3:登場人物について (2)

◆志津丸(しづまる)


 怪異・妖怪天狗/初登場時20歳/身長178cm/東京都八王子はちおうじ市出身


 東京と神奈川の境、大垂水峠おおたるみとうげの木のまたから顕現した天狗。

 高尾山系の大天狗・瑞鳶ずいえんに拾われ弟子となる。


 高尾の天狗には、12歳から20歳までの間、人間の街で物質生命体の暮らしを学び共生精神を身につけるという掟がある。志津丸もその掟に従い、人狼の家にホームステイを始め、自分の烏帽子親えぼしおやとなる雁枝やミケと出会った。


 実際には志津丸が5歳の時、袴着はかまぎの儀の際にも会っていて、ミケを友人扱いしていたのだが、本人は薄っすらとしか覚えていない。


 反抗したり勝負を挑んだりもしたものの、結局はミケを憧憬の対象としており、長らく祖父のように慕ってもいるので、突然現れて音戸邸の居候となった根岸の事は気に入らない。

 ただ、彼の根性や洞察力の高さを認めてもいる。


 常に髪を金色に染め、ワックスで逆立てている。地毛も明るめで鳶色とびいろに近い。

 何でもゴールドに染めるのが好みで、天狗の正装である山伏装束の袈裟も金地。愛用のバイクも金の塗装。


 好きな食べ物はごぼうと里芋の煮物。

 野菜や山菜、きのこといった山の幸全般が好きで、同世代の人間からは「見かけによらず好みが渋い」と驚かれがちである。驚かれると不機嫌になる。

 バイト代で買い食いする牛丼やフライドチキンなども嫌いではない。

 かなりの大食漢で、音戸邸でミケの手料理を食べると大抵三杯はご飯をおかわりする。


 趣味はツーリング。

 都内のバイクショップでアルバイトとして勤務している。

 勤務先の店長は人間だが、志津丸の他にも怪異を雇った経験があるので、彼の正体については気にしていない。


 他の趣味として、漫画やゲームもたしなむ。古めの漫画が好きで、80〜90年代の少年ジャンプのコミックスを古本で集めたりしている。


 能力は山風使い。自然界を漂う風の精気を練り上げ、薙刀なぎなたを作り出す事が出来る。

 天狗の中でも稀少な異能とされる、千里眼の使い手でもある。風の届く範囲内をつぶさにサーチする能力で、便利だが消耗も激しい。

 また、千里眼使用中は自分の本来の視界が閉ざされるため、戦闘中や危険な場所では使えない。


 他に天狗全般にそなわる能力として、背中に翼を生やして空を飛べる。この時も風の力を借りるため、瞬間的な最高速度は鳥類より遥かに速い。


【製作小話】


 プロトタイプ短編の時からミケの歳下の友人として登場していたキャラクター。

 ただし短編版では天狗ではなく、予知能力を持つ妖怪・くだんという設定でした。

 人頭牛身というビジュアルがウェンディゴと少し被るのと、もっとバトル向きの妖怪の方が話を広げやすいという理由で天狗に変更。


 くだんのバージョンの志津丸はとにかくお喋りだったので、「名前は『しずまる』なのにうるさい」という駄洒落から名づけられました。可哀想なキャラです。

 今作ではもう少し無愛想になりましたが、声は大きいのでやっぱりしずまるなのにうるさいです。


 峠生まれという事でバイク乗りにしていますが、書き手がバイクに詳しくない事もありなかなか乗せる機会がありません。


 学生時代の志津丸は、テスト前などにはミケに家庭教師として勉強を教わったりしていましたが、そもそも勉強嫌いなのでミケも手を焼いたと言います。


 12歳からの修業期間中、平日は陸号の家に下宿していましたが、週末や長期休暇の際には天狗の里に帰省していました。その間は能力と棒術の訓練にはげんでいます。


 また高校卒業後は、アルバイト先に近い安アパートを拠点に、天狗の里と人の街を行ったり来たりする生活です。飛べるとはいえ割と忙しい日々のようです。



   ◇◇◇



◆諭一・アンダーソン(ゆいち・――)


 人間/初登場時21歳/身長183cm/東京都武蔵野むさしの市出身


 北米先住民の血を引く著名な作曲家兼ミュージシャン、マーティン・アンダーソンの一人息子。母の名は沙織さおり


 父マーティンと祖父トマスは元々西アメリカ共和国に暮らしていた。

 しかし怪異発生阻止のための思想統制政策が強化され、それに対する反発により治安が悪化。内戦に近い規模の暴動も発生し、親子は東アメリカ合衆国に亡命する。


 成長したマーティンは音楽の道で国際的に活躍するようになり、日本人ピアニストの沙織と駆け落ち気味に結婚して来日。

 諭一は吉祥寺きちじょうじの閑静な住宅街で育ち、父の故郷の話はほとんど聞かされてこなかった。


 諭一が自分の血筋や、父と祖父の関係を悪化させてしまった事を悩むようになった思春期の頃、怪異に取り憑かれやすい「引き寄せ体質」である事が発覚した。

 ただでさえ学校には怪異が発生しやすい。体質とメンタルが安定するまで通う事は難しいと判断され、中学の途中から高校3年間はホームスクーリングで卒業資格を取っている。


 その後栄玲大学に入学。二年生になる春休み中、肝試しに行った先で幽霊に取り憑かれ、入学したばかりのミケに祓って貰う。以降、ミケと(半ば強引に)友人となった。


 髪を長く伸ばし、上半分を群青と空色に染めている。

 左腕に線刻状のタトゥーが入っている。ウェンディゴに取り憑かれた事で浮き出たもの。

 失われた民族『灰の角』にとって、『精霊への敬意と対話』を意味する模様である。

 普段はスポーツ用サポーターで隠している。


 愛車はメタリックグレーのシボレー・カマロ。

 音楽系のYouTubeチャンネルを持ち、ピアノや歌、キーボードなどを披露している。登録者数はそこそこ。

 父親の母国語が英語であるため、英語はほぼネイティブと同様に話せる。


◆灰の角(はいのつの)


 怪異・精霊ウェンディゴ/推定130歳/身長300cm/旧アメリカ合衆国モンタナ州(現東アメリカ国境付近)出身


 カナダ及び旧北部アメリカに伝説の残る、人食いの精霊ウェンディゴに分類される。

 ただし彼の一族と彼自身の呼び名は他にあった。

 彼らと同じ領域で暮らし、彼らを畏怖した北米先住民『灰の角』の一族が滅び、言語も消失してしまったため、彼らの恐れから顕現した『灰の角』もまた自分の名前を喪失している。


 こうした場合の怪異は、消滅もしくは暴走したり、別の凶暴な種族に変異したりするケースが多いのだが、このウェンディゴは『灰の角』の最後の一人となった青年と融合し、遺志を引き継いだためか、奇跡的に理性を保ったまま現代まで人肉を食べずに生き延びている。

 ちなみに好物は生ハムである。たまに諭一に催促する(彼がセレブの息子で幸運だった)。


 普段は諭一の左腕の線刻タトゥーの内に潜んでおり、呼び出されると彼を包み込む形で変身する。

 灰白色かいはいしょくの牡鹿の角に、鹿と山羊と熊の中間の顔、碧色の有蹄類ゆうているいの瞳、熊と猿を掛け合わせたような胴体に黒く短い毛皮、全身を彩る淡く発光するブルーの刺青タトゥーが特徴。


 能力は周辺環境の冷却、並びに飢餓感の幻出。

 どちらもターゲットを限定するのは困難な、いわゆる範囲式の無差別攻撃となる。また、飢餓感は本来取り憑いた相手に感じさせるものであるため、憑依先の諭一も空腹を感じてしまう。

 飢餓感幻出はビタミン欠乏症に近い症状なので、ビタミン剤を服用すると治る。他に豚肉、バナナ、鶏レバーも有効。


 人語を声に出すのは苦手だが、諭一のタトゥーを変形させて、アルファベットをつづる形で外部と会話出来る。

 諭一いわく、だんだんと語彙が増えているとの事である。


 彼自身の性格は、理知的で温厚。融合者の子孫である諭一が楽観的で無鉄砲が過ぎるのを心配している。


【製作小話】


 プロトタイプ短編版から登場していましたが、大きく設定の変わったキャラクターです。


 元々諭一は人間ではなくウェンディゴそのもので、人間に変身しているという設定でした。

 名前も諭一ではなくリアムといって、出身はカナダだったのです。

 長編化にあたって日本生まれの人間にしたのは、単純に長編のレギュラーとして書くのが大変過ぎたからです。


 諭一という名前はどこから持ってきたかというと、短編版ではミケの主人が雁枝ではなく男性の吸血鬼で、このキャラの名前が諭一でした。

 現在の諭一の性格も短編版吸血鬼の諭一に近いかもしれません。ウェンディゴ・リアムの性格は『灰の角』の方に色濃く残っています。


 また、短編版のリアムは眼鏡を掛けたスーツ姿の二十代男性として登場するので、人間形態のビジュアルは根岸に受け継がれています。もう無茶苦茶です。


 さて、長編版における諭一と『灰の角』ですが、ポジション的にも能力的にも、戦闘やストーリーの上で見せ場を演出しづらいという申し訳ない立ち位置になりがちです。

 しかしこの作品世界に「普通の人間」の視点を加える貴重なキャラクターで、書き手的には大変気に入っています。

 今後、よりかっこいい見せ場を用意してあげたい所です。

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