4:登場人物について (3)

◆滝沢みなみ(たきざわ・――)


 人間/初登場時30歳/身長155cm/神奈川県出身


 東京都特殊文化財センター職員。

 『怪異憑き遺物の物理的状態変化』をテーマとした論文で博士号を取得し、トクブン就職後、二十代のうちに主任調査員となる。


 小柄で童顔、目鼻立ちのはっきりした顔つき。髪色はダークブラウンで、緩い癖がある。仕事の時は大体ひとまとめに括っている。


 幼少期から霊感が強かったが、怪異との距離の取り方も早くから学習しており、学校は全日制に通学していた。


 実は非常に猫好きで、ミケに会う時は常にモフりたくてうずうずしている。ミケも察して撫でさせたりしている。


【製作小話】


 この作品世界における「怪異慣れした人間」を代表するポジションになります。

 根岸よりも怪異慣れしていて、外見の不気味さや現実認識力の欠如くらいで嫌悪感を示す事は滅多にありません。

 一方で、素人による降霊会が深刻な事故に繋がった事例や、怪異と仲を深め過ぎた事による悲劇など、文献と現場の両方で社会問題を見てきている人物でもあり、怪異とは適切な距離を置く事が肝要だとも考えています。


 名前の由来は江戸時代の作家・滝沢興邦たきざわおきくに曲亭馬琴きょくていばきん)と鶴屋南北つるやなんぼくから。



   ◇◇◇



◆上田衛(うえだまもる)


 人間/初登場時51歳


 東京都特殊文化財センター所長。

 前職は地方の埋蔵文化財センター職員。

 調査中の遺跡に偶然出現した凶悪な怪異を、「遺構を荒らすな」と怒鳴りつけて素手で張り倒し、それが切っ掛けとなって半ばスカウトされる形でトクブンに転職したという逸話を持つが、この武勇伝は真偽不明。


 学者肌というよりは現場肌寄りで、フィールドワークが好き。プライベートでも山歩きを趣味とする。

 そのためか常に日焼けしていて、大柄ではないもののがっしりした身体つき。髪はごく短く、白髪混じり。


 強い霊感の持ち主ではあるが、トクブンに入職するまではあまり怪異に関心を持っていなかった。現在もかなりフラットな感覚で怪異に対応している。


 トクブンの新人時代に音戸邸の担当になった経験があり、雁枝とは浅からぬ友情を築いている。ミケとも仲が良い。


 根岸に目をかけていたため、彼の死の際には深く気落ちした。職員に戻す際にも、当人には伝えていないがあちこちに掛け合って奔走している。


【製作小話】


 名前の由来は根岸秋太郎と同じく、上田秋成うえだあきなり根岸鎮衛ねぎししずもりから。


 本当は人間社会の話も色々と書きたいんですが、本筋が怪異側の話なものでどうしても人間の出番が少なくなってしまいます。


 また本作を書くにあたって、人間と怪異が対立構造にあり、人間側が怪異を『退治』しにかかるとなると、他の多くの名作とストーリーが被ってしまいそうなので、怪異対策専門職といっても戦ったりはせずに、付き合い方を調整する程度の職務に留めようとしたのですが、そうなると仕事シーンが物凄く地味なことになります。


 『猫と死霊の剣舞』の中で根岸達が幽霊の出る遺跡発掘現場に行く場面がありますが、普段の仕事は大体ああいう感じです。正直話を広げにくい……というか、書くとしたらじっくり書かないといけなくなるので、怪異側の話がおざなりになりそうです。


 この辺、後先を考えずに思いつきで書き始めた弊害がもろに出ていますね……



   ◇◇◇



◆唐須芹子(とうすせりこ)


 人間/初登場時20歳/身長158cm/大阪府出身


 平安時代に関西で生まれた伝統的な民間医療・信仰の担い手、『虫喚び乙女をとめ』の末裔。


 明るい茶髪をボブに整えていて、直線的な眉に一重ひとえ瞼の和風美人といった顔立ち。


 『虫喚び乙女をとめ』としての正装は早乙女姿さおとめすがたに近い。

 かすりの着物に茜色の前掛け、脚絆きゃはんを付け、頭に花飾りと鈴のついた笠を被る。笠の縁からは肩口まで届く麻布が垂れている。


 『虫喚び』とは、人に取り憑いて体調不良を引き起こす極小の怪異『虫』を祓い、時に飼い慣らして使役する怪異対抗術である。庶民の間で発達したが、現代では公的に方術使いの一種と分類されている。


 方術用の霊験具れいげんぐとして、『虫』を封じ込める『籠帳かごちょう』と、喚び出し・摘まみ出し・操作に使用する『啄笛ついばみぶえ』を携帯する。


 多くの流派は西洋医学の発展した二十世紀に途絶え、一時は継承者も僅かとなる。しかし一九四五年の怪異パンデミック以降は需要が復活。

 基本的に個人事業ではあるものの、パンデミック後まもなく『虫喚び連絡会』が発足しており、現代においては陰陽庁、各医療機関、赤十字とも連携して怪異対策にあたっている。


 芹子も連絡会の一員で、十八歳からプロの『虫喚び乙女をとめ』となって仕事に励むと共に、『虫』をでる人間として、怪異や虫喚びへの正しい理解を広めるための広報活動も行う。


 なお、『虫』と呼ばれる怪異に明確な基準はなく、「笛で摘まめて、籠帳に閉じ込められるなら『虫』」と芹子は認識している。


 『虫』には並みならぬ愛情を注ぎ、同時に普通の小動物も好む。犬、猫、ウサギ、ハムスター、カピバラ、蛇、トカゲ、甲殻類、昆虫全般が好き。動物園や汽水博物館の配信動画を見るのが趣味。


 しかし一方で、他の怪異への耐性は非常に低い。特に死に際そのままの血みどろの姿で顕現した幽霊などは大の苦手である。


 能力は、前述のとおり『虫』の祓いと使役。

 憑いた者にパニックの症状を引き起こす『エナちゃん』こと『胞衣えな血積けっしゃく』、過食や悪食を引き起こす『クッチー』こと『脾臓ひぞう悪虫あくちゅう』、眠気を引き起こす『ベッチョウ』などを飼い慣らしている。


 いずれの『虫』も本来強い力は持たず、また憑いてから症状を起こすまでのタイムラグも長い。

 ただし脆弱さゆえに使役者の術によっては容易に暴走させられ、攻撃性を高めるケースがある。


【製作小話】


 プロトタイプ短編版から設定されていたキャラクター。ただしこの時は敵キャラでした。


 作中の人間のキャラは、昔の作家から名前を借りている事が多いのですが、芹子が当てはまらないのは短編版から引っ張ってきているためです。

 名前の由来は日本神話に登場する須勢理毘売すせりびめです。敵キャラの時はもっとヒステリックな性格でした。


 今作における芹子の流派は『虫』を祓い、籠帳に封じて天寿を全うさせるというやり方を取っています。

 医療やカウンセリングの現場で『虫』を使役する場合もありますが、原則として医師と陰陽士が立ち会う事になっています。


 が、既に消えた他の流派の中には、政敵を密かに呪うのに『虫』を利用したり、あるいは捕らえた『虫』を籠帳ごと燃やしたりする集団もいました。


 パンデミック後に知名度の上がった『虫喚び』ですが、かつての同業者のやらかしも噂として広まってしまい、現在も『虫喚び』を知る人ほど嫌っていたりします。


 芹子が大学の講義に積極的に関わったり、常に正装を持ち歩いているのは、そうした悪評の払拭のためでもあるようです。


 ちなみに、兄が三人いてとても可愛がられているという設定があります。諭一から告白された事は兄達に話していないようですが、話していたら一騒動あったかもしれません。

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