第10話

どうやら僕は、どこの誰だか知らない黒色の覆面マスクを被った奴に、ナイフを向けられているようだった。


どうやらとか、ようだったとか。

決まりきっていることさえも、他人行儀な言い方をしてしまうのは、今ある現実から目を背けたいという心根なのかもしれない。


頭の整理が追いつかない。

僕は、殺されるのだろうか?


今まで、生きることにそこまで執着していなかったが、死ぬ局面に直面すると生きること自体にそこまで興味はなくても死ぬことは嫌だったんだと気づく。


どうにか逃げる方法を考えるも、僕を囲う覆面は三人いて、逃げ場がない。

おそらくあの耳打ちをしている図体のでかいやつがリーダー格なのだろう。


軽く睡眠を摂ったつもりが、目覚めると前には警察とどよめく客に、左右には覆面男、首元には鉛色のナイフ。


ついてないな。

もちろん、

ついてることがあったとは言い難いが。


すると、この状況を打開するため、目の前から1人の警察が交渉しようと名乗り出た。

何が目的だと問いかけると、図体のでかい覆面が「金。」と一言だけ呟く。


身代わりになってはじめて気づくが、殺人を起こす人の体温はやけに暖かくて、人を殺そうが、詐欺をしようが、人を裏切ろうが、不倫しようが、どんな悪事を働く者も、人の血が通った生き物なんだと、気付かされる。


お金か。

一体どれぐらいの金額用意するのだろうか。


警察は身代金を用意するために動き始めたが、人質が殺されないために慎重に動いているので、動きはぎごちないものだった。


1時間ほど経ったのだろうか。

嫌という程刺した陽の光は少し沈んできた。

警察は身代金を用意できたようで、

それを覆面に渡した。


そして僕は解放された。



はずだった。


「足りない。もっとだ。」


その場にいた全員が

リーダー格の覆面をみた。


「こんな金額じゃ足りない、もっと用意しろ!」と続けて言う声は荒らげている。


危険と感じた警察が僕の手をとろうとしたとき、「触れるんじゃねぇ」と警察の腕にナイフがささる。


驚いて逃げようとしたその刹那、

脇腹に衝撃的な痛みが襲った。


ほんとについてないな…。

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