行く、自分の後ろ姿まで見えるのでした。
「え?」と思った時、リオちゃんは、自分がガラスの中に
「パパ!パパ!」
いくら
パパは、リオちゃんじゃない子と、手をつないでいってしまいました。
「パパ!」
リオちゃんは、
向こう側に、ママの姿も見えます。
「ママ!」
ですが、ママも、全く聞こえないようでした。
そのうち、辺りが静かに、真っ暗になってしまいました。
リオちゃんは、一人、取り残されてしまったのです。
「どうしよう」
遠くに明かりがぼんやり見えます。
その明かりは、だんだん大きくなるようでした。
のっしっし、のっしっし。
「足音?」
のっしっし、のっしっし、のっしっし。
音と共に、明かりも大きくなってきました。
それは、ランタンを持った、大きな黄色いクマのぬいぐるみでした。
「いらっしゃいませ。クマのホテルにようこそ。ご
「予約なんてしてません」
黄色いクマさんは、ランタンを
「いいえ、
「どうぞどうぞ」
ずんずんずうううん、ずんずんずうううん。
やがて、クマさんは立ち止まりました。そして、リオちゃんに枕を渡すのです。
「こちらのお部屋をお使いください」
そういうと、クマさんは、ぼんやり消えてしまいました。
「こちらのお部屋って?ここ、部屋なのかしら」
すると、あたりが急に明るくなったのです。そこは、リオちゃんが夢見ていた、お
ステキなシャンデリア。ごうかな
「うわあ。すごい!」
オープンクローゼットには、ドレスがいっぱい
リオちゃんは、その中から、一番かわいいピンクのドレスを着てみました。
「パパ!ママ!見て!」
でも、
「誰にも、見てもらえないなんて、つまらないな」
リオちゃんが、そうつぶやくと、カガミの中に、リオちゃんじゃないリオちゃんが、パパとママと、ご飯を食べている姿が映りました。
「パパ!ママ!、リオちゃんはここよ!」
ですが、気づく様子はありません。
何だか、とても楽しそうです。
「すごかったね。ジェットコースター!明日みんなに自慢するんだ」
「ジェットコースター?うそ、乗ったの?リオは、まだ乗ってないのに!」
そこに、赤いクマのぬいぐるみが転げ落ちてきました。
「だめよ、リオちゃん。カガミをうらやましがらないで」
「え?何か言った?」
赤いクマさんは何も言いません。
カガミの中では、楽しそうにハンバーグを食べています。
「今日は、ハンバーグだったのか」
その時、ぐうっと、リオちゃんのお
「ハンバーグ食べたいな」
リオちゃんは、冷蔵庫に向かいました。
何とその中には、フライドチキンにカニクリームコロッケ、ショートケーキにチョコレートパフェまであります。
リオちゃんは、パクパクパクパク食べました。
「でも、ハンバーグが食べれなかった」
リオちゃんは、もう一度カガミを見ました。
パパもママももう映っていません。
リオちゃんは、
それから、頭に小さなピンクの耳が付いていました。
「
リオちゃんは、カガミに向かってにんまりしました。
すると、カガミから声がします。
「リオちゃん、
カガミは、
ごうかな
それを広げて、ママと楽しそうに話しています。
「ママ!リオちゃんはここよ!ママ!」
ママはまったく気付きません。
もう向こうの世界には、もどれないのでしょうか。
白いドレス、白いドレス。
リオちゃんは、クローゼットをうろうろしますが、白いドレスは
のっし、のっし、のっしし。
なんだが、足音が少し変です。リオちゃんが足元を見ると、ピンクのファのブーツをはいていました。
「いつの間に?」
青いクマが、リオちゃんにしがみついて言いました。
「だめだよ、リオちゃん。ここで、ぜいたくに
「え?」
リオちゃんは、自分の手が赤いクマの手になっていることに気がつきました。
「うそでしょ?」
「もうすぐ、
「あれは、黄島くんなの?」
「赤木さんは、本当のぬいぐるみになりかけてるんだよ」
「ぼくも、まもなく、分からなくなる」
「まさか、青川くん?」
青いクマのぬいぐるみは、うなずきます。
「
「どうやって?」
「あの子の
「あの子は、リオちゃんの
この部屋は、
「そうだ、ティアラ!結婚式に、ティアラがしたい!」
リオちゃんは、クローゼットからティアラを取り出して、頭にのせました。
猫耳に、ティアラがきれいに引っかかります。
カガミをのぞきこむと、その先では、白いドレスを
髪に花飾りもつけてもらっています。
でもその子は、カガミをのぞきこんで目を
そして、カガミの中に手をのばしてきたのです。
「今だ!」
リオちゃんと青川くんは、その子の手を引っ
すごい力で、なかなか引っ張りこめません。
青川くんの後ろから、ぬいぐるみになりかけている赤木さんが、その後ろに、クマさんホテルの黄島くんがやってきて、みんなで力を合わせて引っ張ります。
ポーン!!!
すごい音をたてて、その子が
カガミには、ぬけた後に
「はやくはやく!!この穴から、向こうに出るんだ!」
穴の中は、何枚も何枚も続く合わせカガミの世界でした。
後ろから、どんどんどんどん閉じていきます。
「このままでは、閉じ込められてしまう。急いで!」
みんなのファが、どんどん剥がれ落ち、人間に戻って行きました。スピードは、ビュンビュンあがります。
でも目の前の穴は、みるみる小さくなってゆきます。
先
リオちゃんに必死に手を伸ばしています。
リオちゃんは、左手でその手をつかむと、右手で赤木さんの手をつかみました。
黄島くんは、ぎりぎり、飛び込むように、赤木さんの手をつかみます。
4人は団子のように、グワングワンと転がりながら、ちりぢりに飛ばされてしまいました。
リオちゃんは、自分のベッドで目が覚めました。
みーくんがこちらを見ています。
「
リオちゃんは、カガミをのぞきこみました。
そこには、ななめになったティアラが、取れそうになりながらのっているのです。
「夢じゃなかったのね」
学校に行くと、青川くんも、赤木さんも、黄島くんもいました。
4人は、
3人は、120㎝になって、ジェットコースターに乗りに行ったら、『カガミの館』のクマさんホテルから、出られなくなってしまったそうです。
では、今まで一緒に帰っていた『仲良し』は、
リオちゃんは、ふと思うのでした。
「120㎝になる前には、もう、もどれないんだわ」
「あれは、もうもどれない世界にいる、別の自分たちなんじゃないかしら」
ないものを
完
カガミの館にようこそ 桃福 もも @momochoba
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます