第7話

父親である私にとって、息子の死はとても辛いものだった。

続けて息子の親友が命を絶ったと知った時は驚かされたが、何よりも驚いたのは、息子を殺したのが娘である恭子という事実だ。


片親なりに、しっかりしないといけないなと思い厳しく育てあげ、どの家庭からみても私たち家族は、仲が良いといわれるほどに、

しっかりと家族の形をしていた。


唯一懸念とするならば、離婚した妻と不倫相手の間にできた子が恭子かもしれない。

それだけだった。


だからこそ私は誰よりも愛情を持って恭子を育てあげ、まるで家族のように、本当の娘のように接した。


血液検査をする勇気は私にはなかった。

検査した結果が本当の娘じゃなかった時、私はどう恭子に接するべきなのだろう。

変わらないものが変わってしまった時、

同じようにこれからも接することが出来るだろうか。


日に日に恭子に隠し事をしている罪悪感が大きくなり、誰でもいいから話を聞いて欲しいと、息子の相棒にこのことを話した。


正直誰でもよかったのかもしれない。

心を軽くしたかった。

私だけの為に。

罪を自白して他者に許しを乞う為に話した。


彼は、真摯に話を聞いてくれた。

決して楽しい話ではなかったが、気づけば1時間以上話していた気がする。


そして今になって後悔している。


決して話すべきではなかったのだ。

私はこれからも罪を背負って生きていくべきだったのだ。

私が話した話が事実となって恭子に伝わり、その結果息子は死んでしまったのだから。


なんで話したんだと彼を責めることすら出来ない。責めることすらおかしな話かもしれないが。


私の元には残った家族は一体誰がいるというのだろう。浮気していなくなった妻であった香織に、恭子に殺されて死んでしまった息子湊人に、血の繋がりが無いかもしれない殺人を犯した娘の恭子。


だれもいなくなってしまった。

視界すら暗く淀んでみえる。

何も考えたくない。私は罪にのっとり裁かれるのが正しいのではないだろうか。


きっと私は誰にも許されないし、私もわたしを許すことはできない。


謝っても謝りきれない。謝る相手すらもう居ないのだから。


だが、この悲劇を通して気づいたことがある。私は恭子を本当の娘として愛している。

実子ではなくても、私の元に生まれてきてすごした時間は変わらないものであり揺るがないものであるから。


きっと恭子は嫌がるかもしれないが、私は最後まで父親であるために、恭子が書いている小説が公開されるまでに、自ら罪を裁かれに向かうことにする。


ベトベトと黒ずんだ血液がついた包丁を手に持ち、私は電話をかけた。


ブルルルルルル…。



「殺人を犯しました。」

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